本当の姿
誓断輪廻 転生した異世界で課せられたルール。最後の一人が決まるまでにしていけないこと。『人殺し、死、自殺』
カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称
玩狗 転生者、転移者たちの総称
十の牙 デケンティス
この世界でカニスに与えられている10の種族名
「こんな遅くに訪れてしまって、申し訳ありません」
アンナはそう言うと、俺たちに向かって深々と頭を下げる。
その仕草が少し他人行儀だと感じたが、俺は黙っていた。
だが、カーネは「そういうのやめよ?」と頭を上げさせ部屋に入るように促す。
アンナは即座に頭を上げ、急ぎ部屋の中に入る。
もう全員が揃うことがないテーブルと椅子。
その中心にある蝋燭を灯し、俺とカーネとアンナが座る。
彼女は話があると言っていた。
その話の内容はおおかた予想がつく。
だから俺からは彼女に何も問い掛けず、ただアンナの話を傍聴していようと、そう思った。
「話って何?今までどこにいたの?心配してたよ?」
カーネがアンナに質問をする。
口調はいつも通り優しい。
カーネにとってアンナもまた娘同然、マットが死んだこととアンナが無関係なことをカーネも知っている。
だから今まで通り、母親として接している。
アンナは大きく息を吸い、覚悟を決めたように切り出した。
「私はこの世界のものではありません」
今回のこの事件、その表面の部分だけ説明するのかと思った。
『私は神から与えられた不思議な力があり、そのせいでこの村は襲われた』と…。
そうした方が楽でいい。
アンナだって今回の件の被害者であるし、神が勝手に付与した力のせいで狙われたのだから。
この世界に転生すること、それと力を授かることを自ら望んだのであれば話は別だが、アンナ自らその仮面の下に隠した能力を『呪い』と称していた。
なら全てを語る必要なんてない。
それを説明してしまったら、なぜ過去も能力も隠していたのか…問い詰められてしまう。
それなのに彼女は…自分の知っている全てを打ち明ける勢いで、語り始めた。
「私はこの世界とは別の世界から来た…元…人間です。
この世界には神に選ばれ、生まれ直す転生という形で来ました。
なぜ神に選ばれたのかは…私にもわかりません。
ただ前の世界の私は普通…いえ、少し変わり者だったかもしれませんが、なんの能力もない人間でした」
自分がこの世界ではなく、別の世界の住人であったことも。
「私がいた前の世界はこの世界とは文化レベルがかなり違いました。
遠くの人と会話できる便利なものや、遠くまで歩かずとも人を運んでくれる鉄の箱。
火を使わずとも料理ができ、部屋を明るくすることも可能でした…。
この世界の文明よりも遥かに発展していて、便利で不自由は少ないのに、息苦しい、そんな世界でした」
カーネは何も口を挟まない。
俺と同じように、ただ黙々と話を聞いている。
「そして何よりも違うのが、私たちの世界にはカニスという獣人が存在しませんでした。
私たちが持っている特徴をよく似るものは、私の世界では『犬』と呼ばれる四足歩行で歩き、言葉を交わすことは出来なくとも、人に寄り添い、共に暮らす動物として存在してました」
「いぬ…?」
ようやくカーネの口から出た言葉は、この世界では存在しない動物の名前。
転生者である、俺やアンナ、そしてあのカガチと名乗る影だけが口にする、最も人間に近しい動物の名前。
「はい。私の種族である、ジャーマン・シェパードと呼ばれる種族も。
マコトの柴、シュウくんの秋田。ヘイミッシュさんのウエスティ、ドゥーガルさんのスコッチなど。
名称がある種族は全て、私の世界では『犬』と呼ばれ、人間と共に暮らしていました。
なぜ、その『犬』と呼ばれる動物がこの世界では存在せず、その名称と特徴を引き継ぎつつも、人間とその『犬』の中間である獣人である、私たちカニス・アミークスがいるのかは何も説明を受けていない私には…わかりません。ごめんなさい…」
アンナはもしかしたら、元々犬種について詳しかったのだろうか?
俺はヘイミッシュさんやドゥーガルさんの種族である、ウエスティや、スコッチのような犬種を知らなかった。
「それだけじゃなく、ドルゴさんたちドワーフも、それにどこかにいるエルフも私の世界には存在せず、物語に登場するだけの架空の存在のはずでした。
もしかしたら私をこの世界に連れてきた神なら、この世界のことを知っているかもしれませんが…神はほんの僅かな説明だけをしただけで、聞きたいことも詳しいことは教えてくれず…そのまま私はこの世界に産み落とされました」
アンナも俺と同様に、何も説明がないままこの世界に連れてこられ、何もわからないまま…産み落とされたのか。
「ただ…」
アンナは何かを言いかけたが、一瞬ためらい、言いかけた言葉を飲み込んだように見えた。
「ただ…神は私にある力をくれました。それが今回、この村を襲ってきた連中の目的…です」
神はアンナにこう告げたらしい。
『可哀想な娘…お前はただ自分らしく生きていただけなのに…お前の周りの人間はそれが理解できず、嫉妬し、その嫉妬心を発散するためだけにお前を追い込んだ。
それを抵抗もせず、受け入れるお前もまた愚かだとは思うが…面白い。ふふ、本当に面白い。
嫉妬されるというのはある種の才能よ?だから、お前をいじめてきたような奴が嫉妬で狂うような力をあげる。
どんな屈強な『男』も、どんな頭脳を持つ『男』も、どんな権力を持つ『男』もお前に跪き言うことを聞く。
その力で見返してやりなさい?いくら嫉妬しようが、無駄だって。
あなたたちの世界にはこんな言葉があるでしょ?』
「惚れたら負け、だって…」
それがアンナが仮面をつけていた理由。
そしてあの時アンナを見つけた時に、マットの意識が朦朧になっていた元凶か…。
「この力は、持ち主の私ですら制御ができず、どうすることもできませんでした」
そういうと彼女は仮面の縁をそっと撫でた。
「この仮面を、あの人にもらうまでは…」
「あの人…?」
やはりアンナの目には男性を魅了する特殊な能力があり、その能力を抑えるために仮面をつけていた。
そして、その仮面をアンナに渡したのはおそらく…。
「私の身柄を皆さんに託し、森で再会したリオンという方です」
プリムス村を襲撃され、アンナを預かるときに助けてくれた男。
「アンナとリオンはどういう出会いだったの…?」
アンナの過去に何があったのかわからなかったから、今まで聞くことができなかったことを今このタイミングで聞くことにする。
決して問い詰めたいわけじゃない。
ただ、あの人が敵なのか、味方なのか…本気でわからないから判断する材料が少しでもほしい。
あの日、俺たちを助けてくれ、森で遭遇した時も笑いながら衣服を提供してくれた男は、本当にこの村の坑道に罠を張るような姑息な男なのか。
アンナの過去とは少し逸れてしまうが確認したい。
もし、アンナに仮面を渡したのも、仮面で能力を抑制しつつ、転生者であることを可視化させ、この村を襲撃させるための罠とも考えることもできる。
この封鎖された広大な森の中でピンポイントにここを特定できた理由が何かあるはずだ。
俺たちが知らない裏で、何が蠢いているのかわからなければ、また後手に回ることになる。
だから少しでも情報が欲しい。
じゃないと…また…この村が襲われる可能性はまだ十分にある…。
二人がどういう出会いだったのか、どうやってその仮面をもらったのかは今、聞いておきたい。
なぜならリオンとは、またどこかで出会う。そんな予感がするから…。
「それは…」
アンナは答えるのを少し躊躇ったあと、下を向き震えながら答え始める。
「森で……私が、逃げてる時に…う、うぅ…」
先ほどの覚悟を決めた芯のある姿勢とは打って変わって、声は弱々しく、前屈みになる。
あの男との出会いが、思い出したく無いほど嫌なものだったのだろうか…?
俺は触れてはいけない質問をした気がし、咄嗟に謝ることにした。
「ご、ごめん。怖くて話したく無いなら話さなくてい「違うの!」」
アンナは俺の言葉を遮るように、叫び、前を向く。
「私って…本当は、どうしようもなく…最悪な女なの…」
アンナはそういうと自分の肩を強く抱きしめている。
今にも自分の体を引き裂いてしまうんじゃないか、と思うほど指は肩に食い込んでいる。
俺はその姿と、言葉から少し動揺し、質問を続けるべきか戸惑ってしまった。
「何があったの?」
だが、カーネは違う。
アンナが冷静に話しやすくするように、いつも通りの温度で接している。
アンナは落ち着いたのか、鼻を啜りながら、今までずっと秘めていた一番謎の部分を話し始めた。
「私は、この世界で生まれた、自分の生まれ故郷と、両親を…破滅させ…森に逃げた……呪われた女なんです」




