9) 対面
支部長から、中古機体の引き取りの説明を受け、大量の署名をする。
早くマリアを引き取りたいと思ったが、段取りが必要なのでしぶしぶ、支部長の説明に耳をかす。
「それで、リコのバイトはどうするの。」
「できれば明日からお願いしたいです。」
「それは、急ね。」
「まぁ、できればですけど。」
「僕もバイト、行きたいです。」
「レモンも。」支部長が目をしばたかせる。
「ダメですか?」レモンは口を尖らせて、目を上目使いにして言った。
「レモンね。市場のおっさん相手ならまぁ、良いかな?」女マスターが応える。
「市場のおじさんの方が受けが悪いんじゃないんですか?」レモンは不思議に思って返した。
「市場のお客さんは『腹を満たす』か『コーヒーで眠気を覚ます』だから店が時間通りに開いてさえいれば良いのよ。問題は昼間の有閑マダム。」苦虫を潰したような顔を女マスターはした。
「そうね。田舎は開けっぴろげで、色々聞いてくるからね。」支部長は女マスターに相づちを打つ。
「?」レモンは目を丸くして、ぽかんとした。
「分かってないレモン君に解説すると、オバチャン連中がね、私が男を雇うとキャッキャウフフな恋愛関係、と噂するわけよ。Do you understand?」
「My god ! It's so wrong thing for us !!!!」
「で、レモン行きたい?」
「市場のおじさんと交流したいです」やや棒読みにレモンは返した。
「私としては反対しない。ただし、マスター、タダ働きはなしよ!」
「それは、しませんよ。支部長。ただ、簡単な書類は書いてもらいますが。」
「ああ、私も書かないといけないのね」
「パソコンを開いて下さい。レモンにはエントリーシートと支部長には許諾書と。」
「りょ!」
「私もがんばるわ。」
皆で、署名と書面書きそして確認に時間を費やした。
気づけば時計は午後9時になっていた。
「ごめんなさい。私明日の仕事があるので帰ります。」女マスターは言った。
「リコはスリープ中だし、明日からは無理よ。レモンもね。」
「分かってます。」
「明日は4時ロボット大学校待合室よ!」
「了解しました。それでわ、失礼します。」
「「さようなら。」」
今日のところはここまで。女マスターは明日からのことを楽しみにしていた。それは、誕生日を楽しみにしている子供のようであった。
次の日の水曜日。
多忙な喫茶店業務も根性で乗りきり、小井戸へのエスプレッソとラテアートの練習を終わらせると、店を閉めた。
小井戸には「サポーターと仲良くなって下さいね!」と言われ、帰っていった。
「うん、本当は仲良くなれるか不安!!」心のなかでは本音をシャウトしていた。だが、不安があるからと立ち止まることはもうできないし、したくない。覚悟を決めてロボット大学校に行った。
大学校につくと駐車場のいちょうの木が落葉していた。
ああ、ここにも健康茶のもとがある、と思う、銭ゲバで普段通りの自分がいることに安心する女マスター。
予定より、30分ほど早くついたので植えてある木々を見るため、駐車場を大回りして学校の玄関に入った。受付に自分の用件を伝えると待合室に案内された。
「こんにちは、昨日ぶりね。」支部長の佐井村が先に待合室に来ていた。
「早かったんですね、支部長。」
「マリアちゃんのことで書類提出があって、審査は通ったから今は先生待ち。」
「先生、て藤村先生ですか?」
「そうよ。ロボットおたくの藤村先生。」
「部品だとかの値引きはないですね。」
「でも、組み立て、修理の腕は確かよ。その技術料は無料なんだから、文句は言わない。」
「そうですね。」
二人が待っていると、吉良ミマリが入って来た。
「こんにちは。今日は支部長もおられたんですね。マスターを呼んでくるように言われたのですが支部長も」
「私も行くの。NPOとして立ち会いが必要だから。」
「わかりました。お二人ともついて来て下さい。」
「「はい。」」
ミマリについていった部屋は実習室だった。
「藤村先生、お連れしました。」
「待ってましたよ。で、お二人さんはなぜここに来たかわかりますか。」
「マッチングだと思います。」女マスターは言った。
「ま、私はNPOの立ち会い人ね。」
「お分かりなら話は早いです。見ての通り今は解体中で部品の供給交換を待つばかりです。それで、初回のマッチングをした後に頭部の解体をし、HDDの増設を行います。」
「まず、解体してからのマッチングではないのですか?」女マスターは訊いた。
「二人の相性を見てみて増設のパーツの相談をしたいんですよ。」
「わかりました。あっていただくんですが、配線だらけで、顔もコーティングをはずしてる状態です。」
「なにがあっても驚きません!」
「了解。ミマリ君、シートを取ってくれるかな?」
ミマリがシートを外すと両手足と胴体、頭部に別れた配線だらけの機体が現れた。両手足と腹部にはヒビが入っていて、アンドロイドとして、痛々しげであった。
サポーターに思い入れが強い女マスターには、心痛む光景ではあるが、ぐっと歯を噛み締めて目が潤むのを耐えた。
藤村が接続しているパソコンから電源を入れる。1分くらい過ぎた当りから目が開き声がした。
「マスター、私が変な格好でごめんなさい。」あぁ、聞いた覚えのある声だ。でも、声に濁りがある。
「マリア、私がこれから管理者になる立花弥生です。よろしくね。」
「私、変ですね。マスダーのこと二人目の管理者に定めていまずよ。」
「そんなこと気にしない。これから仲良くなれば良いから。」
藤村がマリアの後ろから話を終えるようにジェスチャーで伝えた。
「まだ、状態が良くないようだからまた寝ないとね、マリア。」
「ぞうなんですね。ほんどうだ、声がへんだ。」
「だから、おやすみ」
「また、ごうして話したいです。」
「次に起きたら仲良くお喋りしましょう。」
「ヴん、わかっだ、お休みなさい。」
藤村がパソコンで電源をオフにする。マリアの目が閉じる。
気づけば、頬を伝う涙に気づく。
「あぁ、目からよだれが。」
女マスターは涙を流していることに恥ずかしく、ボケてしまった。
「僕はパソコン触っているからみてません!」と、藤村が言った。
「書類を見てたから何があったか知りません。」と、支部長。
「えーと、あの、あの、私は誰にも話しません!!」
ミマリはしどろもどろに言った。
女マスターは涙目に微笑みをたたえて
「皆さん、気遣って下さってありがとうございます。」
女マスターが落ち着いてから、修理とそれに必要なパーツの話し合いになった。
新車購入と同じくらいの金額を女マスターは藤村に提示して、新規のパーツに照らし合わせていく。女マスターの希望は喫茶店での業務ができる機能の搭載である。
藤村はそれにあわせて、パーツを選んでいく。
「頭部のマザーボードもHDDの用量にあわせてカードをパワーアップしていきますか?」
「はい、ついでにソフトも入れていただきたいのですが。」
「わかりました。」
藤村はパソコンに女マスターが選ぶソフトの品名を打ち込んでいく。
「費用は提示の半分くらいですみますね。」藤村はパソコンを眺めながら言った。
「後、こちらからのスケジュールとして、今週の土、日に実習ありの研修があってお渡しは研修の経過次第ですね。」
「直ぐ様にでもしてほしいぐらいですが」
「研修込みのお値段なんでね。人件費をたしますか?」藤村は悪い笑顔をして尋ねた。
「いえ、申し訳ありませんでした。」
「研修では、学生が修理を行い、吉良君や整備士がチェックして、最後に自分がチェックします。」
「時間かかりますね。」
「NPOとの取り決めですからね。」
「色々とお願いします。」
藤村はパソコンを見つめマウスを動かす。
「はい、承諾書。署名お願いします。」
「まだ、あったんですか?」女マスターはビックリしていった。
「これの他にも、了承の書類やらまだありましてね。説明はミマリ君から聞いて下さい。」
「教授、逃げましたね。」支部長は突っ込む。
「いや、会議があるから」
「会議は中止になった、と先生が言ってましたよ。」ミマリが言う。
「ウソは良くないな。すぐばれる。」
皆から苦笑が漏れる。ミマリは教授から受け取った書類を読み、女マスターが署名していく。
こうして時間は過ぎ、書面が作られていった。
それから、喫茶店はリコとレモンがバイトに入ることで業務がこなされた。その間にマリアとは違う新しいサポーターがNPOに一時預かりがあったりしたが、無事に管理者のもとに戻った。
日々は穏やかに過ぎていき、女マスターは引き取りの連絡をまった。
藤村の面談から2週間たった水曜日に、NPOから連絡があった。
「今度の土曜日に引き取りに行けるわよ。」
支部長からの連絡で女マスターは喜んだ。
「マスター、何かあったんですか?」バイトのレモンが訊く。
「マリアを今週の土曜日にお迎えに行けるのよ!!」
女マスターは喜んでいた。
その日はテンションの高い女マスターが普段より3倍速で仕事をこなしていた。あまりの速さと手際のよさに、市場の局地的ホットワードが『マスター激速仕事』で一時的になったくらいであった。
風邪で文章打ちのスピードが落ちました。
皆様も風邪など体調不良にはお気をつけて下さい。




