空き家の虫退治リベンジ
次の週。
改めて――。
私たちは、空き家に集まった。
紅菜「これが、うちの弟の樹」
紅菜が、弟を紹介する。
紅菜「樹、みんなに挨拶しな」
樹「は~い」
小学三年生の樹が、元気よく言う。
樹「こんにちは、樹です。こっちが、友達の颯真です」
颯真「はじめまして」
颯真が、頭を下げる。
颯真「樹の友達の、颯真です。樹君に誘われて、来ました」
紅菜「みんな、よろしくね」
それから――。
紅菜が、眉をひそめる。
紅菜「......で、なんで、あんたが、いるわけ?」
悠真「いいじゃん、別に」
悠真が、答える。
悠真「颯真に、手伝ってって言われたんだよ」
颯真(いや、兄ちゃんが来たいって言ったんじゃん......)
紅菜「来たからには、悠真にも、仕事してもらうからねッ」
悠真「OK!」
それから――。
悠真が、姫心に声をかける。
悠真「咲良も、よろしくな!」
姫心は――。
下を向きながら、モジモジしながら。
小さく、頷いた。
それを見ていた麗が――。
何かを、察したようで。
隣で、ニヤニヤ笑ってる。
(麗、変な気、回さないか心配だな......)
紅菜「それじゃ~、虫退治にしゅッぱ~つ!」
みんな「お~」
みんなで――。
マスクをしながら、軍手をはめて。
空き家に、突入した。
* * *
紅菜「琉々と、樹と颯真は、私と一緒に、二階ね」
悠真「俺も、二階手伝おうか?」
紅菜「あんたは、麗と姫心と一緒に、一階の虫退治して」
悠真「へ~い」
姫心の顔が一瞬緩んだのを、麗は見逃さなかった。
麗がニヤニヤしながら。
麗「姫心、今日は、やけに機嫌がいいね?」
「朝、迎えに行った時は――」
「駄々こねて、なかなか家から出てこなかったのに」
姫心「そ......そうだっけ?」
姫心が、慌てる。
姫心「そんなことより、悠真、こっち、来て」
姫心が恥ずかしさを紛らわすように。
悠真の小指を引っ張って、お風呂場に、向かった。
麗はニヤニヤしながら。
「なにあれ、かわいいな~」
「青春だね~」
私は――。
麗の言葉に、敏感に反応して。
一人、ソワソワしてた。
* * *
私と紅菜と、樹と颯真は――。
二階の屋根裏部屋に、向かった。
紅菜が、先頭に立ち。
その後を――。
私と樹と颯真が、続く。
樹は――。
周りの部屋を、キョロキョロしながら。
樹「すげ~、なんか、秘密基地みたいだな、颯真!」
颯真も、廊下を歩きながら。
颯真「うん」と、頷く。
樹は――。
後ろから付いてくる、颯真を見て。
樹「な~、颯真。いっぱい虫取って、一緒に、戦わせようぜ!」
颯真「うん」
と、頷く颯真。
私たちは――。
屋根裏部屋に、到着した。
紅菜は――。
ハシゴの上を、指差して。
紅菜「樹、このハシゴ登ったところに――」
「虫の卵、いっぱいあるから――」
「片付けて」
樹は――。
すでに、ハシゴを登りながら。
樹「颯真、行こうぜ!」
と、颯真に向かって言った。
樹と颯真が――。
ハシゴを登り切って。
屋根裏部屋に、登った。
屋根裏部屋から――。
二人の声が、聞こえる。
樹は――。
目の前の卵を見ながら。
樹「すげ~! 虫の卵、いっぱいじゃん!」
「これ、カマキリの卵かな?」
颯真も――。
卵を見て、言う。
颯真「違うよ。これは、シロアリの卵だよ」
「空き家には結構、住み着くことが多いんだよ」
樹「これ、家に持って帰って、育てようぜ!」
その会話を聞いていた紅菜が――。
樹に向かって。
紅菜「ちょっと――」
「気持ち悪いから、家には、持って帰らないで」
「ちゃんと、ゴミ袋に入れて、その辺に、捨ててよね」
樹「は~い」
残念そうに、答える樹。
颯真が――。
冷静に。
颯真「こんなの、家に持って帰ったら――」
「家中、穴だらけになっちゃうよ」
それを聞いた樹は――。
樹「それ、面白そうじゃん!」
私は――。
その会話を聞きながら。
さすが、紅菜の弟と思った。
二人とも――。
「面白いかどうか」が、判断基準らしい。
逆に――。
颯真は、悠真とは違って。
おとなしい性格だが――。
聡明で博識のようだ。
そんなことを思っていると――。
二人が――。
ゴミ袋に大量の卵を入れて。
降りて、きた。
紅菜が――。
そのゴミ袋を見て。
紅菜「ちょっと――」
「気持ち悪いから、こっちに向けないで」
「ちゃんと、殺虫剤撒いた?」
ゴミ袋を――。
ブンブン振り回しながら。
樹「撒いたよ」
と、樹が答える。
紅菜は――。
楽しそうな樹を、よそに。
「そしたら、今度は――」
「この雑巾で、床拭いてきて」
樹「は~い、颯真も、手伝って」
雑巾を持った二人が――。
もう一度、屋根裏部屋に登った。
しばらくして――。
真っ黒になった雑巾を持って。
二人が、降りてきた。
樹「ねえちゃん、掃除したよ!」
紅菜「サンキュー」
「じゃ~、一階の様子、見に行こうか」
私たち四人は――。
一階に、向かった。
* * *
一階に降りると――。
麗が、立っていた。
麗「待ったよ~」
「台所、手伝ってよ」
「私一人じゃ、無理」
紅菜「あれ、悠真と姫心は?」
麗「二人で、お風呂場の、虫退治してる」
紅菜「私、ちょっと、見てくる」
「樹と颯真は、麗の手伝いしてて」
それを聞いた、麗が――。
麗「これは! 面白い展開になりそう」
と言って――。
紅菜の後を、付いて行った。
(麗――)
(変なこと、しなければいいけど......)
私と、樹と颯真は――。
台所にいる、虫たちを。
殺虫剤で弱らせ――。
ゴミ袋に、入れた。
といっても――。
やったのは、ほとんど樹と颯真で。
私は、近くで見てただけ......
一通り――。
片付け終わったところで。
姫心が、こっちに来た。
琉々「あれ? 姫心、お風呂場の掃除は?」
しょんぼりした姫心が――。
答えた。
姫心「悠真と紅菜が、やってる」
麗も――。
こっちに、戻ってきた。
麗「いつもの『紅菜』『悠真』劇場が始まったから――」
「こっち、戻ってきた〜」
帰ってきた麗が――。
私に、耳打ちした。
麗「ねぇ~、琉々は気づいてた? 姫心のこと」
琉々「うん、麗、あまり変なこと、しちゃダメだよ」
麗「もちろん――」
「私は、いち傍観者として、若者の青春を、見届けたいのさ」
なぜか――。
文豪のような口調で。
遠くを、見ている。
姫心「なに、話してるの?」
琉々「なんでもないよ」
「お風呂場は、二人に任せて――」
「ゴミを、外に持って行こうか」
私たちは――。
虫が大量に入ったゴミ袋を。
樹と颯真に、持ってもらい。
家の外に、出た。
* * *
しばらくすると――。
二人が、出てきた。
悠真「紅菜って、昔から、虫嫌いだよな」
「セミが服についた時も、泣きながら――」
「『悠真〜取ってよ〜』って、言ってたもんな」
自慢げに話す悠真。
紅菜「そんな昔のこと――」
「いちいち、みんなの前で言わないでよ!」
悠真「虫退治、協力したのに、そりゃ~、ないだろう~」
紅菜「それは......ありがとう......」
颯真は――。
悠真を見ながら。
颯真(いや――)
(ただ、紅菜姉ちゃんに、会いたかっただけじゃん......)
紅菜「悠真、このゴミ袋の虫、天嶽神社の山の方に捨てて来てよ」
悠真「紅菜も一緒ならな」
紅菜「私忙しいから、一人で行って来て」
悠真「つれないな〜」
樹「な〜、颯真――」
「今から公園でゴルフサッカーしようぜ!」
颯真「いいよ」
紅菜「なに、ゴルフサッカーって?」
樹「え〜、姉ちゃん知らないの」
「ゴルフサッカーっていうのは」
「いろんな場所のステージからボールを蹴って」
「空き缶に当てるゲーム」
「交互に蹴って――」
「最初に、最終ステージをクリアした人が勝ち」
「姉ちゃんもやる?」
紅菜「やんないわよ。」
「ほんと子供って、変な遊び考えるわよね」
樹「颯真が考えたんだ! めちゃ面白いよ!」
「颯真、行こうぜ!」
颯真も頷き、二人は自転車を走らせ行ってしまった。
紅菜「じゃ〜、私たちも今日は解散しよう!」
「悠真も、ちゃんとゴミ捨てて来てよね」
悠真「一緒に行く?」
紅菜「だから、行かないって」
姫心が何か言おうとして、諦めた。
それを見ていた麗が。
なぜか、うんうんと頷いている。
私たちは自転車に乗り、それぞれ家に帰った。
* * *
後日。
天嶽町にある――。
不動産屋さんの電話が、鳴った。
男性社員「はい、天嶽不動産です」
「え!?――」
「はい......はい......内見ですね」
「わかりました」
「日にちは、いつがいいですか?」
「はい......では、当日ご案内します」
社長「どうした? 内見か?」
男性社員「いや、そうなんすけど――」
「あの虫屋敷を、見たいって言う人がいて......」
社長「あそこか~」
「あそこ、虫のせいで――」
「内見しても、決まらないんだよな~」
男性社員「そうっすよね~」
「ま、今度の土曜日――」
「案内してきます」
社長「よろしく、頼むわ」
男性社員「了解っす!」




