必死の逃走
「誰か、いるのか?」
その声に――。
私と紅菜と麗が、顔を見合わせた。
姫心は――。
すでに、すごい勢いで。
走って、逃げ出している。
もう――。
校舎裏に向かう角を曲がって。
見えない。
紅菜と麗も――。
走って、逃げる。
私は――。
手に持ったシャベルのやり場に困り。
オロオロしていた。
その時――。
紅菜が、戻ってきて。
私の手を、引っ張った。
「琉々、早く!」
私は――。
手に持ったシャベルを、その場に捨てて。
走り出した。
* * *
角を曲がって――。
校舎の裏の方に行くと。
塀に登った姫心が――。
麗を、引っ張り上げている。
紅菜は――。
自力で、登ってる。
私は――。
姫心の手を握って。
塀を、登った。
止めてあった自転車に――。
またがって。
四人で――。
必死に、自転車を漕いだ。
馬のお面は――。
みんな、付けたまま。
* * *
「これだけ遠くに来れば――」
紅菜が言う。
「もう、大丈夫だよね」
「びっくりした~」
麗が、ため息をつく。
「ほんと――」
「捕まらなくて、良かった」
姫心も、安心する。
「それにしても――」
紅菜が、驚く。
「さすが、剣道部」
「姫心の逃げ足、めっちゃ早かったね」
「気づいたら――」
私も、頷く。
「姫心、いなかったもんね」
「人間って――」
「あんなに早く走れるもんなんだね~」
麗が、感心している。
「なんか――」
姫心が言う。
「危険を感じて――」
「気づいたら、体動いてた」
紅菜が、笑いながら。
「姫心は、臆病だな~」
三人して――。
笑った。
* * *
「は~」
麗が言う。
「それにしても――」
「必死で自転車漕いだから、喉乾いちゃった」
「コンビニ、寄ろうよ」
私たち三人は頷く。
近くのコンビニに――。
自転車を停めて。
コンビニに、入った。
馬のお面を被った――。
女子高生が四人。
コンビニの自動ドアから、入ってくる。
一人の店員さんが――。
ギョッとして。
こっちを、見ている。
もう一人の店員さんは――。
クスクス、笑っている。
四人とも――。
必死だったから。
馬のお面を取るのを、忘れてた。
「あ、お面」
麗が、気づいて。
お面を、脱いだ。
姫心が心配そうに。
「まだ――」
「被っとこうよ」
「バレたら、怖いし」
「大丈夫、大丈夫」
麗が、笑う。
「姫心は――」
「心配性なんだよ」
紅菜も、お面を脱ぐ。
私も――。
前が見づらいから。
お面を、脱いだ。
* * *
四人で――。
飲み物を買って。
コンビニの外で、休む。
「なんか――」
紅菜が言う。
「疲れた~」
「ほんと、それ」
麗も、頷く。
姫心は――。
馬のお面を被ったまま。
頷いた。
「とりあえず――」
紅菜が口を開いた。
「小学校で穴掘りしたから――」
「神様のミッション、クリアかな?」
「そう――」
「だと、思う」
確信はないが、私は答えた。
紅菜が――。
グーッと、背伸びをしながら。
「じゃ~、今日はこれで解散しよう!」
三人で――。
頷いた。
私たちは――。
自転車を走らせ。
家に、向かった。
汗ばんだ体が――。
秋風に、さらされて。
熱った体を、冷やしてくれる。
神様のミッションは――。
まだまだ、続きそう。
* * *
その頃――。
体育館裏の倉庫前。
穴だらけの地面を見て――。
男性教師が、つぶやく。
「誰だ――」
「こんなイタズラしたのは」
掘られた穴を見ながら――。
ふと、思い出した。
(そういえば――)
(この辺に、タイムカプセルを埋めたな)
目の前にある――。
大きな木の下を。
シャベルで、掘り出した。
「あった!」
掘った地面から――。
お菓子の缶が、出てきた。
それを取り出し――。
中を、開ける。
子供の頃に夢中だった――。
ビー玉や、メンコが入っていた。
「懐かしいな~」
そう言いながら――。
中のものを、取り出した。
その中にあった――。
青い花飾りを、手に取った。
「あ~」
「こんなところに、あったのか」
それを見つめながら――。
子供の頃に行った。
天嶽神社のお祭りの思い出が、蘇る。
* * *
友達と、待ち合わせた。
お祭りの日。
待っている時に――。
三人組の、同い年くらいの女の子と。
すれ違った。
私の――。
一目惚れで、初恋の人との出会い。
通り過ぎる、彼女の後ろ姿を。
見つめていた。
見えなくなって――。
ふと、足元を見ると。
彼女が付けていた――。
青い花の髪飾りが、落ちている。
それを、拾った。
届けようと思ったけど――。
もう、姿は見えない。
「ゆうき、お待たせ」
「それ、なに?」
「いや、なんでもない」
そう言って――。
髪飾りを、ポケットに押し込んだ。
それから――。
彼女に返そうと。
学校中を、探したけど。
見つからなかった。
で――。
この缶に、入れたんだ。
* * *
彼女とは――。
その後、思わぬ形で出会った。
教師をしている私は――。
出会いもなく。
両親の勧めで、お見合いをすることに。
そこにいたのが――。
あのお祭りの時に見た、彼女だった。
間違いない。
あの時見た笑顔と同じ。
笑った時のエクボの位置が一緒。
心臓が壊れてしまんじゃないかと思うくらい
鼓動が早まった。
それを隠して。
私は必死に笑顔を作った。
彼女に少しでも好かれるために。
それから――。
私の猛アプローチで。
結婚し、子供ができ――。
そして、十年前に。
彼女は亡くなった。
もう一度――。
髪飾りを、見る。
「人は――」
「思い出の品一つで――」
「いつでも、過去の大切な時間に戻れるんだな」
私は、そう呟きながら。
彼女と初めて出会った時の。
あの初恋の気持ちが。
身体中に広がるのを感じた。
そして、お菓子の缶を――。
大切に取り出し。
傍に、抱えた。
「久しぶりに――」
「天嶽神社、行ってみるか」




