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女神のミッションが理不尽すぎる。  作者: 心理的に学生
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9/11

ストーキングしてるのバレてしまったんやけど

サアアア。


草と風が戯れる。昼下がりの少し暖かい風が吹いていた。


ここは町外れの墓地だった。柵の外に見える丘にはちょっとした草原が広がっている。


遠くに半壊した教会のようなものも、見えた。


俺は近くの小屋らしき建物の裏に隠れて、ゼファードを見張っていたが、思わず小声でミナに話しかけてしまった。


(ミナ、ここ…めっちゃ綺麗だな。)

(そうだね、私もそう思った。さっきの町からは考えられない…。)


ゼファードは、ミナが予想した通り、墓地で馬を降りた。


馬を近くの建物に止めたゼファードは、墓地に入っていく。


そのまま、一つの墓へ向かって歩いていった。


「カリーナ。」


ゼファードは銀の肩章がついたマントの下の鞄から、黄色い花を数本、取り出した。

その花をしばらく見つめてから、墓の上に置く。


(ミナ、カリーナって誰だ?)

(え?待って、今見る。)


ミナはえーっと、と言いながら空中をいじってみたが、何もわからない様子で肩をすくめて言った。


(あー、《《書いてない》》な…。でも、たぶん戦友とか何じゃない?)


戦友…か。の割にはなんか空気が生ぬるいんだけど?


っていうか、今《《書いてない》》って言ってよな?

やっぱミナ何か見てるだろ、絶対。


(て言うかミナ、ずっと思ってたけど、何見て言ってるの?)


ミナは苦笑いして言った。


(あのね、これも《《あれ》》なんだけど…。)


――あれ?

あっ、言うとまずい系か。


(なるほど。そういうことか。)

(うん、察して?)


つまり、幽霊になった時の特典みたいな感じか。へー。


俺たちが小声で話している間も、ゼファードは墓の前で感傷的な様子だった。


「今日の巡回中に、南通りの例の子供たちから貰ったんだ。お前に渡してくれって。

お前が死んでから何年も経ってるのに、あの子たちはまだ『綺麗で強かったカリーナ姉ちゃん』を覚えているらしい。……ははっ。俺の嫉妬を煽るのが本当に上手いな、お前は。」


(ねえミナ、カリーナって人さ、ゼファードの恋人とかだったんじゃない?)

(うん。)


ゼファードがあまりにも寂しそうなので、俺たちまで悲しくなってきた。


ミナがふざけてるみたいにして言った。


(しくしく。)


ふん、泣きそうなのを隠すつもりなのかな?恥ずかしいからぁ?


俺はニヤっとしながらミナを見る。


さっきの、串の件で笑われたことへの、仕返しだ!


ゼファードは墓石に手を当てて温度を確かめるようにしていった。


「…これから防壁の予算案について話さなきゃいけないから、そろそろ行くよ。あの狸親父め、また防壁の維持費を削ろうとか言ってくるだろう。


はあ…頭が痛いよ。お前が横で睨みを利かせてくれたら…。

そしたらあいつも一発で首を縦に振るんだろうが……な。」


(ぐすっ)


聞いていたミナが本当に泣き出してしまった。さっきは何とか耐えたみたいだけど、今度は無理だったようだ。


(うっ、ぐすっ、切ないよっ…。)


また冗談のつもりか?って半笑いでミナの方を見たら、本当に泣いてて驚いてしまった。


おえ?!おお、落ち着け!

いや、声は聞こえないだろうけど、対応に困るわっ!


(え? いや、泣くなよ…?)

(だってぇ…。)


俺はしばらく黙ってしまったが、何とか言葉を出した。


(えーっと、大丈夫か?)

(うん…。)


ゼファードは続けて墓に向かって言った。


「……あぁ、分かっている。弱音はここまでだ。

じゃあ、また明日。夜は冷えるから、風に吹かれるなよ」  


そう言ってスッと立ち上がった。


(うわっ!やばい!)

(ぐすっ!悠馬、!)


思ったより急に立ち上がったのと、ミナが泣いてたのとで、予想外が重なったこともあって、対応が少し遅れた。


元々ヤバかったら亀裂を使って逃げるつもりだったのに、一瞬で戻ってきたので、全く亀裂の用意をしていなかった。

だから俺は走って逃げようとした。


(逃げて!)

「うおおお!やばい!」


が、その瞬間。


「君は、ここで何をしている?」


ゼファードに呼び止められた。


こんなことになるなんて予想もしていなかった俺は、思わず立ち尽くした。


(悠馬!どうする…?!)


ど、どうしたらいいんだ?!


くそっ!俺は何も見てない。俺は何も見てない。何も知らないから!


そう思いながら、俺は知らないふりをしてやり過ごそうとしたけど無駄だった。


足を踏み出そうとしたら。


「待て。」


呼び止められた。


…終わった…。


そう思いながら恐る恐る振り返る。


「なぜ私を見ていた?」

「…えっ、と。」


あー、やばい。何も思いつかねえ…。


俺が口ごもるのを見て、ゼファードは、言った。


「では、質問を変えよう。何が目的だ?」


ミナが、焦った声で言ってくる。


(悠馬、何か言って!)

(いきなり、そんな事言われても…!)


俺は小声で返事した。

俺の口がわずかに動いたのを見たのか、ゼファードが言った。


「何だ?」

「あ、いや…、」


…。やばいぞ、本当に何も思いつかない!

もう適当に言ってしまえ!


「尾行したわけじゃないんだ!」 


一瞬の沈黙。


(悠馬?!何言ってるの!!)


あ、やべ。


(言い直して!!)

「貴様!」


だめだ、緊張しすぎて間違えた!!


ゼファードは腰にささっている剣の柄に手を当てた。


俺は慌てて言った。


「これは、誤解です!」

「ほう……ならばどういうことだ? 黒いマントを着た怪しい男が、墓地に潜んでいた。そして、そいつは俺を尾行していたという。

これが、誤解だと言うのか?」


ゼファードの目が、すっと細くなる。兵長としての顔だった。さっきまでの、墓前でみせた、寂しそうにしていた男の気迫とは全く別人のような気迫が、こちらに向けられている。


(悠馬、まずいよ……!)


分かってる!分かってるけど、でも、何も思いつかないんだよ……!


俺は何とか言葉を絞り出した。


「えっと、その、あっ、墓参りです!」

「墓参り?」


ゼファードの片眉が、わずかに上がった。


「私はあの日から、この墓地に毎日通い続けている。だがお前の姿を見たことなど、一度もない。

それでもおまえは、自分が墓参りしに来た者だ、と言うのか?」


ぐっ……。

そう来るか。そりゃ当然だ、こんな格好の怪しい奴が、いきなり「墓参り」って言ったって誰も信じないだろう。俺でも信じないわ。


くそぉ…。


「説明しろ。今すぐに。」


ゼファードの足が、一歩、こちらに踏み出す。だが幸いなことに、その手はまだ剣の柄を掴んでいた。


ミナ!頼む、助けてくれよ!

何か……何か理由になりそうなもの……!!


俺は内心で叫びながらも、表向きは何とか落ち着いた顔を保とうとしていた。だが、汗が背中を伝う感覚だけは止められない。


斬られたら……いや、それは大丈夫か。

俺のステータス高いっぽいし。

でもその前に、あれが発動してしまう。


「《《処刑します。》》」、という文字が浮かび上がり、ゼファードがまるで紙のように貫かれる様子が、脳裏をかすめた。


絶対に攻撃を受けちゃだめだ。


いくら世界が滅ぶくらい重大なことであっても、そんなポンポン人を殺す気はない。もしやるとしても、気絶させるくらいで、何とか抑え込むしかない…。


俺は右手で、亀裂を起こす準備を始めていた。最悪、躱しながら昏倒させる。

それしかない。


ゼファードがさらに一歩、距離を詰めてくる。


「最後の警告だ。答えろ。」


その時だった。


(悠馬、待って――!)


ミナは俺の前に飛んできた。


(見つけた……!! これだよ! 6年前に…ダンジョン災害があった!この街も含めてものすごい被害があったっんだって!ここはそのための墓なんだ! これは世間的に非公開な情報だから! これを使えば!!)


えっ?何を言ってるんだ?


急に大量の情報を言われて、思考が追いつかない。


困惑する俺に対して、ゼファードは今にも攻撃してきそうな様子だった。


ミナが頭を抱えて言った。


(ああ、もうっ!

今は口で言ってもわからないか!

くそ、こうなったら…!


これ使うと数日の間、私のインベントリが《《使えなくなっちゃう》》から、できるだけ使いたくなかったけど、仕方ない!!


おりゃぁっ!転送っ!)


ミナはそう言うと、俺の体に右手をめり込ませた。


「へっ?」


何してんだミナ?!

待て!、転送って?!―――


その途端、俺の頭の中に電撃が走った。

ミナが、幽霊になった特典の例のあれで見つけたであろう情報が、一瞬で流れ込んできた。


「ぎゃぁぁぁぁあ!!?うおおおおっ!?」

「は?!」


突然に意味のわからない叫びを上げ始めた俺を見て、ゼファードは動揺して手を止めた。


俺は、ゼファードを、動揺させているとも知らずに、溢れてくる情報を必死に整理していた。


――そうか、この情報が本当なら……今こそ、演劇部部長の実力を見せる時!!


そう思って俺は、ゼファードの目をまっすぐに見た。


あ、ちなみに俺は現世で演劇部の部長だったんだよ。


「ふう…。」


心を落ち着かせる。


ゼファードが困惑したまま聞いてくる。

この兵長さん、割と優しいようだ。


「だ、大丈夫か…?」

「ええ。ありがとうございます。」


俺は、そう答えると、かつてなく悲哀な雰囲気が漂う様子を醸し出した。


右手を少し前に出す。


「実は……父を…失ったんです。」

「なっ…?」


ゼファードの抜きかけた剣が、止まった。


「ずっと探し続けても、見つからなかった。

だから…今日初めて、この墓地に来ました…。」

「…。」


ゼファードは黙ったまま聞いていた。


「なぜなのかは、分からない。でも、確かに呼ばれた気がしたんです。


ここはどんな人が眠っている墓なのかは、俺にはまだわからない。


……そう。区切りをつけたかったんです。


ここに来て――いないのは分かっていても―父がいると思えば……なんだか、少しは心が落ち着く気がして。


……ははっ、おかしいですよね、過去の幻影に今もすがり続けているなんて…。」


俺は、まるで自分が世界で一番悲しい存在だ!みたいな顔をしながら心の中で笑った。


はははっ!噓に決まってるだろっ!!


全部、今この場で組み立てた噓にすぎない。だが、噓には、ミナが見つけた、隠された真実の重みが乗っている。

ゼファード、恋人を失ったおまえは、信じざるを得ないんだ!


俺の卑劣な予想通り、ゼファードの表情がわずかに揺れた。


「……お前も、なのか。」


その声には、さっきまでの鋭さがなくなっていた。


「…いつだ。お前の父上が亡くなったのは。」

「……六年前です。母の病気の治療費のために…行ってくる、とだけ言い残して。」


どんどん嘘を盛っていく。これで流石に信じるだろ。


俺がそんなセコい事を考えてるとは、少しも知らないゼファードは、しばらく黙ったまま、俺を見つめていた。


その目には、敵意ではない、別の何かが浮かんでいるのが分かった。


「……そうか。」


ゼファードは、剣の柄から手を離した。


「すまない。早合点した。本来、そのことは非公開よ情報だ。それを知っているということは、君は嘘をついていなかったと言えるだろう。」


よかった。ちゃんと信じ込んでくれた。


「そう。君の《《感》》の通りだ。……この墓地は、そういう者のために作られたんだ。あの時、何人もの兵が死んだ。お前の父もその一人だったのだろう?」

「……はい。」


ナイス勝手に解釈。


俺は小声で言った。


(乗り切ったな。)

(はは…悠馬…。ホントに。あなた、記憶を失う前からそうだったけど、やっぱり演技となると天才的だね。)


ミナは呆れたように笑った。

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