それぞれの役割
誓断輪廻 転生した異世界で課せられたルール。最後の一人が決まるまでにしていけないこと。『人殺し、死、自殺』
カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称
玩狗 転生者、転移者たちの総称
十の牙 デケンティス
この世界でカニスに与えられている10の種族名
「村の中で衝突があった時、ロドルフォさんがみんなの間に入ってくれませんか?」
ロドルフォさんは口は悪いが責任感は人一倍強い人だ。
きっと、みんなのまとめ役、相談役をやってくれる人だろう。
だからこの人には生きていてもらわなければ困る。
マットもドルゴさんがいなくなった今、経験豊富な大人がこれ以上減ってしまうとこの村の住人は迷ってしまう。
だからまだ生きていてもらう。
人を利用するようなこんな考え方は嫌いだ。
だが、そうやって生きる理由を与え、繋ぎ留めていないと、みんながバラバラになってしまう可能性がある。
この地に元々住んでいたドワーフとテリア、そしてプリムス村から移住してきた俺たち。
生まれも種族もバラバラな俺たちは、少しの綻びで関係性が崩壊してしまう恐れがある。
そうならないようにするには、話を聞く人が絶対に必要になる。
口の悪さで誤解を招きやすいこの人は、本来なら向いていないだろう。
マットやドルゴさんの方が適任なのは周知の事実だ。
だが、その二人はもういない。
なら誰かがその役割を担うしかない。
この人はもう狩りにも出ることができない体になってしまった。
なら、その後ろめたさを利用する。
それは最低な考えだ。
だけど、もし自分がロドルフォさんの立場なら…何もできない自分に役割を与えられたら…。
その役割だけは全うしようと思うはず。
それが多分、責任感というやつだと思うから。
「…………わかった」
ロドルフォさんは短くそう答えた。
それ以上は何も言わない。
多分、俺が何を考えているのかも全部わかっていると思う。
そして一度顔を伏せたかと思ったら、勢いよく顔をあげた。
その顔からは、この人らしくない弱々しさはすでに消えていていつものロドルフォさんの顔つきに戻っていた。
「シアンついて来い」
そう言うと、村の方に歩いていく。
そして最初に訪れたのはルカとララの家。
扉を叩き、返事が来る前に扉を開けてしまう。
ルカとララはテーブルに項垂れたまま、顔をこちらに向けて
「何?」とだけ返事をする。
この二人は坑道の中の荷物や廃材の運搬を任されていたため、ドルゴさんに可愛がられていた。
ドルゴさんが亡くなって、この二人も俺と同様ふさぎ込んでいた。
「ルカ、ララ。お前らどちらかシアンと一緒にエルフの森まで同行してやれ」
ロドルフォさんがそう言うと、二人はわずかに顔を上げ、話を聞こうと言う姿勢を見せる。
「俺が偉そうなことを言えた立場じゃねえのはわかってる。だけどもう塞ぎ込むのはやめだ。シアンはあの雪原を超え、エンパスまで向かう。その道中、お前らどちらかがシアンを案内しろ。一度はここまで俺たちで通った道だ。お前らなら案内できるだろ?」
そこまで聞いたときには、二人の顔は完全に上がり、これから自分たちがどうするのかを想像している顔をしていた。
片方は俺の案内をするが、もう片方はここで今まで二人で行っていた運搬の仕事を一人で行わなければならない。
残された方の労働負担は上がる。
でも二人の顔に「めんどくさい」という表情はなかった。
「なんでシアンはエルフの森に行くの?」
その問いは、最後の一押しを欲しがっているような…自分たちがもう一度頑張るための理由が欲しいようなそんな質問だった。
誓断輪廻に関係ない人をこれ以上巻き込みたくないから、本当のことを全て言うことはできないが
「同じような悲劇を繰り返さないため…それと、この責任を全て背負おうとしているアンナの手助けをするために行く」
と、俺の本心だけはしっかりと伝える。
それを聞いたララの方が、先に立ち上がり
「アタシ、アンナちゃんとしっかりお別れしてない。もう会えないのかもって思うと寂しくて…どうして行っちゃうのかもちゃんと聞いてない。仲良かったはずなのに…アタシもアンナちゃんの助けになりたいだから…!」
ララが言い終わる前に、ルカが立ち上がって、俺の前に立つ。
「ララを任せるわ」
そう言ってルカは服を脱ぎ始め、仕事の時に着ていた服に着替え始める。
今まで動かずに鈍っていた体を伸ばし始め、少しだけ首を掻きあくびをしたと思ったら、外に出て行ってしまった。
話を聞くのが面倒で切り上げたんじゃない。
ララの「アンナを助けたい」という気持ちを汲み取り、そのためには自分が残らないといけないと理解したんだと思う。
数年前に一度はロドルフォさんと通った道。
ルカはその道がどういうところだか知っている。
それに二人でいつも行っていた労働を村に残った方が一人でやらなければならない。
自分が重労働をやる。その代わりに、妹の安全は任せる、そう一言だけ伝え、自分の役割をこなすために頭を切り替えたんだと思った。
これも普通の人間の頭の切り替える速度とは少し違う。
ロドルフォさんもルカもララも、おそらくシベリアの犬の血統がそうさせているのかもしれない。
「あとは誰を連れてくんだ?シュウとグレーターのやつはここに残るんだろ?」
と、ロドルフォさんに質問される。
その質問の答えはもう決まっていた。
今まで目を逸らしてきた疑問に、答えを出さなければならない。
「マコトを連れて行きます」
俺の中で、最もわからない存在。
それがマコトだ。
アンナがカガチに襲われている時、マコトは俺のそばにいた。
つまりアンナが転生者と言うことを、マコトは聞いている。
だけど、その言葉にピンときている様子はなかった。
俺はマコトが転生者であると読んでいたが、答えを出すのを恐れ、ずっとその疑念から逃げてきた。
だけどそうも言ってられないところまで来てしまった。
マコトには犬の特性とは違う、不思議な能力がある。
もし何か能力があるのなら、マコトもアンナを助けてくれるはずだ。
プリムスの村の頃からマコトのことはずっと見てきた。
俺の幼馴染は、人を騙し続けるような器用な真似ができる子ではない。
この世界に生まれたものが、何か特殊能力を持っていないという保証もないのだ。
人間の中には魔法が使えるものもいる。
だから、その可能性に賭け、俺はマコトに転生者であることを打ち明け、確認する。
そうしなければ、前に進めない気がしたから。
ララにはまた後で来ることを伝え、俺はマコトの住む家に進む。
俺が来ることを察していたのかはわからないが、マコトは家の前で座って待っていた。
「アンナ行っちゃったね」
と、元気の証である耳と尻尾は無くなってしまったのかと錯覚するくらい垂れてしまっていた。
マコトにとって、アンナは面倒見のいい姉のような存在だった。
だから、マコトも俺と同じ気持ちだと…俺は勝手に思い込んでいた。
「もし、アンナのことを助けられるなら…マコトは助けたいって思う?」
俺のその質問にマコトは迷うことなく、「うん」と即答した。
なぜ助けたいのか?マコトに確認する前に、俺はマコトに
「俺も助けたい。俺もアンナと同じ転生者だから」
と、正直に伝えた。
マコトは少し首を傾げ、耳をピクピクと動かしている。
それは俺が転生者であることに初めて気づいたリアクションではない。
『てんせいしゃ』と言う単語が理解できていない。そういったリアクションだった。
それでもう俺の中では十分だった。
「ごめん。なんでもない。アンナを助けるためには、この地を離れなくちゃいけない。マコトのお父さんとお母さんとも、ここでお別れすることになる。それでも…アンナを助けたい?」
そう聞くと、またしても即座に「うん!」と強く頷いてくれる。
ならば俺はその力強い頷きを無駄にしないために、考える役をやろう。
それが俺が父にもらった名前の意味。
誰が、どの役割が適しているか思案し続ける役割。
こうして俺たちの進む道と歩む者が確定した。
助けたい人を本当に助けるための遠回り。
患難辛苦が続く長い道のりの第一歩。




