第4話 魔法が復活した(一部だけ)!!
ミナが何かを見ながら言った。
(こいつは、エターナル・シャーマン!魔法攻撃が一切効かないよ!)
「わかった!助かる!」
…となると、触手ちゃんに押さえてもらって、俺がハルバードで叩き潰せばいいんだな!
「触手ちゃん、こいつを抑えてて!俺が倒す!」
「わかったぁー!」
触手ちゃんが、エターナル・シャーマンを抑える。
シャーマンは、抑えられているのに、杖を振り、俺に金色の閃光を放ってくる。
(悠馬、前!)
「ああ!」
どうする、避けるか?
でも今ならできる気がする――成功したことはないけどっ!
「《空間魔法》!」
狙うはシャーマンの死角、杖の裏だ!
――――――――――――――
《空間魔法》を使用します。
指定した座標に移動します。
――――――――――――――
うおおお!!成功だ!
「よし!」
(おおっ!成功じゃん!)
やっぱり窮地に追い込まれるとできるタイプだな、俺は。
…おっと、慢心してる暇はないんだったな。
俺は、事前に作っておいた亀裂からハルバードを取り出し、背後からシャーマンの頭を叩き潰した。
「おらああああ!!」
「ギエエエエエ!」
シャーマンの頭に直撃。
その瞬間、シャーマンが最後の力を振り絞り、呪いを放った。
くそ、避けられない!
だが。
「僕のきゃんでぃー!!」
きゃ、キャンデイー?!
「何で?!」
触手ちゃんが呪いを掴むと、そのまま引っ込んだ。
なっ?!
「おい、それ掴めるのかよ?!」
(やるね!触手ちゃん!)
「へへへ!これぇ、すごく美味しぃんだよぉ!」
触手ちゃんの、シャーマンを掴んでいた腕から黒い霧が出て、双方を溶かす。
(一階層の敵にしては、かなり強い方だったね…。)
「確かに。」
さっきから弱すぎて満足できない敵ばっかりだった。
ところで、お味は…んん?!星4と星5!
星4のシャーマンは普通のゴブリンと味がほとんど変わらないけど、それでも美味しい。
それに対して、呪いは冷やした砂糖のような味がする。
「うおおお!」「うぉぉぉおぉ!」
俺と触手ちゃんは同時に叫んだ。
ミナが羨ましそうに見つめてくる。
(……そんな美味いの?)
「ああ!最高だ!」
「さいこぅ!!」
美味すぎる!!だから、キャンデイなのか!
ところで、みんな(?)。
俺がいきなり魔法とか使いだして驚いていることだろう。
こうなったのには理由がある。
◇◇
俺が五階層に来たときだった。
ボスを倒して、ちょうど階層の入り口に踏み込んだところ。
ちなみに、逆向きに進んでるからボスが最初に出る。
俺は、触手ちゃんのおかげで思ったより早く進めていたので、余裕が出てきた。
「余裕だな!これならすぐ出られそうだぞ」
(うん、予想よりだいぶ速い。今残り時間10日と1時間だから、一階層あたり……)
その時だった。
触手ちゃんが、いきなり体を震わせた。
ぶるっ
「うおっ、どうした?!」
「あ、なんか美味しそうな匂いがぁ、するのぉ〜。」
え?
お前鼻無いだろ?!
(えっ?)
「匂い感じられるのか?」
「そうだよぉ…美味しそうな魂の匂いぃ!!」
(あ、そう…。)
ミナが苦笑いした。
俺もミナを見て苦笑した。
だめかもしれない。俺の腹のこれはもしかしたら悪魔なのかもしれない…。
いや、でも戦争を起こさなきゃいけないんだから悪魔でもなんでも、助けてくれるならいいや。
それにしても匂いなんて感じないぞ?
「匂い? 俺何も感じないけど?」
「うん。あっちのほぉ。」
黒い霧のような腕が、廊下の脇、本来の進もうとしていたルートとは違う、薄暗い通路の方を指した。
(悠馬、寄ってみたら?)
「は?時間ないだろ?」
(まだ大丈夫だよ。今、すごい速いから。ちょっとくらいいいと思うよ?)
なぜかは分からないが、ミナの方が乗り気だった。
それに、触手ちゃんが美味しそうな匂いを感じてるってことは相当美味しいのかもしれない。
今は、世界の危機より胃袋の方が大切だ。
「……まあ、ちょっとだけな。」
そこから、どうやって移動したのか、正直あまり覚えていない。気づいたら、もうその場所にいた。
「なっ?!」
通路の先に広がっていたのは、ダンジョンの中だとは思えない空間だった。
大理石でできたような白い壁に、不自然なほど整然と並んだ実験器具。錬金術じみた装置や、得体の知れない液体が入った瓶。
「これって…」
(研究所…?)
本当に研究所みたいな場所だった。
(まって、人がいる。)
その部屋の中央の机のような場所に、フードを目深に被った人間が数人いた。服に不思議な紋章が刻まれていた。
そいつらは、机に何か書いてある紙を広げて、話し合っていた。
「こんに――」
(ダメっ!)
俺は久しぶりに見た人間だったので、話しかけようとした。だが、ミナに止められた。
俺は少しキレ気味で返した。もちろん小声で。
「…何だよ?!」
(悠馬、よく考えてみて。ここまで人が全然いなかったよね。ってことは、こいつらは普通じゃない。それに、あれを見て。)
ミナが指差した先を見る。
彼らの後ろには、台座に固定された「何か」があった。
黒い霧のような物体が、意思を持っているみたいに渦巻いて、檻のような結界の中でうごめいている。輪郭は定まらない。けれど、明らかに「生き物」としての気配があった。
「何やってんだ…?」
(…実験。)
ミナの声がいつもと違ったので、驚いて見る。ミナの顔が険しかった。
ローブの男たちは、何かを測定するような器具を構えて、黒い霧に向かって魔法らしき光を当てている。霧が、苦しむように震えた。
その時だった。
「——僕の、食い物をぉ!!!」
触手ちゃんの声が、いつもの軽さから、一段下がった。
「え、ちょっ、お前ま——」
止める間もなかった。
腹から伸びた触手が、爆発的に増殖する。瞬く間に、研究所中に広がった触手が、ローブの男たちに向かって一斉に殺到した。
「な——なんだこれは!」
「ぎゃあああ!」
「やめろ!!触手ちゃん、待て!」
俺は叫んだ。
けど、触手ちゃんは止まらなかった。男の一人が抱えていた瓶を弾き飛ばしながら、別の腕がもう一人の腹を貫く。
まずい!事情も分からないまま、人を殺すのは——
「《捕食》!停——」
ウィンドウが浮かびかけた瞬間。
(——ダメ!)
ミナの声が、鋭く割り込んだ。
「な、なんでだよ!」
(止めちゃダメ!あいつらは、生きてちゃいけないんだよ!!)
ミナの声には、今までに聞いたことのない緊張があった。
二人してどうしたんだよ、一体…。
俺は止めかけた手を、止めた。
信じる。今は、それしかできない。
数秒後。
研究所は、静かになっていた。
ローブの男たちは、もう、誰一人として残っていなかった。――ように見えた。
「うまうま。」
触手ちゃんが、満足げに体を震わせながら、最後の一本を引き戻している。
二人は何を知ってるんだ?
なぜ、あんなに憤ったんだ?
「……。」
「美味しかったぁ……」
触手ちゃんの声に、さっきまでの低さはもう、なかった。いつも通りの、軽い声。
俺は味を感じますのも忘れて、立ち尽くしていた。
——正しかったのか、これで。分からない。けど、考える時間は、なかった。
だが、部屋の奥、檻のような結界の前に、一人が残っていた。年配の男だった。フードが外れて、白髪混じりの顔が見える。
「く、何者だ貴様らっ……こんな、ところで……」
男は、何かを呟きながら、手元に小さな魔法陣を展開させた。
その瞬間——俺の中で、何かが、引っかかった。
その光、その展開のされ方……知ってる……?
男の足元が、魔法陣の光に包まれる。
「あっ!逃がさないよぉ!」
触手ちゃんが追撃しようとしたが、その前に、男の姿がふっと消えた。
瞬間移動?
——その瞬間だった。
「あっ」
頭の奥で、何かが、弾けるような感覚があった。
景色が一瞬だけ、二重に見えた。
同じ魔術を、別の誰かが——いや、俺自身が、何度も使っているような。
手の感覚、魔力の流し方、座標を指定する時の意識の置き場所。
そして、俺が苦労して手に入れた何が戻ってきた感覚があった。
『《空間魔法》』
頭の中に、文字が、確かに浮かんだ。
「っ…今…のは?」
急に顔に熱いものを感じた。触れてみると、水滴がついた。
涙が出ていた。どうして…?
「主ぃ?どうしたのぉ?」
触手ちゃんが、心配そうに肩に乗ってくる。
俺の腹に慰められてもな…。
ミナも、心配そうに降りてきた。
(悠馬、どうしたの? 大丈夫……?)
いい子たちだな、君たちは…もう。
「ああ。大丈夫だ。」
俺は、しばらく、自分の手を見ていた。
俺はその手で拭き取ると、言った。
「なあ、ミナ。今あいつが使った魔法見たか?俺、それに見覚えがあるんだ。っていうか……俺、使えるかもしれない。」
ミナはふっと笑った。
(……やっと思い出した?)
「いや、完全にじゃないけど、でも何かを思い出した気がする。例えば座標を指定することとか、それを使ったときの感覚とか……。」
《《戻った》》記憶は完全ではない。でも、確かに何かが《《戻った》》感覚があった。
(いいね。じゃあさ、移動しながら練習しない?)
おお、俺もそうしようと思ったぞ。
「いいな。」
俺たちは少し早足で歩いていった。




