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墓参り

リガルの町を出て一週間、ラザの町までは後一週間程の距離だろうか。


「ダリさん、その分かれ道を左にお願いします」


リズが御者台に座るダリに声をかける、行きに使った街道とは違う道を使っているのにリズはよく道がわかるな、そう思っているとレイナが外の景色を物憂げに眺めているのに気付いた、いつも景色を眺めるのは俺なのだが珍しいな。


俺にとってはこの世界の景色はいまだに珍しい、街道の外は緑の絨毯とも言える草原が遠くまで続き、所々に人の手入れのされていない鬱蒼とした森がある、そしてそこに空の青さと白い曇が加わり、草原や森の緑、空の青と雲の白の鮮やかな、何故か懐かしさを感じる原風景が広がるのだ、珍しいというよりいつまで見ていても飽きないと言った方が正しいのかもしれない。


それにこの辺りはステルビアの中でもジーヴル寄りで、常緑樹が多く冬でも森の木は落葉しないのだが、これがヒズールの方や獣人界の方に行けばまた景色も変わっていくだろう、それも楽しみだ。


そう思いながらレイナの隣に座り声を掛ける。


「レイナが景色を眺めているのは珍しいね」


するとレイナは一度こちらを向いて笑顔を見せ、再び景色に目を移しながら口を開いた。


「そうですね、少し昔を思い出してしまって。この近くに私達の生まれた村があるんです」


なるほど、だからリズも道に詳しいしレイナも景色を眺めていたのか、レイナ達の生まれ育った村、ラシェリの遊びで無くなってしまった村か…。


「ふふ、久し振りに村の近くに来て少し感傷的になったけど大丈夫ですよ。私もお姉ちゃんも気にしてないです、今は毎日が楽しいですし」


俺が心配そうな顔をしていたのだろう、レイナが明るく言ってくれた、吹っ切れているのは確かだろうがレイナ達は村を出てからは一度も戻っていないはずだ、近くまで来たのなら覗いてみたくなったりはしないのだろうか。


「少し寄ってみる?俺も、その、二人の家族のお墓参りしたいし」


リズとレイナの今の心情はわからないが墓参りをするのは悪い事でもないだろうと思いそう提案してみる。


「そう、ですね。私も皆を紹介したいしそれもいいかもしれませんね」


俺達の話を聞いていたテオとセオも口を開く。


「俺も姉ちゃん達の家族に紹介してほしいな、二人にはいつも感謝してるからな、姉ちゃんの家族にありがとうって言うんだ」


「私もテオと一緒です、リズさんとレイナさんにはいつもお世話になっているので」


それを聞いてレイナは微笑む、そうと決まれば話は早い、前の方でダリに道を教えているリズに声を掛けて村へ進路を変えてもらう事にした。


「皆ありがとう、ラザに行ってからは毎日生きるのに必死でお墓参りなんて考えてなかったよ」


そう言って笑うリズ、ラザからは馬車で一週間近くかかる場所なのでそれほど仕事を休む訳にもいかないだろうし、それに今の二人なら大丈夫だと思うが強くなる前の二人ならその距離を旅するのも無理だしな。


馬車は村の直ぐ近くまで来ていたらしく、リズがダリに道を教えながら進むと暗くなる前には村についた。


所々崩れてはいるが村を囲っていた壁があり、その中には焼け落ちた家屋の跡がわずかに残っていた。


無事だった建物は盗賊等に利用されないように村を放棄すると決まった時点で全て壊したようだ、その時に出た残骸はそのまま近くの町に運んだので、残っているのは焼け落ちた家屋の残骸だけだ。


馬車で村の中に入り、そこからはなんとなく歩こうかという雰囲気になったのでダリには馬車を歩く速度に合わせてもらい、俺達は皆で歩く事にする。


建物が無いので広々としているが道の跡だったり家の跡だったりと確かに村があったんだとわかる、どういう気持ちなんだろうなと思いリズとレイナを横目で見ようとするとリズと目があった。


「ふふ、大丈夫だって言ったでしょ。皆と会う前だったら少しキツかったかもしれないけど今は本当に平気だよ、記憶にある家族と同じくらい…、それ以上に皆との時間は楽しいからね」


レイナも隣で笑って頷く、親しい、大事な人を亡くすという気持ちは想像する事も出来ないが、二度とそういう気持ちをリズとレイナにはさせないし、テオとセオにもさせないと心に決める。


そして村の奥、大きな建物が建っていたんだろうなとわかる場所についた。


「この先は少し段差があるのでダリさんはここで待っててもらっていいですか?」


リズがそう言ってダリを待たせ、基礎の部分が少し残る敷地の中に入る。


ここが私とレイナの部屋、食卓で、台所で、俺達に説明しながら歩くリズ、そのまま敷地を抜けて奥に行くと沢山の石が並べられた場所に出た。


「ここに村の皆が眠ってるんだ」


そう言ってリズとレイナが石の前で、汚れるのも構わずに両膝をつく、そして両手を合わせて目を閉じた。


どこの世界でもお墓に手を合わせるのは変わらないんだなと思う、後は花だよな、そう思った時に馬車の中に花があったのを思い出した、花の町リストルでギルド職員のレミーから是非お土産にと持たされた花だ、リストルの町で品種改良された花は多量の魔力を含み、特殊な加工を施されているので三年は枯れないとレミーが言っていた、ジーナやセラにあげようと思っていたのだが、ここで使ってもいいよな。


そう思うと馬車に戻り、少しだけ残して残りを全てお墓に持っていく。


「その花はジーナさん達にあげる予定の花ですよね?いいんですか?」


「ジーナさん達の分も少しだけ残してるよ、それにジーナさんもセラさんもきっとこうしろって言うと思うんだ」


俺が花を取ってきた事に気付いたレイナが戸惑いながら聞いてきたので大丈夫だと答える、ありがとうございますとお礼を言うレイナに笑って返し、墓石の前に一本一本、土魔法を使って花を生けていく、ついでに墓石に清浄の魔法もかけていくが、汚れも少なく必要無いかなとも思える、村の生き残りの人達が近くの町で暮らしているようなのでお墓参りに来てるんだろうな。


村の皆さん、リズとレイナは俺が必ず守るので安心して眠って下さい、そう言いながら一本一本丁寧に生けていく、小さな村で二人は皆から可愛がられていたようだし安心してもらわないとな。


無事に全ての石に花を生ける事が出来た、全部で百近く、三百人程の村と言っていたので三分の一の村人がここで眠ってるんだな。


俺が花を生けている間にどこかに行っていたリズとテオも戻ってきたので皆でもう一度手を合わせる。


これでお墓参りが終わったので今から夕食だ、今日はリズとレイナの家の跡地の前で野営をする事にし、夕食は敷地内で食べる事にしたので土魔法で台所があった場所に竈を作り、食卓があった場所にテーブルと椅子を作る。


「昔はお母さんのお手伝いで料理を運ぶだけだったけど今は料理を作る事が出来ます。この場所で料理が出来るとは思いませんでした、トーマさんありがとうございます」


そう言って微笑んで、料理を作り始めるレイナ、いつもはおかずとスープで分担して作るのだが今日はレイナが全て作り、セオはサポートに徹するようだ、材料は兎の肉、俺が墓に花を生けている間にリズとテオが狩ってきたようだ。


少しの間レイナが料理を作るのを眺め、それからレイナとリズに断りを入れて墓石の周りに簡単な壁を作りに行く、村を囲っていた壁があるとはいえ門番もいないし魔物が来て荒らされても困るからな。




俺が墓の周りを入り口を残して、土魔法で高さ一メートル程の壁を作り囲っていると料理を終えたレイナがやって来た、料理の時間がいつもより長いなと思っていたがお供えをするおかずも作っていたようだ、丁度壁を作り終えた俺はレイナを手伝う、土魔法で簡単な皿を作りレイナがそこにおかずを供えていく。


「トーマさん、ありがとうございます」


「いや、レイナとリズを可愛がってくれた人達だからこれくらいはね」


そう答えるとレイナが作ったばかりの土壁に隠れる様に屈み、俺の腕を引っ張った、そして…………。


お父さん、お母さん、お姉さん、ラフさん、村の皆さん、レイナの事、そしてリズの事は任せて下さい!


力強く挨拶をして食卓に戻る、レイナと手を繋いで戻ったのだがリズがそれを見て微笑んでいた。


今日はいつものように俺から聞いた話を参考に作った料理ではなくレイナ達が村でよく食べていた料理だ、どうですかと聞かれたが美味いに決まってる。


兎の肉を焼いて少し味付けをしただけのおかずと、ジャガイモと人参だけが具材のシチューに似たスープ、素朴だが十分美味しい、俺はテオと一緒におかわりをして残さず全部食べる、その後はリズとレイナの村での思い出話を聞きながらいつもよりゆっくりと過ごし、夜も更けてきた頃に眠る事にした、二日おきにテオとセオのどちらか一人を夜番にしていて、今夜はセオの番だが今日は村を守っていた壁もあるし、なんとなく一人で残りたかったので眠ってもらう事にした。




夜、星を眺めながら色々と考える。


この世界に来てリズを助けた、そしてレイナとも会い三人でラザの町で過ごした、その短い間でリズとレイナは俺にとって無くてはならない存在になった。


それから依頼を受け、スゥニィも加えてラザを出た、その途中でスゥニィから色々と教えを受けながら俺の世界の事も聞かせたらスゥニィはとても喜んでくれた、二人きりで呪文の事、言葉の事をスゥニィと話し、精霊魔法も見せてもらった、その時からスゥニィとの間にあった距離が縮まった気がする、今は離れているがとても大事な存在だ。


そしてテオとセオを助けた、旅に同行させたのは最初は同情だったかもしれない、でもテオのいつでも場を明るくしてくれる性格やセオの口数は少なくても自分に出来る事を考え、ひた向きに頑張る姿勢は既に俺達には無くてはならない存在だ。


皆の事を考えながら村の跡地を見回す、リズ達は平気だと言うが何もなくなってしまった村の跡地を見て何も思わない訳がない、だが二人は既に割り切っている。


御者をしてもらっているダリの村もこの村と同じ様に、いや、燃え盛る村から散り散りに逃げたので誰も片付けに戻る余裕もないだろうと言っていた、焼け落ちた家屋がそのまま残されているならここより酷いのかもな、だがダリも悲しいけど仕方ないと割り切っていた、それが当たり前の世界なんだ、自衛の為にも実力は有れば有るほどいい。


俺はこの世界に来た時に珍しいスキルを取得していた、それがなんだか後ろめたいと思う時もあったがこのスキルのおかげでリズやレイナと一緒に強くなれたしテオとセオを助ける事も出来たと思う、この力で皆と一緒に楽しく過ごす。


そしてエーヴェンやクリス、獅子の鬣の皆、リーヴァやミリエメといったこの世界で出来た友達もいる。


その繋がりも大事にしながらもっとこの世界の事を知っていきたい。


もう一度村の跡地を見回す。


無くなってしまった村の跡地をみて感傷的になってしまったのかな、当たり前になっていた皆との生活がとても大事に思える。




「人が一人の時間に浸っている時に…」


溜め息をついて呪文を唱える。


『疾風迅雷』


そして門の方から近付いてくる反応に向かって駆け出す。


「ゴブリンか、お前らも俺にこの世界で生きる切っ掛けを与えてくれた存在だよな」


考えようによってはリズを俺の前に連れてきた存在、勿論あの時の個体とは違うのだが、そう思いながら村の跡地に入り込んできた五体のゴブリンに向かう。


『拍車』


先ずは五体のゴブリンの正面、真ん中から飛び越える、そして拍車を使い壁を蹴る要領で直ぐに方向転換し、真ん中のゴブリンの頭を後ろから踏みつける、相変わらず気持ち悪い感触を残しながら不快な音を残して頭が潰れる。


「次っ」


結構無理な動きをしているが体勢を崩す事も無く、直ぐにゴブリンの後ろに回り込み、振り向こうとするゴブリンの首に右手で手刀を水平に叩き込む、ゴブリンの細い首が宙に舞う。


「もう一匹」


更にもう一匹の首も手刀で斬り飛ばす。


「確か、最後の二匹には剣を使ったんだよな、今は持ってないししょうがないな」


あっという間に仲間三匹を倒され狼狽えるゴブリンに向かって呟くと、一気に踏み込み手刀で首を飛ばす、初めてゴブリンを倒した頃の自分を思い出してみるが実力も、戦う時の心境も比べ物にならない程に成長している。


ゴブリンの死体を処理しながら今までの経験を振り返る、半年間この世界で生きてきたが今ではこの世界が俺の生きる世界なんだと思える。


死体の処理を終えて野営場所に戻るとリズが待っていた。


「起きてたの?」


「なんだか眠れなくて、レイナはとても嬉しそうに眠ってたけどね。何か良い事があったんだろうね」


ニヤニヤするリズの隣に座る。


「最初は近くに座るだけであたふたしてたトーマが今では平気で隣に座れるようになったんだね」


リズも昔の事を思い出していたのか出会った頃の事を言ってくる。


「あの時は、女の子と話すのに慣れてなかったから」


「今は慣れたの?」


少しはね、そう返事をして隣に座るリズの手を握る。


リズが俺を見て微笑んだ、だから、……………。


お父さん、お母さん、お姉さん、ラフさん、村の皆さん、リズの事、そしてレイナの事は任せて下さい!


その後は朝まで二人で色々な話をした。











えっと、リーヴァとミリエメ、ロトーネの現状を少し、それとリズとレイナの墓参りを書こうと思って書いていたのですが思ったよりも長くなり、全然話が進んでいないので少し投稿のペースを早めてみました。


もう1話、今日の夜にでも投稿出来たら投稿して、その後はペースを落として今度こそラザの町です。多分…。

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