チラシ配り
後日。
天嶽駅前。
私たち四人は――。
自転車で、集合していた。
「はい、これ――」
姫心が、大きな袋を持って。
「みんなの分」
チラシの束を、配ってくれる。
「ありがとう~!」
麗が受け取る。
「重くなかった?」
「全然平気」
姫心が笑う。
「結構印刷したから――」
「お父さんから、あまり無駄遣いするなよって言われた」
チラシは――。
姫心の家のお寺に。
業務用のプリンターがあるということで。
印刷してもらった。
「よ~し!」
紅菜が、拳を上げる。
「それじゃ、みんなで配ろう!」
「おぉ~!」
私たち三人も、拳を上げた。
* * *
「天嶽神社のお祭りに――」
「協力お願いします~!」
四人で――。
それぞれ、声を出して。
チラシを、配り始める。
でも――。
私は、恥ずかしくて。
小さな声しか、出せなかった。
(恥ずかしい......)
隣の姫心を見ると――。
姫心も、私と同じように。
恥ずかしそうにモジモジしてる。
紅菜と麗は――。
全然平気みたい。
大きな声で。
笑顔で。
チラシを、配っている。
(こういう時――)
(この二人は、頼りになる)
私も――。
頑張らなきゃ。
「お願いしま〜す」
その時――。
駅から出てきた少女の――。
大きなキャリーバッグが、私の足を引いた。
「痛っ」
彼女は、私に気づかず。
通り過ぎていった。
銀色の髪が、風に揺れる。
白く、透き通るような肌。
紅い瞳には――。
どこか、憂いが宿っている。
黒いワンピース。
裾には、月と星の刺繍。
レースが、幾重にも重なっている。
和とゴシックが、融合したような。
不思議な、装い。
この世のものとは思えない――。
儚げな雰囲気を纏った少女。
そんな彼女の後ろ姿を――。
ぼんやりと、見ていた。
「琉々、どうかした?」
紅菜が心配そうに聞いてきた。
「ううん、大丈夫」
そう答えながら――。
彼女の後ろ姿を、見ていた。
* * *
配り始めて――。
一時間ほど。
「全然、もらってくれないね~」
麗が、ため息をつく。
「世間は――」
「女子高生に、厳しいよ~」
紅菜も、肩を落とす。
「諦めずに、頑張ろう」
姫心が、励ます。
そんな話をしていると――。
「君たち」
声がした。
振り向くと――。
警察官が、近づいてきた。
「え!?」
姫心が、固まる。
「警察の人が、こっち来る!?」
「え!? なんで!?」
紅菜が、慌てる。
「私たち、なんかした?」
紅菜が――。
逃げ出そうとする。
その瞬間――。
麗が、紅菜の首根っこを掴んだ。
「こらこら」
麗が、冷静に言う。
「逃げたら、余計怪しまれるじゃん」
「う......」
紅菜が、観念する。
* * *
「君たち――」
警察官が、私たちの前で止まった。
「清杜高校の、生徒さん?」
「は、はい......」
私たちは、頷く。
「ちゃんと、許可取ってる?」
「許可......?」
紅菜が、首を傾げる。
「道端でチラシ配る時は――」
警察官が、説明する。
「ちゃんと、道路使用許可を取らないとダメだよ」
「今日は、もう帰りなさい」
その言葉に――。
私たちは、言葉を失った。
許可が――。
必要だったんだ。
知らなかった......。
「は~い......」
麗が、小さく返事をする。
麗の後ろに――。
紅菜と姫心が、隠れている。
二人も――。
小さく、返事をした。
私は――。
怖くて、固まっていた。
* * *
麗の実家の喫茶店。
天嶽町にある――。
「甘味処・たまゆり」
落ち込んだ私たちは――。
ここに、逃げ込んできた。
「は~い、お待たせ」
麗のお母さんが――。
トレーを持って、やってきた。
「たまゆりあんみつ、二つに――」
「栗蜜プリン」
「抹茶パフェね」
テーブルに、次々と並ぶ。
綺麗で、美味しそう。
「わ~、おいしそう!」
紅菜が、目を輝かせる。
「麗は、毎日こんな美味しいの食べれるなんて――」
「羨ましい~」
「毎日食べれるわけないじゃ~ん」
麗が、苦笑する。
姫心は――。
抹茶パフェを。
幸せそうに、頬張っている。
「んん~......」
悶えている。
よっぽど、美味しいんだろうな。
「ねえ、姫心――」
紅菜が、手を伸ばす。
「パフェ、ちょっとちょうだい」
「ちょっ――」
姫心が、慌てる。
「勝手に食べないでよ!」
「いいじゃん」
紅菜が、笑って。
「はい、白玉あげる」
自分のたまゆりあんみつの白玉を。
姫心のパフェに、乗せた。
「もう......」
姫心が、困った顔をする。
でも――。
嬉しそう。
「それにしても――」
麗が、ため息をつく。
「チラシ作戦、ダメだったね~」
「そういえば――」
紅菜が、ふと思いついたように。
「麗のお店に、チラシ置かせてもらえないの?」
「もう、置いてるよ」
麗が、店内を指差す。
「ほら、あそこ」
雑誌が並んでいる棚に――。
チラシが、綺麗に置いてある。
「ほんとだ」
私は、気づかなかった。
「麗のお店みたいに――」
姫心が言った。
「いろんなお店に、置いてもらうのがいいのかな?」
「その方が、いいかもね」
麗が頷く。
「駅で配ると――」
「また、怒られちゃうもんね」
「いや~」
紅菜が、ぶるっと震える。
「警察官には、ビックリしたよね~」
「ほんと、怖かった~」
「ほんと――」
姫心も頷く。
「警察署に、連れて行かれるんじゃないかと思ったよ」
それから――。
姫心が、私を見た。
「それにしても――」
「琉々は、意外と冷静だったね」
「え......」
私は、首を振る。
「いや、怖くて固まってただけ......」
「ウケる!」
紅菜が、笑い出す。
「琉々、顔固まってたんだ!」
それから――。
紅菜が、無表情で固まってみせる。
私の、真似。
「そんなじゃないよ〜」
私は、反論する。
「紅菜だって――」
「麗の後ろで、ブルブル震えてたくせに~」
私も――。
紅菜の真似をする。
麗の後ろに隠れて。
怯えている、紅菜の真似。
「あはは!」
麗と姫心が、笑い出す。
「二人とも、ウケる!」
四人で――。
笑い合った。
警察官は怖かったけど――。
今は、笑える。
みんなと一緒だから。
* * *
笑いが落ち着いて――。
紅菜が、真剣な顔で言った。
「とりあえず、当面は――」
「各自、いろんなお店に行って」
「チラシ置いてもらう作戦にしよう」
三人とも、頷く。
「置いてもらえるといいね~」
姫心が、少し不安そうに言う。
「大丈夫でしょ!」
紅菜が、明るく笑う。
その笑顔が――。
私たちを、元気づける。
* * *
帰り際――。
「ごちそうさまでした」
私たち三人は――。
麗のお母さんに、お辞儀をした。
「気をつけてね」
お母さんが、笑顔で見送ってくれる。
「はい」
紅菜「麗またね〜」
麗「うん、また学校で」
私と姫心も麗に手を振る。
私たち三人は――。
それぞれの家に向かって。
自転車で、走り出した。
今日は――。
失敗だったけど。
でも――。
また頑張ればいい。
紅菜が、いつも言うように。
「できることから、少しずつ」
私たちは――。
お祭りの実現に向けて進み続ける。
夕日が――。
私たちの背中を。
温かく、照らしていた。




