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7) マスターの多忙な一日

「マスター、今日も忙しそうだね!」市場で働く常連の男が声をかけた。

「バイトの掛井さんが辞めたから大忙しです。」

 市場の朝は早い。店先で温かいコーヒーを売るマスターは化粧を忘れるほどに多忙であった。

「人にサポーターを紹介するより、自分にこそサポーターを買いなよ。ごっそさん。」そういって立ち去っていった。

 今は火曜日の午前5時前。

 朝4時に特撮メドレーで目を覚まし、菓子パンを2個食べる。ジーンズのズボンに黒のフリースのタートルネックを着こみ、白のシャツを黒フリースの上から着る。その上から黒のカフェエプロンを羽織る。

 4時半には一階の喫茶店で深煎りコーヒーとカフェオレを淹れる。5時前には店の外に机を出す。今は朝が寒いのでコーヒーウォーマーを机の上に置く。コーヒーの香りで市場関係で働く様々な人達がわらわらとやってくる。

 女マスターの店、『喫茶アベ・マリア』は市場の歩行者と自転車、自動二輪専用の出入口の目の前にある。市場の常連達に頼まれて作るコーヒーとカフェオレは一杯が100円で店の前で売っている。コストパフォーマンスがすこぶる良いこともあり、市場で働く従業員だけでなく、トラックの運転手やバイヤー、早番の医療従事者が買いにくることもある。

 6時過ぎになるとバイトが来て店先でのコーヒー販売を任せるのだが、今はいないので6時で店先販売を終わらせ、店内に引っ込む。それは市場関係者からは不評で、顔を会わせるとすぐにサポーターを入れるように言われるのである。今日も10人以上に言われた。

 6時からは市場の遅い朝御飯の人達むけにカレーの提供が始まる。喫茶店ながら、モーニングの軽食がないのは、カレーの時短での提供にある。

 女マスターはカレーを前日に作りおき、保温鍋で時短しておく。また、注文からすぐに出せるため、客側の時間の省略になる。

 店の開店当初からカレーは人気で、食べれない客が続出したことから他のメニューを無くしカレーに特化した。カレーも飽きが来ないように定番のひき肉のキーマカレー以外に市場の投げ売り商品からグリーンやホワイトなどのカレーを作る。また、市場の関係者からの要望でスパイスにこだわっても、辛すぎの味付けは避けて作っている。辛口が好みの人間には物足りない作りになっているので、辛党は市場内の定食屋でカレーを食べている。また、カレーは500円1コインなので、リピーターも多い。

 口さがない人間からは、カレーショップ呼ばわりされているのが今の現状である。

 本当はこだわったコーヒーを販売したい、可愛らしいケーキを売りたい、と小さな野望があり、その実現のためにバイトを雇うが、地方の温泉メインの観光都市ではバイトは年寄ばかり。突如の体調不良による欠勤や長続きする体調不良によってバイトを辞めることが往々にしてあり、サポーターを入れることを検討したことは何度もある。だが、5年前のサポーターが死んだことで、躊躇している自分がいることを知っている。リコがいう「悲しみの受け止め」が終わるまでは忙しさにかまけていたいのだ。だが、今は忙しさもあるが、あの子ならという気持ちが少しある。

「今日は大忙しだね。」

「バイトさんが辞めたんで、仕方がないです。」

「サポーター入れなよ。」

 今で20人目である。


 9時になると市場から人の出入りが一段落する。その間にスィーツのパウンドケーキなどを焼く。カレーの残量を見て、カレーを作る時もある。スィーツを焼いている間に食器の片付けや店の整理整頓をする。

 10時には朝メニューのコーヒーとカフェオレは終了となり、ハウスブレンドなどのコーヒーの提供が始まる。コーヒー好きはこの時間から飲みに来る。

 10時30分前にバイトの小井戸が来る。11時頃からランチのカレー客の波がくるのでそれに対応するための働き手でもある。

 小井戸に簡単な申し送りをし、カレーの味のチェックをしてもらう。

 11時からはランチ客が来はじめる。ただ、隣の洋食屋や他の店舗などでもランチメニューが提供されるので、朝ほど殺伐とはしない。それに小井戸というバイトがいることもある。

 ランチメニューも500円カレーである。他のランチメニューはない。ここでも、ランチメニューにこだわりたいところだが人手の足りなさからこだわれないのである。

「今日は化粧が薄いね。」眼鏡でごまかしているがわかる人にはわかる。

「そうですか?あははは。」

「時間作るためにもサポーター入れたら。」

常連客には分かるものであり、今で25人目である。

 午後2時でランチのカレー客がいなくなり、閉店の5時まではまったりした時間が過ぎる。小井戸がいる間に金銭の両替等の雑用をこなし、2階の居宅で食事を食べる。

 2時半には小井戸のバイトは終了し、3時まで小井戸のおまちかねコーヒー講習である。今日はマシンを使わない直火用器具を使ったのエスプレッソの淹れ方であった。

 小井戸は夫家族が温泉街で定食屋をしている。ただ、昼時や夕食時以外では客は少なく、空いている時に喫茶のようなことができないかと、市場の関係者に相談し、女マスターの店にバイト来た女性だ。そのため、後一ヶ月で、バイトを辞めることになっている。

「やっぱりサポーター買おうかな。」

「マスターもサポーター入れることにするんですか?」

「今の状態だと店がやって行けないから。」

「サポーター良いですよ!小回りが効かない所はありますが、こっちが言うことは素直に聞くし、慣れさえすれば接客は上手になりますよ!」

「NPOで、今メンテナンスにいっている女の子型のサポーターがいるんだけど。」

「中古機体だと相性がありますもんね。」

「月胡で飲食店経験していたんだけど、管理者になろうかな、て考えてるの」

 普段だと、こんな発言をしないのにと不思議に思う自分がいる。

「良いことだと思います。私としてはオススメですよ!」

「うん。今日、相談に行こうかな。」

「マスター、そうしましょうよ!」

 小井戸の一押しがある前から、サポーターの女の子に心ひかれたいた。今までは、前のマリアのことが頭に引っ掛かり、また考える、いとまがないほどNPOに来るサポーターは管理者が決まる。今回もそうなるのだろうか。

 スマホを開き、支部長にチャット式メールを入れた。

『今日、例のサポーターのことで相談したいことがあります。お時間いただけませんか?』

 メールを打って返事をまった。


 午後3時になり、小井戸が口惜しそうに帰った。

「修行をまだまだしたいけど、子供のこともあるし・・・。」子育てをしながらの仕事は大変なものだなぁ、と女マスターは思いながら、小井戸を帰した。

 それからは客と談笑したり、コーヒー豆を挽いたり、ストックの焼き菓子を焼いたり、カレーの下ごしらえをしたり、市場のネットスーパーに食品を注文したり、タイムラインに御菓子の写真をのせたり・・・。

 のんびりとした時間が過ぎ、4時30になった。残った客にラストオーダーを取りに行き、閉店準備をする。

 支部長からのチャット式メールを受け取り、6時30分にサポーターズ・サポート、に行くことになった。

 最後の客が帰り、店内の音楽有線を特撮メドレーに変える。立て看板を店内に入れる。それからカレーを仕込む。保温鍋を駆使し定番のキーマカレーと日替わりのカレー、明日はグリーンカレーを作り置く。今日の和風イノシシのジビエカレーが残ったのでチャック式ビニール袋に小分けに入れて冷凍する。

 ついでにNPOに差し入れにするべくカウンター下の冷凍庫から自家製ハンバーグを取り出す。その数8個。そのハンバーグをフライパンで焼き、トマトの缶詰を入れ込んで煮込みハンバーグをつくった。

 煮込みハンバーグをタッパーに入れて、後のせ用に残りのチーズを袋ごと持っていく。

 ちりん、ちりん、ちりん。

 チャット式メールの着信音がする。スマホを見ると、リコからご飯がないとの連絡が入った。

「リコは食べないのに。」女マスターは苦笑いし、炊飯器の残りのご飯をラップ包みのお握りにした。

 

 掃除と片づけをして、ゴミを屋外の所定の場所に出して置く。

 POSレジを使用して売り上げの統計をパソコンに移し、売り上げと照会する。今日の売り上げは5万以上あった。

「ジビエカレーはお隣さんが専門でやってるから注文が少ないのかな?」女マスターは呟きながら、メニューの味付けを考え直した。


 時計を見ると6時前。

 エプロンを外し、店内の電気を消す。家中の戸締まりを確認する。

 こうして、女マスターの喫茶店主の一日は終わるのであった。

次の投稿は1月7日の予定です。

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