3) 管理者候補(15歳)
土曜日の午後1時に行く予定が、先方の事情により2時になった。
喫茶店は10時に閉めたが玄人らしい旅行者が、是非とも女マスターのカレーを食べたいといってきたので、急遽海鮮カレーを旅行者4人分作るはめになった。女マスターにとっては時間がのびたことは好都合であった。
隣の洋食屋からのお願いだからこそ作ることになったカレーだ。
食した旅行者に言わせると専門店の味をチェーン店の価格で食べている、と好評だった。
あまり流行られても困るんだが、と女マスターは思った。
女マスターの喫茶店は、県下の温泉地近くの卸売り市場のご近所さんである。味にやかましい市場スタッフ相手の商売になるので味のグレードはよく、なおかつ価格が良い。カレーにおいてはコストパフォーマンスが高過ぎるというのが隣の洋食屋の意見だ。だが、ランチメニューをカレーだけにしているのは、隣の洋食屋の商売を邪魔してはいけないとの女マスターなりの配慮である。隣の洋食屋は旅行者向けであり、自分の商売は地元の市場関係者向けと住み分けているのである。また、サポーターズ・サポートの活動に時間をさいている事もあり、あまり旅行者のような不確定要素を商売から除外もしている。ただ、朝のバイトが辞め、独りでの仕事は忙し過ぎるので誰かの手を借りたくもあるのが本音でもあるが・・・。
午後1時を知らせる特撮番組のバラードが流れると観光客が「変わった音楽ですね。」といって会計をする。客を返した後は、後片付けと掃除をこなし、1時20分には軽ワゴンに乗り込んでサポーターの管理者候補(15歳)に会いにいった。
カーナビにそって道を行き、大通りに差しかかると、観光バスで込みあっていた。時間に間に合わせるため裏道を行くのだが、渋滞のある大通りを経由しなければならず、昨日来たお寺に着いたのは指定の時間ぎりぎりだった。
昨日行った寺社に車を駐車させてもらい、寺族の山口あさみに案内されて、管理者候補の少年、高倉誠に会うこととなった。先方の都合で寺社の境内での聞き取りと話し合いになったのだが、高倉少年のほかに母親らしい人が一緒にいた。
「山口さん、昨日に引き続きお世話になります」
「こちらこそ。こちらの女性が高倉比奈子さん。こちらが息子さんの誠君です。」母親である比奈子は胡散臭げに女マスターの顔をみていた。
「初めまして、NPO法人サポーターズ・サポートのスタッフ立花弥生と申します。そちらがお坊っちゃまですか。初めまして、聞きたいことがあるんで協力お願いします。」
「あ、その、はい」
「そんなに緊張しなくても良いんですよ。テストみたいにむずかしいことを聞くわけではないんで。」
「は、はい。」
「あのう、ここで話し合うより、境内でどうですか?」あさみの促しに
「あ、そうさせてもらっていいのかしら、あさみちゃん」比奈子は言った。
「はい、こちらにどうぞ。」
あさみの誘導に3人は一緒に境内に入った。境内には来客用なのか座布団がしかれていて、高倉親子が二人、上座に座り、対面で女マスターが座った。あさみは部屋を出て、お茶の用意をしていた。
「今日はどんな話し合い何ですか?」じれた感じで比奈子が話しの初端を切った。
「NPOとしては、サポーターの購入時の様子を聞きたいのと、サポーターの管理をどうするのかをお聞きしたいのです。」
「警察が絡むの。」比奈子は心配そうに訊いた。
「いいえ、今回は民事不介入になったので、相談事はNPOの我々がする事になります。」
「そうなんですか」比奈子は安堵の表情をした。
「改めまして、私はNPO法人サポーターズ・サポートのスタッフ、立花弥生と申します。こちら、名刺になります。」名刺を比奈子に渡す。
「高倉比奈子といいます。隣が息子の誠です。」
「あ、誠です。」
「よろしくお願いいたします。単刀直入に聞きますが、誠君。あのサポーターはどこでかいましたか?」
「あ、あのアンドロイドは街のジャンク屋で買いました。」
「お店の名前はなんて言いますか?」
「看板がたってなかったから、名前はわからないです。駅の近くの建物でここ最近で店を出したって店の人が言ってました。」
「サポーター以外には何か売っていませんでしたか?」
「・・・、あの、そのう。」
女マスターは誠の口ごもりを察して
「場所を教えてほしいのだけどいいかな。」と訊いた。
「駅前の丸親通りのゲーセンが一階にある建物の3階にありました。」
「ありがとう」女マスターは携帯のメモ機能を使い場所を記していた。
「あの、サポーターアンドロイドはどうなるんですか?」誠は女マスターに訊いた。
「その話し何ですが。」
「代金は戻ってくるのですか?」
母親の比奈子が会話に割って入ってきた。。
「ちょっとお待ちくださいね。まず、始めにサポーター、少女型のアンドロイドのことですが、御家族としてはどうしたいのですか?」女マスターは問うた。
「返品したいです。」
「え、母さん、俺の気持ちは」
「どうせ、いかがわしいことに使う気だったんでしょ。」
「あ、いや、俺はそういうつもりで買ってないよ。昨日に言ってただろう。」誠は目が泳ぎながら言った。
母親の言ったことが本当のことだろう、と女マスターは思った。
「あんたは黙っているの!!あんな訳のわからないものに10万円も使ったのよ。今まで折角ためていたお金を無駄遣いして。」
「俺だって、よく考えて買ったんだよ。それを無駄遣いみたいに言わないでくれよ!」
「あのう、話し合いはついてないんですね。」
「返品で!!」
「俺専用で!!」
このままでは、水かけ論に終始してしまう。
「あのう、返品はむずかしいと思います。」
「なぜですか。」
きつい目付きで比奈子は女マスターを見た。女マスターは臆せず真剣な眼差しになり、怒りを受け止めた。こういう場合に優しい瞳では、相手の怒りを爆発させるからである。
「ひとつには相手がサポーター管理法と古物営業法違反をしているためです。連絡等はされているのですか?」
「今朝からお店に行ったのですが、開いていませんでした。完全閉店のポスターが張られていたんでどうなるかと思って」
「商法の考え方で言えば、クーリングオフで返品できますが、お店自体が廃業してしまうと払われないことがあります。私もお店自体知っていますが高いものが売れると廃業、開店を繰返し、オーナーが次々代わるところなんです。」
「そんなぁ・・・。」
「だったら買い取りで良いよなぁ、母さん!!」
「ただ、管理者は18歳以上で収入がある方にしか、購入できないのをご存知ですか?」
「え、そんなのあるんすか?」
「リコールなどで無料の修理はありますが、スペック上げや修理等は基本は実費で支払うことになります。」
「えぇーー、マジ!!」
「はい、本当です!」
毅然と、女マスターが言い切ると誠は顔をしょげさせた。
今回のことは中古売買では、ありがちな事だが、ここで話しを詰めておかないと後のトラブルの元になるのである。
「私としては、誠さんのお母様かお父様が代理で管理者になって頂ければと思うのですが。」
「しません。」
誠の希望を打ち砕くのに充分な比奈子の即答だった。
「息子のリア充を邪魔するのか。母さんは」
リア充の用法を間違えているように女マスターは思ったが、誠がキレたことはわかった。
「どうせ、友達にじまんしたいとか、エッチなことに使おうとしてるだけでしょう」
比奈子がまくし立てた。
「それだけじゃなくて、婆ちゃんの介護や見守りに使えるって昨日言ったじゃないか!!」比奈子の指摘を認めながらも必死に食いつく誠である。
親子の水掛け論が始まった。母親の比奈子からはサポーターを引き取らない、息子の誠は引き取る。話は平行線をたどる。
「あのう、立花さん」ずっと黙っていたあさみが親子ゲンカの片隅で、女マスターに小声で話しかけた。
「この場合、引き取り手がでなければどうなるんですか?」
「うちのNPOで預かります。今回はそうなりそうですね。」
「お金は戻るんですか?」
「戻りません。今回のケースにおいては高倉さんはサポーターを買ったお店にクーリングオフがかなえば取り戻せますが、あそこの店悪徳商法で有名で△□組の傘下なんですよ。マフィアが絡んでいた事もあったという話です。私としてはあの店には絡まないことをお勧めしますね。」
「それ本当何ですか?!」
あさみの大きい声で親子ゲンカが止まった。
「高倉さん、聞きました。やくざが絡んだお店なんですって、サポーターを買ったお店が。」
「えぇ―――。」
誠はポカンとした顔だったが、比奈子の顔は歪んだ。
「やくざと関わりあいたくないので引き取ってください。誠、そういうことなのわかった!!」
誠はなにがあったかわからなかい、という顔をした。
「誠君、あのね、サポーターを買ったお店は反社会組織が絡んでいるお店なの。」
「は、はい。」
「だから、あのサポーターの女の子と一緒にいるとトラブルに巻き込まれることがあるかも知れないの。」
「えぇ―――――!!」
あさみの発言でことの重要性が誠に理解された。
「悔しいけど、悲しいけど、アンドロイドをお願いします。母さん、俺ヤバイことしてたのいま知ったわ、ごめん。」
「分かってくれてありがとう。お金が戻ってこないのは辛いけど、本当に辛いけど、トラブルに関わらないほうがいいわ。」
高倉親子の変わりように女マスターはビックリした。ただ、親子の水掛け論が終わったことで話が進展したことは良かったと思えた。
そこからは話が早かった。サポーターの管理者をNPOに任せる書類と、調査表の記入で終わった。
必用な作業を終わらせるとあさみが小声で、寺社周辺で借金の取り立てがあり、インテリではないほうが来て派手なトラブルがあったことを教えてくれた。
女マスターは親子の豹変が理解できた。
本当にトラブルにならないよう気をつけねば、書類を確認しつつそう思った。
境内から辞してNPOの支部に行くため車に乗り込んだ。紅葉が夕日に照らされて、はかなくも美しい姿になっていく。
最後の紅葉に冬は深まっていくのであった。




