森の中の救出
パチッパチッ
焚き火の中で木が弾ける音がする。空には欠け始めた二つの月と、いくら見ても見飽きない、相変わらずの満天の星空が広がる。
「またか」
赤みがかった黒髪の少年は溜め息を吐いて呟くと、足元に置いてあった黒い具足を填めてから、森の暗闇に目を向けながら立ち上がる。
少年が森に向かって歩いていくと、まるで待ち構えていたかの様に暗闇から影が飛び出して来た。
少年は暗闇から飛び掛かってきた子供の背格好に似た影を右足で蹴飛ばし、更に右足を追い掛ける様に少し遅れてきた左足をそのまま体の外に振り抜くと、二つ目の影もその場から弾ける様に飛んでいく。
少年は、森の木にぶつかり動かなくなった影の所まで歩いていくと、二つの影を無造作に掴み森の外まで引き摺ってくる。
二つの影を引き摺ったまま森から十分に離れると、重ねるようにその場に投げ捨てる。
そして二つ重なった影に腰の袋から取り出した瓶をかかげ中から液体を落とすと、人差し指から小さな火を灯し緑色の影を燃やしてその側に座り込んだ。
「ゴブリンは弱いけどこう頻繁に来られたら面倒だな」
一時間程火を見つめ、火が消えたのを確認し、焼け後に土を掛けながら独り言を呟いていると声が飛んで来た。
「そうだな、まだ十日くらいは女神の季節が続くからな」
声がした方を向き返事をする。
「やっぱり眠れませんか?」
すると布を敷いて横になっていたスゥニィが起き上がり、焚き火の側まで来ると俺の腰掛けている横倒しの木に座る。
「鈍っていると思ったんだがな、魔物の魔力を関知するとどうしても目が覚めてしまう」
困ったもんだと呟くスゥニィに、お茶を入れますねと言って横に置いてある袋から茶葉を取りだし、慣れた手つきでお茶を入れていく。
「あぁ、ありがとう。セラには及ばんがお前も入れ慣れてるな」
「日本では身の回りの事は一通りやっていましたから」
そうか、スゥニィはそう呟いてからお茶を飲むと星を見上げる。
「まだ朝まで時間はあるし地球の話を聞かせてくれないか?」
「それは構いませんけど、それならお茶じゃなくて珈琲の方がよかったですね。にしてもスゥニィさんは本当に地球の話が好きですよね、リズやレイナもそうですけどスゥニィさんはそれ以上です」
俺がそう言うとスゥニィは俺に目を向け、まぁなと笑う。
「もしもお前の住んでいた所に、違う世界から来たという人が現れたらどんな世界に住んでいたのか興味が出ないか?それに私にとっては叔父さんが行った世界だからな。叔父さんはどんな世界で暮らし、その世界がどうなっているのか気になるのさ」
スゥニィはそう言ってお茶を飲み、ふっと息を吐く。
「それと、本来の森人はこの世界の成り立ちから生きているという誇りに捕らわれて身動き出来ない頭の固い種族なんだ、だから私の様に叔父さんに憧れ、里を飛び出す様な異端な存在は珍しい物が好きなのさ」
スゥニィはそう言って残りのお茶を煽り、空になったコップを渡してくると、ニヤリと笑い、さぁ話せと言ってくる。
スゥニィの叔父はロビィフゥドという名の森人で、地球に名が残っているロビンフッドの事らしい。
俺は苦笑いをしながらお茶を入れ直し地球の話を聞かせる。
ラザの町を出て三日、俺達は森人の里に向かい旅を続けている。
今夜の火の番は俺だが、魔物が近づくとスゥニィはその気配で目を覚ますので、なかなか眠れていないらしい。
そのままスゥニィに地球の話を聞かせ、たまに襲ってくる魔物を倒していると夜が明けてきた。
「そろそろ朝食の準備をしますね」
そう言って話を切り上げると袋から野菜を取りだし、昨日襲ってきたフラムディアの肉と一緒に朝食を作り始める。
この世界の食べ物はある程度地球の物に似ているが、少し色合いが違う。これは全ての食材が魔力を含んでいるからだ。
そしてこの世界の食べ物は総じて美味しい。魔力を含んでいるせいなのか、食材におでんの大根の様に味が染みているのだ。
そのせいでたまに米や素麺などさっぱりした物も食べたくなるが、おでんが好きだった俺には我慢出来る程度だ
太陽が山から全身を出す頃になってリズとレイナが起きてきた。そろそろ朝食が出来上がるから顔を洗って待っててと言うと、わかったと返事をして顔を洗い始めた。俺も木で作られた器に料理を盛り付けていく。
リズとレイナの準備も終わったので、さぁ皆で食べようかという所で突然スゥニィがスプーンを置き、迷惑な奴だと声を出した。
少しして俺の空間把握にも反応が出る。俺は側に置いてあった黒曜石の籠手と具足を着ける。
「三匹だから直ぐに戻る」
そう言って駆け出す。その時に見たスゥニィの顔が笑っていた気がするが、気にせず森の中に入り反応のある方に向かう。反応からすると人形の魔物二匹と昆虫形の魔物が一匹のようだ。
「これ、もしかして人じゃないか?」
人形の魔物が昆虫形の魔物を連れて襲ってくるのかと思ったが、なにやら魔力の動きがおかしい。どうやら人形の魔力は昆虫形の魔力から逃げているようだ。
「人が襲われているのか」
そう判断した俺は身体操作を使い、速度を上げて反応の場所に駆けていく。するとレイナより少し下くらいの男女が蜘蛛の魔物から逃げているのが見えた。
木と木の間を上手く使い、大きめの蜘蛛の魔物からなんとか逃げているが、子供達の逃げる先には開けた場所がある。
子供達は後ろを振り向きながら逃げているので気付いてないのか、進路を変える余裕がないのかだろう。このまま開けた場所に出たら追い付かれると思い、魔物を鑑定しながら全力で駆ける。
シュピネコプス:魔物
魔力強度:18
スキル:[蜘蛛糸] [索敵]
魔物はそこまで強くなさそうだ。鑑定で確かめると身体操作で右腕に魔素を集める。
俺が先に開けた場所に入り、ここで魔物を迎え撃とうと二人の子供の正面に出ると、二人がこちらに気付いた。
「逃げてっ!」
男の子が俺に叫ぶ。そしてもう少しで二人が開けた場所に出るという所で女の子が転んでしまった。その瞬間、俺は少女の元に駆ける。
「いやっ」
蜘蛛形の魔物は大きな体を持ち上げ、女の子の上に覆い被さる様な体勢から口を開き噛みつこうとするが、立ち尽くす男の子を追い越した俺が一瞬早く女の子の元に辿り着き、覆い被さる魔物の胴を左足で蹴り上げた。そして蹴り上げられた魔物の頭胸部と腹部を繋ぐ節めがけて、魔素を集めた右腕を振り抜き体を上下に断ち切った。
直ぐに半身を無くして崩れてきた魔物の腹部を蹴り飛ばし、倒れている女の子を抱き上げ怪我が無いかを確認する。
女の子は森を逃げ回ったせいか服はボロボロで擦り傷は多いが、大きな怪我は無さそうだ。
「大丈夫だった?」
目を瞑って固まっていた女の子に声をかける、女の子は恐る恐る目を開け茶色い瞳で俺を見て、辺りを見てまた俺を見るとコクンと頷いた。
それを見て微笑むと男の子に声をかける。
「君も大丈夫だった?怪我はない?」
すると男の子もコクンと頭を下げる。
そこで男の子の頭に小さな獣耳がついているのに気付く。あまりに自然で、似合いすぎていて気付かなかったが女の子の方もよく見ると獣耳がついていた。
取り敢えず名前を聞こうとすると急に男の子が叫ぶ。
「すっげぇ、お兄ちゃんすっげぇな。ガッと蹴ってズバッと斬ってドカンと蹴り飛ばした」
側まで来てすげぇすげぇと声をあげる男の子を落ち着かせようとするが、男の子の興奮は中々おさまらない。取り敢えず皆の所に戻ろうと言って女の子をお姫様抱っこしたまま歩き出す。男の子は俺の周りをはしゃぎながら着いてくるのでそのまま三人で森の外に向かって歩き出した。




