第6話 一般人を脅して情報を得ました。ひどいよね。
「おっ!この光は!!」
一本道を進んでいくと、奥の方に光が見えてきた。一階層だし、そろそろ出るはず。
しばらく進んでいくと本当に光が強くなってきた。
あれは!
「出口じゃないか?!」
(本当だ!)
ダンジョンの出口に走っていく。
外に出た瞬間、風が俺の横を走り抜けた。
見上げた空は、言葉を失うほどに澄み渡っていた。長く暗い場所から抜け出した俺の目に、その青さはあまりにも眩しく、そして美しかった。
――空って、こんなに綺麗なのか…!
胸の奥から湧き上がる歓喜を抑えきれず、俺は空へ向かって、ありったけの声で叫んだ。
「やっと出たぞーー!!」
触手ちゃんも叫ぶ。
「やったよぉー!」
(一階層は割とすぐいけたね!)
本当に良かった。
ちなみに、一階層はボスがヤバいだけで、本命の階層自体は、ほかのと比べるとそこまで広くなくて、すぐ出口にたどり着いた。
しばらく約三人で、喜びあった。
「っと…慢心してる暇はないんだったな。」
(そうだよ、さっき言ったみたいに、帝国側に入ってからが始まりだからね。まずどうやって入るかだよ。)
それなんだよな…。まずそこから考えなきゃいけない。
「残り時間は?」
(えーっと、ちょうど9日だよ。)
やばいな。世界が滅ぶまでの時間がちゃくちゃくと迫ってきてる。
(ま、突っ立ってても何も始まらないし、とりあえず帝国の方向に行こう。何かできるかもしれない。)
「まあ、そうだな。」
俺はミナが指をさす方向に、歩き始めた。
◇◇◇
現在。
残り時間8日と18時間。
関守が俺の身体検査をする。
もちろん俺には亀裂があるので、荷物を持っているはずもない。
それに触手ちゃんは勝手に俺の中に戻っていった。
だから、問題なく入れた。
「入れ!」
城門を抜ける。
「入るのは全然問題なかったな…。」
(ふふっ。そうだね。――ついたよ…ここが帝国領の城塞都市、アイゼン。)
「うわああ…!」
俺はミナの案内に従って、ヴァルディア帝国の城塞都市である、アイゼンにたどり着いた。
城塞都市のイメージって、軍事拠点みたいな感じだと思ってた。
でも、中は全然違った。
茶色の石畳に、立ち並ぶ店。街灯まであった。中世のヨーロッパのような街並みだった。
ここって異世界なのか?!
異世界って正直、山とか森とかそんなものばっかりだと思ってた。
俺は自分の期待がことごとく裏切られたことに驚く。
とは言えども、するべきことは変わらない。戦争を起こさなければならない。
「ミナ、俺はここで何をすればいい?」
(えーっと…)
ミナは空中で何かをいじる。
俺は思った。
絶対何かあるんだよな…。考えるときのクセなわけがない。
(簡潔に言うと、悠馬は、この街にいる、帝国の軍の新人の兵長にさせなきゃいけないことがある。)
させなきゃいけないこと?
「それは…?」
(悠馬は、その人に取り入るか何とかして、リヴァイア王国が攻撃してきた!ってことにしてほしいんだよ。)
「ほう…?」
ミナは、近くの商店の看板の上に座って(るふうにして)、言った。
(王国と帝国って、首都が結構近いからさ、この街が攻撃を受けたとなれば、帝国軍はすぐ出兵するってわけ。あ、ちなみにこの街は別に首都じゃないよ)
へー。
「要するに、その人に成り代わってどっかににその文章を送ればいいんだな?」
(うん、そんなとこ。あ、ちなみに一応城塞の一部を壊したほうがいい。嘘の情報だと思われるから。)
「まかせろ、暴力は俺の得意分野だ。」
最難関ダンジョンから出られたし?
俺の能力値は結構最初から高いみたいだ。記憶を失う前の俺はよっぽど頑張ったんだろうな…。
それに、触手ちゃんもいる。俺より圧倒的に強い。
「心配なのは成り代わることだけか…。」
でも、成り代わろうにも、その人がどこにいるのかわからない。
「なあミナ、そいつがどこにいるのかわるか?」
(わかる、けど…。)
あ…。
嫌な予感がした。
(これを教えると、残り時間が3日になるって…。ごめん。)
そんなっ?!
それを教えてもらわないと何もできないだろうが??
だが、すごく貴重な時間だ。3日になるよりは、自分で探した方が時間に余裕があるだろう。
「しょうがない、自分で探すか。」
(私もできるだけ時間を減らさないように教えるからさ、一緒に頑張ろう?)
いい子だな、ミナ。
「ありがとう。」
とは言ってもな…。できることが思いつかない…。
「どうしようかな…。」
(人に聞いてみるとか、どう?)
「確かに!」
って一瞬思ったけど、重大なことに気がついた。
あれ?
そもそもこれ、俺が王国のフリをして攻撃して、城塞を壊せばよくね?
「ミナ…。俺重大なことに気がついたかも。」
(え?)
「これさ、俺が城塞を、王国のふりして壊せばよくね?」
そうすれば、勝手に伝令が行くだろうし。
(それはダメ!)
え?
「なんで?」
(魔力が残っちゃうから!この城塞には感知魔法がかかってるから、先に兵長をなんとかしてからでないと、問題になる!この国の諜報機関は、本当に、本当に、強いから!後々すごく面倒だよ!!)
あ、そうなのか…。
俺は頷いた。
(言ってなかったけど、この街は――と言うよりこの国全体が、諜報機関が普及してるから、行動には全部気をつけないといけないよ。)
マジかよ?
俺そんな危険なとこで、戦争起こそうとしてるのか?!
はあ…。
俺は頭に手を当てた。
ミナがそれを見ていった。
(まあ、悠馬。考えるのはそこまでにして、行動を早く始めないと大変なことになるよ!!)
「ああ。そうだな。」
落ち込んでても何も始まらないしね。
俺は人通りの少ない道に移動すると、近くにあった小さい屋台に近づいていった。
店主とみられる男が話しかけてきた。
「買っていくかい?お兄ちゃん?」
「ああ。」
(この人からでも、何か分かるかもしれない。買うついでに聞いたら?)
ああ。ミナに言われなくても分かってるさ。
俺は店主に悟られないようにミナへの返事のかわりに、頷いた。
店主が聞いてくる。
「1本銅貨2枚だよ。」
「じゃあ…2本くれるか?」
「はい、分かった。《《銅貨》》、4枚だね。」
俺は、袋の中に亀裂を作って、そこから《《金貨》》を1枚取り出した。
ちなみに、これはこの街に向かって歩いてる途中に気がついたことだ。触手ちゃんと話してたら、亀裂のなかに、大量の金と金貨が入っていることが発見されたのだ。
記憶を失う前の俺って、マジで何者?!
って思った。
パシッ。
屋台の台にほかの人に見られないように手で少し隠しつつ置く。
「これで頼む。」
「――ん?
何だこれ…ひぇっあ?!き、きん…!
兄ちゃん?!何のつもりだい?!」
「代金だ。」
「なっ…?!」
「そのかわり、教えてほしい事がある。」
「さ、そんなこと言われたって、私は、な、何も知らないぞ。」
店主は、俺に金を押し返すと、屋台を閉めようとした。
「待って。」
俺は、店主の屋台を閉めようとする手を制止した。そして、もう一枚金貨を取り出した。
金貨を見せる。
「もう一枚必要?」
「や、やめろ。俺は厄介事には関係ないからな。これも、返すから。どこかへ行ってくれ。」
店主はそう言うと、制止する俺の手を振り切り、店のカーテン的なものを閉じて、閉じこもってしまった。
(あー悠馬?…ちょっとまずいんじゃない?)
「だな…。」
ちょっと可哀想だけど、やるしかない。万が一にでも、例の、ミナが言ってた諜報機関とやらに伝えられたら、かなり面倒なことになる。
俺は人目のつかない路地裏に入る。店主の屋台の中に亀裂を作るイメージをした。
そして、壁に亀裂を作った。
パキパキパキッ
触手ちゃん直伝、亀裂式空間移動だ!
俺は亀裂に近づいた。
◇◇
「どこかへ行ってくれ。」
「まて―――」
ガラガラ。
何とかあの少年を追い払った。
ふう…。
俺は汗を拭った。
「何なんだったんだ…あの子は…。」
そう言いながら思い浮かべる。
俺には娘が一人いる。最近生まれたばかりだ。
ここであの少年の面倒事に巻き込まれたりして、諜報機関に召喚でもされたら、それこそ本当の終わりだ。嫁と娘は誰が面倒を見るっていうんだ?
あの少年には悪いけど、俺はまだ死にたくないんだ。
だが…
「金貨2枚か…。」
俺たちみたいな庶民にとってはとんでもない額だ。何ヶ月かけても稼げないような額。
「もらっておけば……」
いや、だめだ。
俺は嫁と娘の顔を思い浮かべて首を振った。
その瞬間だった。
冷たいものが、首筋に当たった。
――はっ?!
声も出なかった。出そうとした声が、喉の途中でつっかえて出てこなかった。
「動くなよ。」
背後から聞こえた声に、体が一瞬で冷えた気がした。
さっきまでの少年の声だ。間違いない。
唾を飲む。
俺は、壁の方から何かが軋むような音がしているのを、たしかに聞いた気がした。
だがそれを確かめる余裕はない。首筋には硬く、冷たい金属の感触があった。微かに動かせば切れる、そういう距離だ。
「君…な、なんで……ここに……?」
「ごめんな。」
カチャッ。
謝罪と同時に、冷たい刃を突きつけられる。その理不尽さに、頭が追いついてこなかった。
「乱暴な事はしたくないんだ。だから、教えてくれ。」
声は静かだった。怒っているわけでもない。だがその静かさが、何よりも恐ろしかった。
◇◇
――しばらくして。
俺は屋台のカーテンをくぐった。
店主は怯えながら金を受け取った。
「見つからないように使えよ。」
俺はそう言い残して、横から出た。
外の空気は変わらず夕方の匂いがする。誰も、こんな路地裏の屋台の中で何が起きていたかなんて知らない。
ミナが小さくため息をつくのが分かった。
(脅すなんて……。まあ、最低限で済ませたみたいだから良しとするけど。)
「でも、一応聞けた。だろ?」
俺はそう返しながら、聞き出した情報を頭の中で整理する。
「とりあえず、どこにいけばいいのか分かった」




