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任け犬の遠吠え  作者: 飆キルトロ
第三章 嘘
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アンナの過去

誓断輪廻せいだんりんね 転生した異世界で課せられたルール。最後の一人が決まるまでにしていけないこと。『人殺し、死、自殺』


カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称


玩狗がんぐ 転生者、転移者たちの総称 


十の牙 デケンティス

この世界でカニスに与えられている10の種族名


神が私にくれた能力がなんなのか、転生時の私はよくわかっていなかった。


『惚れたら負け』


その言葉は私の世界でもたまに耳にする言葉でした。

色恋の話でしか聞かないその言葉に、意味を感じることもなく、聞き流していました。


気がつけば、私はこの世界で産声を上げました。


私が生まれたのはアルビオン王国の西に位置するアルトヴァッへという街。

大草原に囲まれながらも街は栄え、人間とカニスが共生し、様々なエリートを王国に輩出してきた由緒ある街でした。


私はその街の、ジャーマンシェパードの夫婦である父ディートリヒと母ヘルガの一女として生まれました。

両親共に王国に仕えたエリート。

子供が生まれた夫婦は一時的に王国から離れ、この緑溢るるアルトヴァッへで子供に情操教育を与え、いずれ子供と共にアルビオン王国に帰る。


私もいずれアルビオン王国の騎士として仕えるのだと母に言われていました。

この時の私はまだ、この世界に転生させられた理由を、女神から聞かされていませんでした。

だから

「私がこの世界に来たのは、何か世界の役に立つためなのかもしれない」

と、まるでアニメのヒロインになったかのように、期待に胸を膨らませていました…。


前の世界で私は犬が好きで、自分だけじゃなく他にも様々な犬種の獣人がいることにワクワクしました。


アルトヴァッへに住んでいたカニスは私の種族であるジャーマンシェパードだけでなく、ジャーマンシェパードとよく似た種族も住んでいました。


ベルジアン・シェパード・マリノア。

ダッチ・シェパード。


私が転生する前の世界ではあまり見かけることはなかったですが、世界で様々な活躍をしていたシェパード。


私はこの世界で、自分が本でしか知らなかった犬種が、人間と同じ姿をして共に暮らしている事実が楽しく、女神が言っていた『惚れたら負け』が何を指すのかもすっかり忘れ、新しい人生を謳歌していました。


「こんにちは!」

「こんにちは。アンナちゃんは今日も元気で、可愛らしいね」


この街に住む人は人種も種族も問わず、みんな優しい。

裏に住む人間のおじさんも、私たちを差別なんてせずいつも優しく挨拶してくれ可愛がってくれました。


ただある日、沸々と感じる違和感に気づき始め、私はその言葉の意味をだんだんと理解することになりました。


異変を感じたのはちょうど皆さんと出会う前、四歳の誕生日を迎えた日のことです…

そろそろアルトヴァッへから離れ、アルビオン王国に帰還する頃合いが近づいていた日の夜遅く、父と母が何やら話し合っているのを耳にしてしまいました。


「最近この街の『男』どもがアンナのことをやたら目で追っている?」

「そうなんです。私も最初は気にならなかったんですが、何やら視線が変で…」


私自身、その時はやたらと誰かと目が合うな…くらいにしか思っていませんでした。


「気のせいではないのか?」

「私の考えすぎなのでしょうか?」

「次からアンナと出かけるときは俺も同行することにしよう」

「そうしてくれると…助かります」


二人の会話を聞いてしまったその日から、私自身もただの違和感ではないことに気づき始めました。


『娘さん。今日も可愛いね』

『将来は美人さん確定だ』


やたらと誰かが話しかけてくる。

しかも話しかけてくるのは…人間とカニスの男の人ばかり…


『娘さん成長期でしょ?もっといいもの食べてくださいよ』

やがて視線や声がけだけでなく、貢ぎ物を送ってくる人まで現れました。


同年代のカニスが話しかけてくるだけなら理解はできました。

ですが、別人種である人間までもが私に笑顔でやたら話しかけてくる。

私はだんだんその笑顔が不気味に思え、怖くなってきていました。


父と母は何度も断り続けましたが、来客が途絶えることがない。

痺れを切らした父がある日、来客に向かって怒鳴りつけました。


「いい加減にしてくれ。娘はまだ四歳だぞ!そんな娘相手にお前らどうかしちまったのか!」


その言葉を聞き、家の前に集まった来客たちは一度、シン…と静まり返りました。

ですが、誰かが小さな声で言ったんです。


『うるせえな』と。


その時の声は今でも頭から離れません。


楽しんでいる最中に叱られた人が吐く捨て台詞のような、そんな冷たい言葉。


それが事のきっかけでした。

今まで何度断ってもくる男の人たちに、我慢の限界がきた父は全身の毛を逆立てながら牙を剥き、全力で威嚇しました。


「ふざけるな!誰だ!今『うるせえ』と言ったやつは!お前らのせいでどれだけ迷惑しているかわかっているのか!?」


大柄な父の一喝は街全体に響くんじゃないかと思うほど大きく、怖いものだったので皆怯えると思いました。

だが、そうはならなかった…。


二言目に聞こえた言葉に、私たちは耳を疑いました。


『お前のモノじゃねえだろ』


それが何を指しているのかしばらく理解できませんでしたが、私の目の前に男の人の手が伸びてきて、何を指しているのかを察しました。


「娘に触らないで!!」

私の母が伸びた手を掴み、私を助けてくれる。

ですが伸びてくる手は一つではない。


一つ、二つ、三つ…。

群衆の中から私に向かって手が伸びてくる。

それを見た父が、ついに伸びてくる手に噛みつき、一つの手を引き摺り出しました。


「…うそ」


父に引き摺り出されたのは、後ろに住む人間のおじさん。

途端にいつも交わしていた挨拶の

『今日も元気で可愛らしいね』という言葉に恐怖を覚えました。


私は怖くなり、泣きながら叫んでしまいました。

「やだ…帰って、帰ってよ!!」と…。


その言葉がただの虚しい叫び声に終わるものだと、思っていたのに…。

家の前に集まっていた人たちはまるで操られたかのように、虚な表情でその言葉に従い帰っていきました。


あまりにも異常な光景。

数日後にこの街から離れる予定でしたが、父は予定を早め、まるで逃げ出すように、その日の夜にこの街から離れることを決意しました。


決意したものはいいものの一つ問題がありました。


アルトヴァッへからアルビオン王国までの距離は走っても三日はかかる。

年頃の子供を抱えて飲まず食わずでは、難しいと判断した父は、食料を調達するために一人、身を隠しながら街に出ました。


父が帰ってきたら、即、街を出れる準備をしていた母と私ですが、どれだけ待っても帰ってこない父。

何かあったのかと、母は私を抱えながら匂いで父の歩いた道を辿り、探しました。


その時、ふと私は気づきました。

父は姿を隠していたが、この街には優秀な追跡能力を持つカニスが、たくさんいる…と。


父の歩いた道には、父の跡を追うように、無数の匂いが集まっていくのを感じました。

そしてどの匂いにも嗅ぎ覚えのあるもの。


『娘さん。今日も可愛いね』

『将来は美人さん確定だ』


平和な街の何気ないはずだった挨拶が不気味に思えてきました。


そして、父の匂いが最大に濃くなる広場の真ん中で、理解したくない匂いが混ざった父の姿が…。


遠く離れていてもわかる。

父がどうなっているのか…。


広場の真ん中に充満しているのは体温を感じさせない血の匂い。

複数の匂いが父の周りに集まり、そして離れていった跡。


母が父に近づき、「あなた…?」と小さく声をかけながら布に隠されていた父の顔を確認し、顔を背けました。


私もその無惨な姿が視界に映り、動揺して泣き叫ぶと、その声に呼応するように広場の影から無数の眼光がこちらを見つめていました。

その時ふと、女神に言われたある言葉を思い出したんです。


『嫉妬されるのも才能よ』


父がこうなったのは…私が悪いんじゃないのか?

私が何かこの人たちを狂わせる何かをしているんじゃないのか…と。

あの時、女神の顔が笑っていた理由がようやく理解できました。


女神が面白いと言っていたのは、私の本質ではなく、私がどういう末路を辿るかなんじゃないのか。


ああそうか…異世界転生すれば、楽しくて、ワクワクするような来世が待っているなんて…ただの幻想で…私がもらったのは呪いで…神に弄ばれていたんだと。

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