事故and不運→接近チャンス
入学して一週間が経ったある日
ラグは、生まれ持ったヘタレの性ゆえにマリエール嬢に話しかけるどころか掲示板で手紙を送ることさえ出来ていなかった。
“マリエール・テナ・エディエスト殿 僕はラグーン・グラ・アンクァトルと申します。突然ですが、僕の研究を手伝って頂けないでしょうか。詳しいことをここに書くことは出来ませんが、簡潔にまとめると新属性の発見です。興味がわきましたらご返答を”
いささか不躾だが、これが僕が彼女と接点を持てるであろう唯一のことだ。まぁ書いても送る勇気はないのだがな!
いつもと同じように手紙送信の画面を閉じようとしたとき、
『こんにちは、担任のベス・ガーグです。突然ですが、Sクラスの皆さんにこの一年間の課題を出します』
「!?ああぁぁぁぁ!」
余りの驚きに『送信』を押してしまった。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
『・・・です。期限は1週間以内です。では』
「え?」
うそ、一年間の課題を聞き逃しちゃった。あ~、Sクラスの面々に「課題何だった?」なんて聞けないしなぁ
あ、そうだ!こうなれば、手紙をきっかけに接近しよう。会話の中で課題の内容も探ればいいや!よし、じゃあ早速手紙を。いや、この際直接会いに行こう!
ラグは勢いよく部屋を飛び出していった。その後、ヘタレ属性を十分に発揮しマリエの部屋をノックするのに30分の時を要したのは、言うまでもない。
◆◆◆
担任から言い渡されたSクラスの今年の課題は、『2人以上のメンバーで何かについて研究をし、月ごとにその成果を報告する』だった
マリエが今年度の課題に取り組むにあたってのメンバーの条件を決めていた。
「私の研究に必要なのは“量より質”、無駄はいらない。最悪、2人でいいわ。そして何より、掲示板を使っての参加申請は全却下よ!」
コンコンコン
「みゃ!?」
大丈夫よ。聞かれてないわ。落ち着きなさい、私。
ノックの5秒後、30秒間だけ扉付近の防音の魔法が解けるようになっている。
「誰かしら?」
“ラグーンと申します。今年度の課題についてのお話があります”
ふむ、家名を言わなかったのは、点数が高いわね。ラグーン、ラグーン、ラグーン・・・あ、侯爵家の。たしか次席だったかしら。対応次第では研究に加えてもいいわね。
「ただ今、開けますわ」
マリエは扉を開けラグを部屋に招き入れた。ラグはマリエの部屋に入るのをためらっている様子だった。そして持病が発動した。
「速く入りなさいな。天才の弟の名が泣くわよ」
「え」
やってしまった。いつもこうだ。人と話すと相手の神経を逆撫でするような言葉を発してしまう。なんで私は普通に話せないのかしら。
「何やっているの。貴男は木偶なの?」
「え、あ、いや、すみません」
この反応は珍しいわね。だいたいはしょげるか怒るかなのだけれど。
「本題に入りましょう。課題についてだったわね。貴男如きが私の研究を理解できるのかしら」
ラグは何かに気付いたような表情を浮かべた。
「あの」
「何」
「普通に話してもらっても結構ですよ?」
天才の弟というのは、ラグを馬鹿にする言葉。ラグは蔑称と気付かずほめられていると思っている。