テオとセオ
森で助けた二人を連れて皆の所に戻るとスゥニィがニヤニヤしていた。あの顔は魔物じゃなくて人が追われていると気付いていたな。
三人の近くまで行くと、スゥニィにお前なら間に合うと思ったがもう少し空間把握で魔物とそれ以外の魔力の違いを感じろと言われた。
スゥニィの言葉に頷き、隣を見る。リズは苦笑いをしていて、レイナは俺に抱かれている女の子をずっと見ている。
スゥニィは森の声が聞こえる森林調和というスキルを持っているので、スゥニィから森の中の様子を聞いて、俺が人を連れて来るのはわかっていた筈なのにレイナは何故ずっと女の子を見ているのだろうか?
まぁいいや。取り敢えず自己紹介をしようと思い女の子を下ろし、少し離れて立っていた男の子を呼ぶ。
そして、スゥニィから聞いてわかっているとは思うが、一応森で魔物に襲われていた所を助けてきたと伝える。
それから二人に名前を聞く。
「俺はトーマ、君達の名前を教えてくれる?」
「テオだ。兄ちゃんさっきはありがとな!格好よかったぜ」
「セオ、です。さっきは、ありがとうございました」
俺とセオは十歳で双子なんだとテオが元気な声で答える。
テオは距離が近いな、いきなり兄ちゃん呼びだ。
セオは人見知りなのか少し怯えている感じだ。
三角形の耳は狼っぽいな、二人とも茶色の髪に茶色の瞳、テオは子供らしく元気な顔をしているがセオの方は少し元気がなく、大人びて見える。
森を逃げ回ったからか二人とも服があちこち破れている。
二人の名前を聞いて、リズ達も自己紹介をする。テオは森人のスゥニィを初めて見たと驚いていた。
自己紹介が終わるとレイナが治癒魔法で二人の擦り傷を治し、食事の途中だったので詳しい話は後で聞く事にして、森から持ってきた枯れ木を使った即席の椅子にテオとセオを座らせる。
食事はスゥニィから話を聞いてレイナが作り直したのだろう、俺が作った時より多目になっていたスープを予備の器に入れて、鼻をヒクヒクさせているテオと、その隣で俯いているセオに手渡す。
するとスープを渡された二人はキョトンとした顔をする。
それを見たリズとレイナは顔を顰める。スゥニィはやはりと呟くと、お前らの分だから一緒に食えと言って二人を促す。
スゥニィの言葉に俺は少し不思議に思ったが、テオがうんと元気に頷きながら、セオは恐る恐るといった感じで食べ始めたので俺も食べる。
テオが足りなそうにしていたのでお代わりするかと聞いたら三杯もおかわりをしていた。
スープが無くなったところで食事が終わり二人に詳しい話を聞く事にする。
スゥニィが何か知っていそうな感じだったが、お前が聞けと言われたので俺が話を聞く。
「それで、二人はなんで森の中で魔物に追われていたんだ?」
俺が質問をすると、ずっと俯いているセオの隣でテオが元気に答える。
「俺らは獣人界のペンディオ村から人間界のジーヴルって国に出稼ぎに行くとこだったんだ。でも、この森の近くを馬車で通ってたら狼の魔物に襲われてさ、それでセオと一緒に森に逃げたら今度はあの蜘蛛の魔物に襲われて」
そしたら兄ちゃんに助けられたんだ。そう言って嬉しそうに笑うテオ。
レイナに聞いた話だと、この世界は大きな一つの大陸にあり、そこに殆どの種族が住んでいるらしい。
海にも幾つか大小の陸地があるらしいが、海には陸地よりも大きくて危険な魔物が多いので船が出せず、大陸の外は殆ど未開になっているようだ。
大陸では基本的に中央の平地が人間界、北から東に連なる山脈が獣人界、東から南西にかけて大森林がありそこが森人界、南西から北西までの近海にある島と海岸沿いが鱗人界だ。
森人以外の種族はお互いの国に暮らしていたりと色々交流もあるが、森人は例外を除き森人界からは滅多に出ないようだ。
俺がこの世界に来て最初に訪れ最近まで住んでいたラザの町は平地の東側に位置していて、そこから南西にスゥニィの出て来た集落があるので、今はそこに向かっている所だ。
俺達は大陸の中央東寄りのラザから南西に、テオ達は大陸の北から南に向かっていて、その途中で偶然出会った訳だ。
「そっか、その歳で違う国に出稼ぎって二人は偉いな」
そう声をかけると、セオが俯いたまま首を振る。俺が顔を向けてどうしたのと聞くと、セオも一度顔を上げて俺を見るが、直ぐに俯いて話す。
「私達は、売られたんです」
売られた?俺はそう思いリズとレイナを見る。リズとレイナは何かを言いにくそうにしていて、それを見たスゥニィが口を開く。
「二人は奴隷として買われたんだな、獣人界は気候が厳しく貧しい村が多いからな」
そう言われて二人を見る。森を逃げ回った時に破れたと思っていた服だが、よく見るとそれ以外のほつれや汚れも以前からあったようだ。
体もあまり肉付きは良くなく、茶色の髪もくすんでいるように見える。
「……奴隷」
レイナからこの世界に奴隷がいることを話には聞いていたが、話だけではピンと来ていなかった。
いざ目の前にすると、どんな顔をしていいかわからない。
セオはそんな俺の顔を見て、目を伏せた。
「お前の故郷では今は奴隷は扱っていないと言っていたな、平地の東側ではあまり見ないが他所では普通だ。そう認識しておけ」
スゥニィが子供達の前なので日本の事をぼかして話す。
「お前らを買った奴はどうなった?」
誰も声を出さないのでスゥニィが二人に聞くと、セオが顔を伏せたまま答える。
「護衛の人と一緒に馬車を離れて逃げようとした所を魔物に襲われていました。その隙に私達は森に逃げたので」
「そうか。お前達はまだ首輪も無いし仮登録だな、子供だと思って割と自由にさせていたんだろうな。まだ仮契約なら契約書もお前らを運んでいた奴が持っていたはずだな。お前らはこれからどうするんだ?ジーヴルならもう少し南だが子供二人で行ける距離ではないぞ」
俺はスゥニィとセオの会話に入れず、テオは二人の会話を理解していないのか、交互に二人の顔を見ていたが、突然セオに詰め寄る。
「セオ!売られたってなんだよ、奴隷なんて聞いてないぞ!」
「ここ二年の不作でどうしようもないって母さんに言われたの、二十年の契約だって言ってた。私は覚悟が必要だからって母さんに話を聞かされたけど、テオに話すと騒ぐからって、テオもそのうち気付くだろうって言ってた」
テオは二ヶ月以上も旅をしてても気付かなかったけどねとセオは言う。
そしてセオから村を出てからの事を聞かされた。
最初は十人くらいの獣人の子供がいたが、北から南に移動しながら町に寄る度に子供は減って行き、残りはテオとセオの二人になったところで、ジーヴルで子供の奴隷が欲しい人がいるというのでそこに向かう事になり、その途中で魔物に襲われたらしい。
この二ヶ月で奴隷としての扱いを教えられたが、テオはそれを人族と獣人の違いだと思っていたようだ。
「この人達、さっき私達と一緒に同じご飯を食べたでしょ?人間と獣人だからって食べる物は変わらないし、食べる時間をずらしたりもしないんだよ」
そうテオに説明するセオは、とても十歳には見えなかった。
「嘘だ!だって父ちゃんが雇い主の所に行ったら良い物も食えるし、良い家にも住めるから寒くないって言ってたぞ!」
テオがセオに詰め寄るが、セオは淡々と説明している。
俺はどうしていいかわからず、リズとレイナも何と言っていいかわからないようだ。
「取り敢えず片付けをして馬車が襲われた場所に行くぞ。二人を運んでいた奴らも生きているかもしれんしな」
スゥニィの提案に、二人を奴隷として買った人が生きていたら、この二人は奴隷として連れていかれるのかと思い、思わず声を出したくなったが、俺には他に何も考えが無いので口を噤み、顔を強張らせ片付けを始めた。
そんな俺をリズとレイナは心配そうに見るが、二人にも他に考えは出ないようで無言で片付けをする。
片付けが終わると、森は魔物が出やすいのでセオに襲われた場所の方向を聞いて森を迂回しながらそこに向かう。
テオは無言で俯きながら着いてくる。
一時間ほど森に沿って歩く、スゥニィが時折セオに方向の確認をしているようだが、それ以外は皆無言で歩く。
そして、森から少し離れた所にある街道に、馬の繋がれていない馬車があるのが見えてきた。
馬車の近くまで歩いていくと、身形のいい男と、少し距離を置いて冒険者風の二人の男の食い散らかされた死体があるのが見えた。
スゥニィがセオにコイツらかと聞くとセオが頷いたので、スゥニィは身形のいい男の食い破られた服を剥ぎ取るとポケットを調べ始める。
「レイナは二人を連れて馬車の側に、ついでに馬車の中の確認もしてくれ。トーマとリズはそこの死体から身分証になりそうな物と、何か他に使えそうな物があればそれも剥ぎ取ってから死体を持ってきてくれ」
俺はテオとセオを買った人が死んでいた事に少しホッとしている自分に戸惑いながら、スゥニィの指示に従い男の荷物を漁る。
ゴブリンやオークを解体して少し慣れてはいるが、人の死体と臭いだと思うとまだ少し吐き気がする。
荷物を漁ると真っ黒になった冒険者カードが出てきた。冒険者カードは登録された持ち主の魔力を読み取り情報を表示するが、持ち主が死亡すると魔力が途切れ、真っ黒になって機能を停止する。
俺とリズはカードを見つけた後も荷物を漁り、武器や旅に使う道具類は使えそうなので別にして、残りは死体と一緒にスゥニィの所に持っていく。
スゥニィも丁度調べ終わっていたので身形の良かった男に冒険者の死体を重ね、燃料をかけて火をつける。
火が消えるのを待つ間、清浄と飲水の生活魔法で自分の体を綺麗にし、火が消えると土をかけて後始末をする。そして馬車の側で待っていたレイナ達の方に、死体から取った荷物を持って歩いていく。




