満月の歌姫
いつもの、部室。
紅菜「琉々――」
「相変わらず、神様のミッションは無い?」
琉々「うん――」
私は、首を振る。
琉々「何度か足を運んだけど――」
「何も、聞こえないんだよね」
紅菜「そうなんだ~」
「ミッションにも、タイミングがあるのかな?」
琉々「そうかも」
姫心は――。
今日は、剣道部の練習でいない。
麗は――。
いつものように。
パソコンで、何か作業している。
紅菜「あ、そういえば――」
「麗、天嶽神社のアカウントって――」
「どうなってる?」
麗「ちょっと、見てみるね」
麗が――。
パソコンを操作する。
麗「え!?――」
「ちょっと、二人ともこれ見て」
紅菜「なになに?」
私と紅菜が――。
麗のパソコンを、覗いた。
紅菜「なにこれ!?」
「フォロワー、八百三十二人!?」
「え!? どういうこと?」
紅菜「麗、何かやった?」
麗「いや――」
「天嶽神社の写真を、何枚か投稿しただけで――」
「たいしたこと、やってない」
琉々「なんでだろうね?」
「不思議…」
麗「う~ん――」
「ちょっと、調べてみるね」
そう言って――。
麗はパソコンを、カタカタ叩き始めた。
紅菜「もしかして、これも神様のおかげ?」
琉々「たぶん、違うと思う......」
そんな話を、していたら。
麗「これだ!」
「原因、わかった!」
「二人とも、これ見て!」
また――。
二人で、麗のパソコンを覗いた。
* * *
そこには――。
銀髪の少女が。
天嶽神社をバックに――。
歌を、歌っている。
満月の光を浴びながら――。
歌声が、響き渡る。
目元は――。
狐のお面を、被っていて。
歌う口元が――。
とても、印象的だ。
服は――。
和服とゴスロリを、掛け合わせたような服。
黒をベースに――。
ところどころに散りばめられた。
金色の月や花が、目を惹く。
天嶽神社は――。
まるで、時を遡るように。
美しい本殿へと、変わっていく。
麗「このPV、めっちゃいいね!」
「てか、歌めっちゃ上手い」
紅菜「うん――」
「なんか、遠い記憶を思い出させるような――」
「不思議な、歌声…」
(あ――)
(この子、駅ですれ違った子だ......)
(でも、なんだろう)
(何か心の奥に引っ掛かる、この感じ)
麗「この動画――」
「三十万再生も、されてる!」
「この動画にある『#天嶽神社』が――」
「天嶽神社のアカウントが増えた理由かも!」
紅菜「この子のおかげで――」
「天嶽神社が、多くの人に知ってもらえるね!」
「ありがたい!」
麗「そうだね!」
「お祭りに繋がる、良いきっかけになるかも!」
琉々「うん、そうだといいな」
(それにしても――)
(さっきから、急に背中の辺りが痛い)
(なんでだろう? 昨日寝違えたかな?)
* * *
紅菜が――。
何か思いついたかのように、立ち上がった。
紅菜「そっか!」
「天嶽神社で何かやって――」
「動画アップすれば――」
「もっと多くの人に、知ってもらえるんじゃない?」
麗「なるほど」
「悪くないかも」
「でも、どんな動画がいいかな~」
紅菜「う~ん、全然思いつかない」
「とりあえず――」
「手当たり次第、やってみたらいいかもね!」
麗「そうだね」
紅菜「じゃ~、今度――」
「姫心も呼んで――」
「天嶽神社にアップする――」
「動画の企画会議を、しよう!」
私と麗は――。
頷いた。
* * *
後日。
いつもの、部室。
紅菜が――。
ホワイトボードの前に、立って。
紅菜「それでは――」
「第一回、天嶽神社の動画会議を――」
「開始します!」
「みんな、なにかアイデア、考えてきた?」
姫心「無難に――」
「掃除している動画とか、かな?」
紅菜「おぉ~、それ良いね!」
「採用!」
麗「巫女服着て――」
「掃除するとかは?」
紅菜「おぉ~、それも採用!」
琉々「みんなで――」
「大祓を唱えるとかは?」
紅菜「おぉ〜、それも採用!」
紅菜「じゃ~、みんなで、巫女服着てやろう!」
麗「まずは――」
「巫女服を作るところから、かな?」
「で、それ着て――」
「いろんなこと、するってのはどう?」
紅菜「そうしよう!」
姫心が――。
遠慮がちに口を開いた。
姫心「私......」
「顔出すの、ちょっと嫌かも......」
紅菜「え~」
「みんなで着て、撮ろうよ~」
麗「まぁまぁ――」
「私も紅菜と同じ気持ちだけど――」
「姫心が嫌なら、しょうがないよ」
姫心「ごめん......」
「私、撮る役するから――」
「三人の動画、アップするのはどう?」
紅菜「う~ん――」
「やっぱり、みんなで一緒にやりたいから――」
「別の案を、考えよう!」
姫心「わがまま言って、ごめん」
麗「姫心、全然気にしないで」
「なにか別の案を、考えよう」
紅菜「ひとまず――」
「動画アップの件は、保留にしよう!」
「何か、また案が浮かんだら――」
「みんなで、考えよう!」
麗「そうだね!」
姫心「ほんとに、ごめん」
琉々「姫心、ほんと気にしないでね」
その日は――。
解散した。
* * *
夜。
姫心から、メッセージが来た。
姫心「今日は、本当にごめんね」
琉々「大丈夫だよ」
琉々「あんまり、気にしないでね」
姫心「ありがとう」
琉々「もし、話せるならで良いんだけど――」
「顔出したくない理由、聞いても良い?」
姫心「実は、小学生の頃――」
「髪の色とか、目の色のせいで――」
「よく男の子に、いじめられてて――」
「それで、人前に出るのが怖いんだよね」
「同い年くらいの男の子も、苦手で――」
「いじめられたくなくて、剣道始めたの」
琉々「そんなこと、あったんだね」
「私も小学生の頃に――」
「神様の声聞こえるって言ったら――」
「そのあと、いじめられたことある」
「だから、姫心の気持ち――」
「わかるよ」
姫心「そうなんだ」
「私と一緒だね」
琉々「でも、悠真は平気そうだけど......」
姫心「うん、なんか――」
「悠真は、平気なの」
「傷ついた猫を、介抱してるところを――」
「たまたま見て――」
「やさしいなって、思って」
琉々「悠真は――」
「あれだけ動物に好かれるなら――」
「きっと、優しい心を持っているんだろうね」
姫心「そう!」
「悠真は、なんか特別なの!」
「あ、これ――」
「紅菜には、内緒にして欲しい…」
琉々「もちろん」
姫心「琉々、話聞いてくれて――」
「ありがとね」
琉々「うん、私も姫心のこと知れて、嬉しい」
姫心がスタンプを送って来た。
お辞儀をした可愛いキャラ。
私も、スタンプを返して、やり取りを終えた。
(姫心も、私と同じで――)
(いじめられてたんだな~)
(なんか、姫心と距離が近くなった気がして――)
(嬉しい)




