第2話 触手ちゃんが強すぎる
しばらく進んでいく。
「なあ、ミナ、今どこらへんにいるんだ?」
(うーん、ちょっと見てくるね。)
ミナがどこかに飛んでいった。
「触手ちゃん、俺ってもともとどんなやつだったんだ?」
「えーっとねぇ、主はぁ、……強いんだよぉ。」
「あ、そう。 …他には? どんな仕事をしてたんだ?」
「うーん。僕が生まれたときぃ、主は冒険者だったよぉ。」
「へー。」
冒険者か。どうやら俺は異世界で冒険者だったらしい。
まあ、異世界に来たなら冒険者になるのは当たり前か…。
そう思っていると、ミナが帰ってきた。
(悠馬ー!)
「おかえり。どうだった?」
(まずいかも、ここさ、もしかしたら、永劫の深淵かもしれない…!!)
何だそのいかつい名前は?
「え?何それ?」
(世界最難関ダンジョンの一つだよ!)
…?
な、世界最難関だって?!なんで俺がそんなとこにいるんだよ!
「どういうことなんだよ?!」
(ここに長くいると狂気に飲まれて怪物になるから早くでないといけない!)
狂気に飲まれる?!俺怪物になるの?それは絶対嫌だ。
「それやばくね?!早くでたほうがいいよな!、絶対。」
(うん。ホントに急いだほうがいい。)
俺は走り出した。
岩壁が流れていく。
洞窟は、今にも怪物が出てきそうな雰囲気だ。壁に松明がついてはいるが、それでも怖い。幸いなことに、まだ敵は出てきていない。
しばらくすると、分かれ道に出くわした。
「…あ。」
迷路の法則だと左にいけばいいのだろうが、迷ってる時間はない。ミナなら、何か知っているかもしれない。
案内人だって言ってたしな。
「ミナ。どっちにいけばいいかわかるか?」
(待って、また見てくるから。あんまり動かないでね。)
それは、案内人の能力とかでわからないのか…。まあ、見てくれるだけましか…。
「ああ。早くしてな。」
ミナはじゃあ行ってくると言って飛んでいった。
…。
「遅いな…」
キシッ
はっ…何だ、今のは?!
俺はあたりを見回してみたが、何もいない。
「よかった、何もいないのか…」
これはダメだ。フラグになる…。前言撤回。
「ミナ早く戻ってこないかな。」
だが。
キシシッ
「いやいや」
まただ。絶対何かいる。……まさか敵じゃないだろうな…。
「触手ちゃん、何か感じるか?」
「うん?敵がいっぱいいるねぇ。」
「敵がいるのか?!」
「うん。」
その割には全然音がしないけど…。
いや、もはや静かすぎる。さっきまで空気の流れるような音がしてたのに、今は何の音もない。ちょっとまずいかも?
その時、
ピチャ。
頭の上から液体が垂れてきた。
「うわっ!!」
慌てて頭を拭うと、指先にはドロっとした黒い液体がこびりついていた。
鼻に近づけると、アンモニアをお酢に入れたみたいな匂いだった。
あれ、それだと中和しちゃうか…?
いや、そんなのはどうでもいい。
とにかく、くっさい!!
「なんだっ、これ……?!」
その瞬間、
「キチキチキチキチキチッ!!」
鼓膜を劈くような凄まじい音。
「なっ!」
驚いて頭を上げると、天井の岩肌に、胴体が細長く、手足が肥大化した気持ち悪い怪物たちが、大量に張り付いていた。
きゃあ!きしょい!!
さっきから音がなかったのはこいつらが吸い込んでたからか!!なぜ気づかなかった!
「うわあああああ!逃げろ!!」
死ぬ!!死にたくない!
だが、俺とは逆で、俺の腹は喜びだした。
「やったぁぁぁぁぁ!!」
……?何で、触手ちゃん!?
喜んでる場合じゃないって!!
「ひぃ……ッ!」
だが、俺が向きを変えるよりも早く、怪物たちが飛び掛ってきた。
「キチッキチッキシシシシッ!!」
目を強くつぶる。
「うわあああああ!!!」
目を閉じながら、思う。
ははは。俺、ここで終わりか。
ここに来てからずっと叫んでばっかりだったな…。なんだか走馬灯が見えるよ…。
目が覚めて、ミナと出会って、ゴブリンを食べて…………。あれ?これで終わり?
もっと他にないの?
次の瞬間、口の中に味が広がった。
次々と液体が流れ込んでくる感覚。
美味っ!ゴブリンを食べたときみたいな…。
はっ!
星5、ごまドレッシング入りわかめサラダ!?(のドレッシングだけ)
「なぜ?!」
目を開ける。
すると、視界がすごいことになっていた。
俺の腹の目の前がすごい勢いで回転していた。
「はははははっ!!!楽しいよっ!美味しいよっ!主もぉ!やろう!!」
触手ちゃんが、次々と飛び掛ってくる怪物を、一気に貫いていた。
触手ちゃんの腕が、敵の一人の胸のあたりを貫く。貫いた腕でそのまま隣の敵を貫く。
怪物たちが触手に攻撃しようとした瞬間、触手から、さらに無数の腕が生えて次々に串刺しにしていく。
すご…!?
触手ちゃんが俺の前に怪物たちを何体か串刺しにしたもの持ってきた。
「見てぇ!串刺しだよぉ。」
「おお、すごいな。…じゃなくて、お前強くね?!」
「……何を言ってるのぉ?主の方がもっと全然つよいよぉ?」
そんなわけ無いだろ?!俺戦ったことないんだけど……いや、あるのかもしれないが、少なくともその記憶はない。
「とにかく、助かるよ、全部任せる。」
「いいのぉ?!じゃあさぁ、魔力使っていい?」
魔力って魔法が使えるやつか?俺、魔力あるのか?
文字が浮かんできた。
――――――――――――――――――――
警告:スキル《捕食》[ n:1 分離 ] が魔力回路への接続権を要求しています。
承認しますか?[ 承認 ][ 拒否 ]
――――――――――――――――――――
「承認。よく分からないけど。とりあえず全部任せる!好きにしてくれ。」
「ありがとう!主、大好きぃ!」
触手ちゃんは、そう言うと、俺の魔力をすごい勢いで使い始めた。
腹の奥から力が抜き取られる感じだった。
ちょっと、きついかも…。
だがその瞬間、空気が変わった。
周囲に漂っていた魔力が、俺の腹のあたり、触手ちゃんに向かって、一斉に収束していく。
……あ、これ、やばくね?
パキッパキパキパキッ
その瞬間、空間に亀裂が走った。
一本じゃない。二本でもない。
俺を中心にして、前後左右、斜め。頭上。
——あらゆる方向に、黒い切れ目が、音を立てながら広がっていった。
あれは、なんだ?空間が…割れてる?
亀裂の縁が紫色に光り、そこから魔法陣が——六芒星の、複雑な幾何学模様が——次々と展開された。
まて、これ何個あるんだ?
十。二十。三十……。数え切れない。
俺は数えるのを諦めた。
「主ぃ、よく見ててねぇ——いくよぉ!」
触手ちゃんは、楽しそうに言った。
目の前の光が強くなる。
そして、魔法陣から、触手のようなものが溢れ出てきた。
一本ずつじゃない。それぞれの陣から束になって、まるで蛇の群れが一斉に解き放たれたみたいに——縦横無尽に、空間を切り裂きながら伸びていった。
それらは、対数螺旋を描いて怪物たちに襲いかかった。
怪物たちが気づく暇もなかった。
串刺し。
串刺し。
串刺し串刺し串刺し——
断末魔すら上がらない。触手は急所を正確に、一撃で貫いていた。
数秒も経たないうちに、辺りは静まり返った。
「……。」
俺はしばらく、その光景を、ぼーっと眺めていた。
ずらりと並んだ魔法陣。それぞれの触手に貫かれたまま、ぶら下がっている怪物たち。
まるで標本みたいに……は?
俺、何もしてないんだが…。
ていうか、これ、俺の腹から出てきてるやつがやったことだよな?
「どお?」
触手ちゃんが、俺の目の前に伸びてきた。
「……どお、じゃないだろ…。お前…すげえな!!!」
これは、もう、笑うしかない。
「すごすぎだろ、お前。」
「えへへ。」
魔法陣が次々と閉じていく。
散らばっていた魔力が、俺の体へ戻ってくる。
触手から霧が出て怪物たちの死体を吸収していく。
まだまだあるけど、もう満腹だ。
「ねえ、触手ちゃん。」
「なぁに?」
「さっきの魔法陣、いくつあった?」
少し考えてから、触手ちゃんは答えた。
「……五十二。」
「……。」
「足りなかったぁ?」
「足りすぎだよ。」
はあ…。
凄すぎる…もう俺いらないだろ…。
俺はお腹から生えた触手ちゃんを気にしながら再び座り込んだ。
しばらくすると、ミナが帰ってきた。
(ただいま、悠馬〜。)
「おかえり…。」
ミナは周りの状況を見て目を見開いた。
あたりには固体化した触手に刺さったままの、怪物たちがたくさんあったからだ。
(なっ、これは、?)
「触手ちゃんだよ…。」
(これってアビス・コブリンのグールだよね?!)
「アビス・コブリンって?」
(ゴブリンがこのダンジョンの瘴気と魔力にやられて変異したやつ。1体いるだけで街が滅びるやつだよ?!そんなのがなんで、こんなに…?しかも、グールで…?!)
そんなヤバイ奴だったのか…?!
まじで…。
「触手ちゃん、ほんとすごいな。」
「へへへぇ、ありがとぉー!」
触手ちゃんが強すぎる。
これなら、ここから、なんとか出られるかもしれない…。
「よし。」
戦闘は全部任せよう!
俺はラクするぞ!
俺は立ち上がった。
ミナはまだ少し呆然としていた。
「ミナ、行かないとまずいんだろ?教えてくれ。次の道を。」
(あ、ああ。そうだったね。ここはこっちだよ。)
俺はミナについて行った。




