お護摩体験
いつものように――。
部室に入ると。
紅菜と姫心が――。
何か、言い争っている。
「神社の方が――」
紅菜が言う。
「絶対いいに、決まってる!」
「そんなこと、ない」
姫心が、言い返す。
「お寺の方が、素晴らしいもん!」
「神社の方が――」
紅菜が、熱く語る。
「人いっぱいいるし――」
「お寺より、数が多いんだから!」
「それに、仏様の方が後から出てきたじゃん」
「神様は、ずっと昔から――」
「私たちの、そばにいたもん」
「仏様は――」
姫心が、反論する。
「亡くなったあとも、守ってくれる素敵な存在なんだよ」
「それに――」
「仏様の中には、実在した人がいっぱいいるんだから」
「神社の神様って――」
「結局、作り話でしょ?」
「いやいや――」
紅菜が、むきになる。
「神様だって、実在したって言う説はいっぱいあるんだから」
「姫心が、知らないだけ」
「てか――」
「お寺って、なんか重たい空気で苦手なんだよね」
「神社の方が、華やかで好き!」
「お寺は――」
姫心が、力説する。
「修行して、悟りを開いたすごい人がたくさんいるの。」
「だから、厳しい一面も、あるの」
「頭お花畑な紅菜には、わからないよ」
「なにそれ!」
紅菜が――。
頬を膨らませて、むくれる。
麗が――。
「はぁ~」と、ため息をつきながら。
私を見て、苦笑いした。
どうやら――。
神様派の紅菜と、仏様派の姫心が。
言い争っているらしい。
* * *
紅菜と姫心が――。
私を見て、同時に言ってきた。
「琉々は――」
「神様と仏様、どっちがすごいと思う?」
私は――。
答えに、困ってしまった。
神様の声が聞こえるから――。
神様寄りだけど。
仏様に触れる機会が、なかった。
だから、比べられない。
そう考えて――。
困っていたら。
麗が、口を開いた。
「あんたたちね――」
「『神仏習合』って言葉、知ってる?」
紅菜と姫心が――。
首を傾げる。
「なにそれ?」
「簡単に言うと――」
麗が、説明する。
「神様も仏様も分けずに――」
「どちらも大切にしましょうってこと」
「神社の近くにお寺があるのも――」
「その名残なの」
「昔の人が、どっちも受け入れたんだから――」
「あんたたちも争わずに、仲良くしなさい」
紅菜と姫心が――。
黙った。
「はい――」
「二人で、握手」
麗が、言いながら。
二人の手を取って、握手させた。
なんとも言えない表情を浮かべながら――。
握手する、紅菜と姫心。
「麗――」
私は、驚く。
「よく、そんなこと知ってるね」
「今ネットで、調べた」
麗が、笑いながら言う。
* * *
「今度――」
麗が、提案する。
「みんなで、姫心んちのお寺行ってみようよ!」
姫心が――。
目を輝かせて。
「うれしい!」
「みんなに、来て欲しい!」
「毎月二十八日に――」
「お護摩やってるから、その日に来てよ!」
「おごま?」
紅菜が、首を傾げる。
「まんじゅうでも、食べるの?」
「違う!」
姫心が、説明する。
「火を焚いて――」
「お経唱えながら、清めてもらうの」
「ふ~ん――」
紅菜が言う。
「でも、なんか面白そう!」
「いいね!」
「面白そうじゃん!」
麗も、乗り気だ。
姫心が――。
とてもうれしそうに。
「じゃ~、今度の日曜日に――」
「うち、来てね!」
目を、キラキラさせながら。
話す、姫心。
それを見て――。
なんだか、こっちまで嬉しくなった。
* * *
その週の、日曜日。
姫心の家の――。
天光寺に、集合した。
「おじゃましま~す」
紅菜が――。
恐る恐る、門を潜る。
「こっちの手水舎で――」
姫心が、案内してくれた。
「手を、清めてね」
「うちのお寺のご本尊は――」
姫心が説明する。
「『不動明王』なの」
「あの――」
紅菜が言う。
「怖そうな、神様?」
「全然、怖くないよ」
「てか、仏様ね」
姫心が答える。
「魔のものを退けるために――」
「ああいう表情してるだけ」
「さすが、お寺の娘。詳しいね」
麗が感心する。
姫心が――。
得意げな顔で。
「もちろん!」
と、答えた。
姫心に案内され――。
本堂へと、向かう。
途中――。
何尊かの仏像が、祀られていた。
* * *
本堂に入ると――。
すでに数人の人が、座っていた。
中央には――。
先ほど姫心が言っていた。
憤怒の形相の――。
『不動明王』が、祀られている。
姫心に連れられて――。
一番前の方に、座った。
少しすると――。
一人の僧侶が――。
引馨という鈴を鳴らして入ってきた。
その後に綺麗な袈裟を着た人が入って来て――。
最後にもう一人の僧侶が入って来た。
綺麗な袈裟を着た僧侶の方が中央に、座る。
最後に入って来た一人は――。
右側の太鼓の前に、座る。
最初の僧侶の方が、太鼓の反対側に座った。
中央の綺麗な袈裟を着た方が――。
鈴を、鳴らし始めた。
澄んだ音が――。
お堂に響き渡り。
すっーっと、消えた。
その瞬間――。
「ドン!」
太鼓の大きな音が、響き渡った。
あまりの大きさに――。
四人とも、体を浮かせてビクッとなる。
「ドン、ドン、ドン」
何度も太鼓が叩かれる。
気づくと中央に――。
火が焚かれ始めている。
そして、お経が始まった。
火は――。
どんどん大きく。
高く、伸びてゆく。
その間も――。
太鼓の音と、お経が。
堂内に、響き渡る。
* * *
途中から――。
隣で座っている姫心が。
合掌しながら、お経を唱え始めた。
(お経、暗記してるんだ)
(すごい)
なんか――。
姫心の声と、僧侶の方の声が重なり。
すごく、気持ちいい感じ。
私は――。
そのお経を聞きながら。
焚かれた炎を、ぼーっと見ていた。
紅菜は――。
目を、閉じている。
麗は――。
私と同じように。
炎を、じっと見ているようだ。
30分後――。
炎が徐々に小さくなり。
お経を唱える声が消えた。
炎も消え。
静かになったお堂。
先頭の僧侶が――。
入ってきた時と同じように。
引馨を鳴らしながら、出ていく。
もう一人の僧侶も後に続いて出て行った。
最後に炎を焚いていた。
綺麗な袈裟を来た僧侶の方が。
合掌しなが。
私たちの方を向いて軽く頭を下げた後。
「本日は――」
僧侶の方が、挨拶する。
「天光寺の護摩祈祷にお越し頂き――」
「誠に、ありがとうございます」
「ご本尊、不動明王様の炎のもと――」
「皆様の所願成就を願いまして......」
僧侶の方が――。
挨拶をしたのち。
最後に合唱して、お堂から出ていった。
* * *
開口一番――。
紅菜が言った。
「なんか、すごかったね!」
「太鼓の音で、心臓飛び出るかと思った!」
麗も――。
頷きながら、同意する。
私も――。
小さく、頷く。
「みんな――」
姫心が、聞く。
「どうだった?」
「なんか――」
紅菜が答える。
「ちょっと、体軽くなったかも!」
「あの炎が綺麗で――」
麗が言う。
「見惚れてた」
「鈴と太鼓とお経の音が――」
「すごく、心地良かった」
私も、答える。
「でしょ~!」
姫心が、嬉しそうに言う。
「なんか――」
「みんなにお護摩体験してもらえて――」
「私も、とっても嬉しい!」
紅菜が――。
ちょっと悔しそうに。
「お寺には、お寺の良さが......」
「あるかも」
姫心が――。
嬉しそうに、笑った。
それを見ていた麗が――。
「お互い、分かり合えたということで――」
「もう一度、二人で握手だね」
紅菜と姫心が――。
照れくさそうに、握手する。
「これで――」
麗が言う。
「神社部も、神仏習合だね!」
うまいこと言ったと――。
ドヤ顔している麗が、面白い。
「なにそれ――」
紅菜が、すかさずツッコむ。
「なんか、自分の手柄みたいに言わないでよ」
「ほんと、それ」
姫心も、頷く。
珍しく――。
二人の意見が合う。
* * *
紅菜が――。
思い出したかのように。
「琉々――」
「不動明王の声、聞こえたりする?」
私は――。
「あ」と思い。
目を閉じて、話しかけてみた。
(…反応はない…)
「......聞こえないみたい」
「そっか~」
紅菜が言う。
「なんか、相性とかあるのかもね」
「そう、なのかも」
「じゃ~――」
紅菜が、言った。
「やっぱり、アドバイスは――」
「引き続き、天嶽神社の神様に聞くしかないね」
私は――。
頷いた。
「あ~あ、穴掘りとかじゃなくて」
紅菜が言う。
「なんか、美味しい食べ物が食べれるミッション――」
「来ないかな~」
「そんなの――」
「あるわけ、ないじゃん」
姫心が、笑う。
「わかんないよ~」
紅菜は、なぜか自信有り気だ。
「ない、ない」
手を横に振って否定する姫心。
「別に――」
麗が言う。
「神様に言われなくても、食べれるじゃん」
「それも、そうか」
紅菜が、立ち上がる。
「じゃ~、このあと――」
「麗のお店、みんなで行こうよ!」
「さんせ~い!」
三人が、声を揃える。
紅菜「今日は抹茶パフェにしようかな〜」
麗「そういえば、お母さん新作作ってたな〜」
姫心「え〜、じゃ〜私今日はそれにしようかな〜」
(私も新作食べてみたいかも…)
私たちは――。
自転車を走らせ。
麗のお店に、向かった。




