4) 研修で解体
女マスターが高倉親子と対面していると同時刻、NPOの支部長佐井村と吉良ミマリはミマリが通うロボット大学校の実習室にいた。
この大学校はサポーター製作会社のM社のエンジニア育成の専門学校であり、卒業とともに大卒の資格もとれ、M社に就職となる。そのため、制作会社の工場と同等の設備があり、サポーターの製作も修理も可能である。
今日は、大学校の研修という名目で昨日、NPOの支部に運びこまれたサポーターの少女の解体となった。
「藤村教授、今日はよろしくお願いします。」
藤村とは元H社の開発、製作のエンジニアで初期型のワーキングロイドを手掛けた実績がある。今はM社の招致により、大学校の教授として教鞭をとっている。
「こちらこそよろしくお願いします。佐井村さん。吉良君も今日は助手よろしく。」
「はい。」
今回の初期型サポーターが藤村の判断で研修の名目になったのは、H社の初期型であり、改造されていないレアな機体であるからだ。そのため、学生だけではなくM社の整備工も何人かきていた。
「感慨深いな。自分達が開発に携わったワーキングロイドにメンテナンスとはいえ、再び自分の目の前にくるとは。」眼鏡の奥に懐かしさをたたえながら藤村は台の上に寝ているサポーターの少女をみやった。
「教授、全員揃いました。研修初めていただいてもよろしいでしょうか?」ミマリが言った。
「ついね。懐かしく思ってしまってね。それではみんな揃ったようなので、今からH社製初期量産型ワーキングロイドの検査と整備の研修1回目始めます。」
藤村は髭の生えた顔を真剣な眼差しにした。
「今日の主役はこの機体、私がH社にいた時に開発に携わったワーキングロイドです。首もとにH 社の刻印とロットナンバーかあります。ちなみにこの初期型は介護現場を想定して開発していたので、見かけによらず力持ちです。ただこの機体はコンピューターウィルスには弱く、無線LANやwifiで感染してしまう今では考えられない弱点があります。そのため、リコールでのHD交換とアプリのインストールになりました。ですが、今ここに寝ているこの機体はリコール対応の痕跡がありません。なので、電源は入らないように今は処置しています。電源をいれるとウィルスの拡散というリスクを避けるためです。H社では先にウィルス予防のアプリをOSに入れたHDに交換するだけで対応していました。ワーキングロイドとして業務優先にした対応だからでしょう。今のサポーターの修理や整備からすると違和感があると思います。サポーターの権利団体の支部長佐井村さんはどう思いますか?」
「私を含めてスタッフが卒倒します。」
室内では苦笑が広がる。
「修理や整備ではH社のルーティンが、簡単なんだけどね。」
また、苦笑がスタッフ内であった。
「ですが、今はわが社のように管理者からの聞き取りや非破壊検査を無線LANやWIFIを遮断した一室で行うことになりました。猿から人間への進化みたいなものですね。」
室内から笑いが漏れる。
「ここは笑うところなんだがな。」藤村が言うと笑いが大きな声で室内に響いた。
「さてさて、冗談はここまで、これからサポーター管理者法に沿って話を進めます。吉良君、説明お願いできるかな。」
「はい。今回の機体サポーターかワーキングロイドのどちらの名称がいいでしょうか、教授?」
「サポーターがいいね、今は人間の時代だからね。」
「はい。今研修のサポーターは法令に指定されていない中古販売店で未成年者が購入しました。購入後、電源アダプターも非正規のものを使用、充電し、充電途中でサポーターに電源を入れて、いますね。サポーターはその場から逃走、近所の家屋に逃げ込んで怯えていたそうです。10分もしないうちに電池切れときいています。そこからNPOのスタッフを派遣、サポーターを回収します。その後NPOでも電池が切れたはずなのに、契約完了のプログラムが発動、その後すぐに電池切れの反応を示し今に至ります。」
「吉良君、説明ありがとう。今回はサポーターの権利がと言いたいところだが、サポーター管理者法にのっとり、緊急事態としてNPOでの管理者選定や任意の手順を踏む前に検査と危険回避のルーティンを行います。以上が前置きです。」
「あのう、すいません、僕たちもそこまで調べなければいけないんですか?」学生から、質問がきた。
「うん、各会社にラボとか工房とかあるけれど、ただ、修理して終わりじゃないんだ。病院の聞き取りってあるけれど、あれと同じように聞いて、そこに事業所や家庭の問題点を見つけ出したりもするだろう。あれと同じなんだ。実際、今はどこでもサポーターの犯罪加担は減ったがそれは、こういう細かいことをする事で減ったんだ。法律の理解は大変だがな。」
「あ、回答ありがとうございます。」
「質疑質問、まだ、あるかな?なかったら、次に行きます。ここからも法律の縛りがあります。うん、そんなに嫌な顔をしない。」場が緩み苦笑がちらほら聞かれる。
「まず、サポーターが。ここに来た事情を調べなければいけない。電源を入れないとHDから情報は拾えない。だからこの遮断室を使う。次に電源系統の問題がある。情報もとりたい。電源をそのまま入れたら、何かしらの暴走があり、誰かが怪我をするかもしれない。だから頭部と胴体は外しておく必用がある。他にもあるかな?」
「超音波検査は入れないんですか」整備工が訊いた。
「そうだな、事情がないなら超音波検査から始めるが、今回は事情ありだからな。頭部と胴体は離してから超音波検査をしても良いかもしれないな。他にはないかな?」
「まだ、管理者が決まっていない状態なので修理は出来ないのではないでしょうか。」
先程とは違う整備工が言った。
「確かに、今日は解体のみの予定だ。整備や修理をすると法律ではなく経費がかかるからな。他にはないかな?」
「教授!!学生達の頭の中で?マークを飛び交ってます。」ミマリが、学生達の頭の中を言葉にした。
「う~ん、それはまずいなぁ。問答形式で話を進めたかったが、予定変更だな。」
藤村は残念そうな顔をして言った。
「改めて言うと、修理と整備をこなすだけでは駄目だってことがある。今回は法令遵守と経費の観点を持ってどこまで作業を進めるかを、考えながら決定しなければならないんだ。ここまではわかるかな?学生諸君。」
「あ、はい。解ります。」
「特に今回はイリーガルな出所でなおかつ、法令でサポーターのもつ危険因子を無効化しないといけないんだ。」
「あ、だからなんですね。質疑応答の作業が必要なことがわかりました。」眼鏡の学生が代表で応えた。
「えーと時間もそんなになくなったので、ざっくり言うと、今は経費をもつ人間、管理者不明なので、危険因子の無効化のための解体しかできない。リアルな意味でね。さてさてここからが整備工の諸君にとっての本番だね。」
「「「はい!!」」」
「ここからは君達が直に触ってほしい、学生諸君もだ。ちなみに今は研修なので、解体の経費は無料だと言うことを付け加える。」教室で、笑いがどっとこだました。
頭部と胴体を分離する作業から始まった。そこはミマリが担当した。
「今から解体します。」
電池が充電されているか、検査してみると、電池切れになっていた。首のつけね辺りにある社名の刻印とロットナンバーがある蓋を外して電源スイッチを確認。見た目の異常はない。試しにスイッチを長押ししてみると電源は入らなかった。
「吉良君、もう少しゆっくりみんなに解るようにしようか。」
「早かったですか、すいません。」学生達が、集中してがん見していたのでいつも通りにしていた。
ミマリはゆっくりと電源スイッチがある凹部を皆に見せ、ロックを外す。がち、と音がなって頭部のすわりが悪くなった。ここから皮膚のコーティングしている全身のボディースーツをはがす。するといかにもロボットという機体が姿を表した。首を軽くひねり頭部と胴体を分離する。
「吉良君、ありがとう。ここまではH社の独自の解体だ。ボディースーツも2枚着込んでいる。今だと1枚でいいがな。技術の進歩を感じるな!! 」
藤村はそういいながら2枚のボディースーツを全員に見せた。学生や整備工の人間からすると皮膚の感触が粗いように感じられた。
「本当はここから頭部のHDから情報をえたいのだが、警察からの依頼はないし、管理者はまだわからない状態なので、ここまでです。詳細をみたい人は今のうちに見てくれ。」藤村がそういうと整備工が全員前に集まり、頭部と胴体の接続部の配線のチェックやメモを見ていた。
「教授、管理者が決まり次第、次の研修になりますか?」佐井村は訊いた。
「ああ忘れてた、今日の続きは来週の土曜にあります。来週になったら頭部を解体しHDの解析をします。と、いうわけです。支部長。それまでに管理者から判子をもらってきてください。」
「了解。それでは法人の家に戻って書類を受け取れるようがんばりますわ。吉良さんはどうする。」
「今日は飲み会なので。」
「やぶ蛇だったわね。楽しんで来てね。」
「はい!!」
「それでは私、戻りますんで、サポーターお願いしますね。」
「さようなら、佐井村さん」
「さようなら」
佐井村は女マスターからの報告を待つためNPOの事務所に戻った。日が山に沈むのを見て携帯の時計を見ると4時半になっていた。




