第3話 10日以内に戦争を起こさないと世界が滅ぶので、最難関ダンジョンをRTAします。
「今度はどっち?」
(今度は…こっちだった気がする。)
気がするってなんだよ?!
「信頼していいのか?」
(いや、その…。たぶんね。いけるでしょ!)
ミナは両手を肩の横に出して、たぶんっていうポーズをする。
自分、俺の案内人だ!って言ってたのに…。
「はあ…俺が怪物になるまで後どれくらいか分かるか?」
(調べるね、ちょっと頭かして。)
ミナはそう言うと俺の頭に手を乗せてきた。しばらくすると、ミナは妙な顔をした。
(……。あれ?もう怪物になってる感じがするんだけど……?)
「は?…どういうことだ?」
……いや待て。心当たりがある。
俺は腹を見た。触手が生えていた。
「あのさ…これじゃね?」
触手ちゃんを指差す。
「ん…?どうしたの主ぃ?」
「何でもないよ。」
ミナが考え込んで言った。
(ってことは……すでに汚染されてた?)
俺もそう思う。そうとしか考えられない。
なんだ、心配しなくてよかったのかよ…。
「心配しなくてよかったのか。気楽にいこう。」
(あ、それはダメ。)
えっ、ダメなの?!
「何で?!」
(それはね…)
ミナは空中で何かを操作している様子をしながら言った。
(あと……13日しか残ってないんだよ。)
何を見てるんだ?それに、13日って?
「なにが?」
(…自由時間が。)
…自由でいられる時間が13日ってことか?
「えーっと……どういうこと?」
ミナは少し考えると言った。
(…その、悠馬は、実は未来から来たの。)
俺が未来から来た?記憶を失っただけじゃなくて?
「え?」
(うん。未来。)
「そ、そうなのか。 それで、自由時間ってのはどういうこと?」
(自由時間と言っても、あることを始めさせなきゃいけないの。その期限があと13日ってことなの。)
ミナが俺の前に降りてきて言った。
「……あること?」
(まず、地上に出るじゃん? それから、戦争を始めさせないといけないんだよね。一秒でも遅れるといけないらしいよ。それができなかったら、世界が崩壊しちゃうんだよね。)
へー。戦争を始めさせればいいのか。そうしないと世界が崩壊するのか。
………へっ?! 戦争?! 世界が崩壊?!
「じ、13日以内に戦争を始めされないと世界が崩壊するの?!」
(そう。もちろん、悠馬の元々いた世界もね。全てが崩壊するの。)
意味わかんねえ?!!!どういうこと?!は?!
俺が世界の運命握ってるのか?!
「な、何でだよ?!!」
(なんかよくわからないけど、女神様が因果関係がうんちゃら〜とか、言ってたっけ?
よくわかんなかったから「はい、任せてください」って言ったんだよ!)
額に汗が吹き出る。
いや、だめだろそれは!!
ちゃんと考えろよそこは…!!
「やばくね?!!早く出ないとじゃん!!!」
あと13日。
つまり、このダンジョンをできるだけ早く抜け出さなければいけないということ。もしできなかったら世界が滅ぶ。
ミナ、お前、何で今まで言わなかったんだよ?!!
「なんで言わなかったんだ?!」
(うーん、言うとデメリットがあるとか言ってたかな?)
デメリットがあるのかよ?!これ以上どう悪化するっていうんだ?!!
とにかく!
「急いだほうがよくね?!」
(うん。急いだほうがいいと思う。走る?)
当たり前だろ!!13日で戦争を始めなきゃいけないんだから…!
「触手ちゃん!今から走るから、出てくる敵全部倒してくれ!」
「任せてぇー!」
触手ちゃんがぶるっと揺れた。
俺は再び走り出した。
(あ、そうそう。デメリットは、今この事実を悠馬に伝えたことで、タイムリミットが2日縮まって、10日とあと少しになったよ!)
ミナがウィンクしながら言った。
…?
「は?!お前っ!」
(まあ、でも悠馬なら行けるかなって。)
「もおおおおお!!」
マジで終わった…!どうしたらいいんだ!
何で何もわからないまま、いきなりこんなダンジョンに放り出されて、いきなり戦争を起こせって言われるんだよ?!!
ホントに!
「滅茶苦茶すぎるだろ!!!!」
◇◇「自動戦闘」
走り始めて、すぐに気づいた。
明らかに、さっきまでより敵の強さが変わっている。
最初に道を塞いだのは、全身が鎧のようになった大型の猿——いや、猿みたいなんだけど何が違う。
洞窟の奥の方を向いて何かを食っている。
「ウキイイイイイ!!」
いや、鳴き声は猿なのかよ…。
それにしてもデカいな…これじゃあ通れないぞ…。
「うわっ、デ――」
だが、俺が声を上げる間もなく、触手ちゃんの触手がパァンという音を立てた。
うおっ!
音がするレベルって……音速じゃん…触手ちゃんやば。
俺の腹から伸びた一本が、猿型の懐に滑り込む。鎧はもはや関係なかった。まるで紙を貫くみたいに、心臓のあたりを正確に狙っていた。
ブシュッ、という音もしない。それくらい綺麗な貫通だった。
(触手ちゃんナイス!)
「へへへ。もーらいっ。」
触手の先端が、ぱくり、と開いた。
猿の巨体の輪郭が崩れて、霧のようになって、触手の中へ吸い込まれていった。
味は…微妙だな、星3だ。
「あんまり美味くないな。」
(あれ、美味しくないんだ、前は美味いって言ってたのに。)
「満腹なだけだ。」
(へー。)
走りながら解説しよう。
俺が満腹なのに食わせているのには理由がある。
一つ目は、いくら満腹でも食べられる、ということ。満腹なのに胃が全然満たされないから、そのまま吸収されているんだろう。
二つ目は、食べると元気になるからだ。
食べるたびに疲労が回復している感じがする。と言っても、全然疲れてないが、体力が満タンの状態ほどいいことはない。
隣上のミナが俺のお腹に話しかけた。
(触手ちゃん、今の旨かった?)
「うーんとぉ……硬めだったぁ。でも美味しいよぉ!」
しばらく行くと、人型の影に近い、輪郭がぼやけた何かが三体出てきた。
(悠馬、触手ちゃん、これはファントムだよ!通常攻撃が通らない!)
ミナが言う前に触手ちゃんの強烈な一撃が届いていたが、攻撃の瞬間だけ実体化するタイプらしい。攻撃が通らなかった。それにすごく足が速かった。
こんなのどうやって逃げるんだよ?と考えていると、ファントムたちが俺に腕を伸ばしてきた。俺の目の前まで迫る。
まずいっ、当たる!
「うわあっ!」
だがその瞬間、触手ちゃんの黒い手が枝分かれして一気に中心を貫いた。
ズブッ、ズブッ、ズブッ。
三体同時に命中した。
ファントムは、串刺しにされたまま、じたばたともがく。けど、それは数秒のことだった。
「いただきまぁす。」
三体が一気に、触手の中へ消える。
口の中に味が広がった。
…星2!
ほんとに"味が広がった"だけで、美味しくもなんともなかった。俺は絶妙な顔をする。
でも、触手ちゃんは違うようだった。
「うぅん、おいしぃ!」
俺は驚いて問わずにはいられなかった。
「……触手ちゃん、食うものは全部美味しいのか?」
「えぇ?主の中にぃ、入るものだからぁ、何でも美味しいんだよぉ。」
(えっ?)「え?」
俺とミナ同時に言った。
いや、どういう理屈だよ……。
坂道に差し掛かった。
(ここを上れば次の階層だよ!!)
「よし、行くぞ!」
その瞬間。
ズゴゴゴゴ…。
「な、何だ?!」
今度は地面そのものが盛り上がってきた。地面から砂を垂らしながら大きな物体が起き上がった。
(ゴーレムだ!古代魔術の賜物だよ!)
ゴーレムは俺めがけて手を振る。
「うわっ!!」
危ねえ…!
間一髪で避ける。
ゴーレムの動きは遅い。だがその分パワーが凄まじい。それに。
「うわ、硬そう……」
「だいじょぶだよぉ。任せてぇ。」
いや、でも、いくら触手ちゃんでも攻撃通らないだろ…。
触手ちゃんの声は、相変わらず緊張感がなかった。
伸びた触手が、ゴーレムの表面に巻きついた。だが、やはりゴーレムに引きちぎられる。
あー、やっぱりダメじゃん…。
俺がそう思ったその瞬間、巻きついた部分が変質した。急に触手の密度が上がり、先端が、ドリルみたいに高速回転を始める。
ゴリゴリゴリ!
という嫌な音と共に、ゴーレムの体に、穴が空いていった。
(なっ!?)
は?!
触手ちゃんはあっという間に、ゴーレムの中心、核のように見える光る石まで貫通した。
ゴーレムが膝から崩れ落ちた。
「す、すげえ!!」
崩れた瓦礫まで、触手ちゃんは丁寧に拾い集めて、消化していく。
「石も食うのかよ?!」
「えぇ?前は主がぁ、「ふははは、かるしうむだ」って言ってぇ、自分から食べてたじゃん?」
いや、知らないわそんな言い訳。
でも、確かに味を感じる。チーズみたいな味だ。…美味い。
にやけている俺の横で、ミナが空中の何かを操作しながら、ちらちらとこちらを見ていた。
(……ねえ、悠馬。)
「ん?」
(急がなくていいの?)
はっ!!
味に気を取られてすっかり忘れてた!
「急げ!」
最後、坂の手前に立っていたのは、三メートルほどの巨体を持つ、角の生えた、ゴブリンみたいなやつだった。
(オーガの変異体?!)
そいつは俺たちに気がつくと、正確には俺しかいないんだけど、咆哮を上げた。
「グオオオオオオオオオッ!」
咆哮だけで壁が揺れている。
間違いなくこいつはやばい…!
俺は怖気付いて後ずさった。
「うっ…。」
だが、触手ちゃんは喜んでいるようだった。
「見ててぇ。」
腹から、新たに4本の触手が出てきた。
それぞれの触手が空中に文字を書いた。魔法陣が浮かぶ。
…これって、さっきの縮小版か?
オーガが咆哮し、足を踏み出したその瞬間、四本の触手の前に描かれた魔法陣から、黒い光線が放たれる。
オーガは直撃して、動きを止める。
「グオオオオオオオオ!!!!!」
その瞬間、後ろの空間が裂けて、中から出てきた触手ちゃんの黒い腕がオーガの心臓を貫いた。
「消えろぉー!」
オーガは崩れ落ちると、そのまま静かに黒い触手に触れて、消化された。
お味の方は…。
「――星5!美味い!」
高級な豚肉の味。それにちょうどタレをかけたような、素敵な味。
触手ちゃんも満足したようだ。
「うまぁいぃ!」
俺たちは坂に近づいた。
「ここを上がれば——」
ミナは、坂の上を指差した。
「——あと、七階層だよ。」
「え……あと七層?」
「うん。地上まで、あと七つ。」
俺は、坂の上を見た。
これがまだ7階あるのか?!
「……間に合わないぞこれ、終わってるだろ!」
思わず叫んでしまった。
「終わったぁー!」
と俺の腹も一緒に叫んだ。何が終わったのか分かってないだろお前。…まあいいや。
(まだまだ先は遠いね……。)
「急がないとな。」
俺たちは先を急いだ。




