屋上
投稿遅れました。
今日は人生で一番最悪な目覚めだ。
重い体を起こして立ち上がる。
昨日お風呂に入らずに寝てしまったので、朝シャワーを浴びることにする。
お風呂場の鏡で自分を見て、初めて目が腫れていることに気づいた。
昨日のことをまた思い出してしまう。
そんな憎たらしい腫れを引き込もうと顔を冷水で浴びる。
多少ましにはなったかもしれないが、これでは誰かに気づかれてしまうだろう。
そんな懸念を持ちつつも時間がないので諦めて風呂場を出て朝の支度を終わらせて家を出る。
今日の天気は雨だ。そのせいなのか頭が少し痛む。喉も風邪をひいているみたいに調子が悪い。最悪な朝だ。
全てを雨のせいにして逃げ出したい。そんな馬鹿なことを考える。
教室に着くと、朝練で普段は顔を見せない運動部たちが大勢いた。
雨で部活が中止になったのだろう。
みんなが少しハイテンション気味に話をしていたので、何のために部活に入っているのだろうと聞きたくなった。
「明日から夏休みだぞー。お前どうする。」
あ、夏休みでテンションが上がっていたのか。なんだか申し訳ない。
「はーい、みんな座ってー。」
先生が教室に入ってきて教卓の上に立つ。
その後先生からは夏休みの注意事項と課題の説明があった。
そうして一時間目が始まり四時間目が終わりお昼の時間となった。
俺はいつも通り屋上へと向かおうとしたが、雨が降っていて屋上は使えないことに気づいた。
お昼を食べれないのは少し残念だが、誰かに黒川と話しているところと、腫れている目を見られたくなかったため、黒川のことは探さずに誰もいないであろう端っこの階段に向かった。
階段の真ん中の段の端っこに座る。
ここの階段は掃除が行き届いていないのか、至る所に汚れが付着している。
朝よりも雨が激しくなっていて、いつものセミも鳴りを潜めていた。
そのせいなのか、少し物寂しい。
足がソワソワする。
心の中にあった小さな懸念が肥大化していき、体が乗っ取られそうになる。
「もしかして。」
不安や心配を解消するために立ち上がり、走ると歩くの中間のようなもので屋上へと向かう。
「ザーーー」
屋上のドアを開けると横殴りの風と土砂降りの雨が黒川を襲っていた。
「おーい!何してんだよ。」
雨を被らないよう屋根がついている場所から大声で叫ぶ。
雨音で聞こえないのだろうか、反応がない。
「おーい!!おーい!!」
連呼するが反応がない。
ズボンの裾を捲り、黒川のもとへと走る。
実際に水に足を入れ込むと思ったより深く、思うように進めない。
実際の距離は10メートルにも満たないはずなのに、遥か遠くのように感じられる。
「ぅんん!!」
やっとの思いで黒川のそばにたどり着き、手を引く。
その手は死人のように冷たくなっており、壊れてしまうかと握りしめることも怖かった。
「わっ。・・・・・」
この距離でも雨が強くてうまく聞き取れない。
ドアへとたどり着き、壁を支柱として二人で床へと座る。
「なにしてんだよ。」
「えへへ。まあちょっとね。」
普段は呆れてしまうのだろうが、今はそんなことはない。
嬉しそうな黒川の横顔を見ていると、少しだけ頭の中から嫌なことが遠のく。
「目、腫れてる。」
「もしかして、一人で寂しくて泣いてた?」
黒川も横を向き俺と顔を合わせ、じっと見つめて不敵な笑みを浮かべている。
「泣いてない。ちょっとぶつけただけ。」
手で目を覆い隠す。
「そっか。」
自分の中に確固たる自信でもあるのか深くは聞いてこない。
泣いてた理由は黒川には関係ないんだけどな。
でも、そう勘違いしていても嫌な気はしない。
「うゎあ。これ大変だよー」
「ほんとだ。」
水を含んだ制服から床へと水が流れていき、びしょびしょになっていた。
黒川は慌てて立ち上がり、俺もそれにつられて立ち上がる。
「これ、どうしよう。」
黒川は下を向き眉をひそめる。
「ここで待ってて。」
俺はそう黒川に対して言い、保健室へと足早に向かう。
周りの冷たい目線も気にしない。
とは思っているが、つい人気のない回り道を選んでしまう。
そんな自分も今は好きでいられる。
「先生。タオル二つください。」
「なんでそんなにびしょ濡れなの。風邪ひかないようにね。はい。これ。」
「ありがとうございます。」
心配しているのか怒っているのかそこんとこは良くわからないがすんなりと渡してくれて、俺は保健室を出て黒川のとこへと戻る。
「あ! ありがとう。」
階段を上っている最中に話しかけられる。
「ほいっ」
タオルを黒川の頭の上へと放り投げる。
すると、黒川は頭のタオルの両端を掴み髪を乾かし始める。
俺も上りながら全身を拭く。
黒川のもとへと着き全身を吹き終わったら、そのタオルで床を拭く。
「ありがとう!助かった。」
「どういたしまして。」
「ひと段落着いたことだし、ご飯食べよっか。」
「うん。だけど、、、これ大丈夫?」
俺は雨を被ってふにゃっとしている風呂敷を指す。
黒川は大丈夫だと言わんばかりにパッパッパと風呂敷をほどきお弁当箱の蓋を開ける。
「案外、いけるもんなんだな。」
「そうでしょ。」
「やばい。早く食べないと。時間終わちゃう。」
「そうだった。」
「「いただきます。」」
「桑田くんって優しいんだね。」
急いで食べているので食べ物を口に含みながら喋る。
「そこは私と似てないかも。」
わざとらしく陰鬱な表情を浮かべているように見えるが、寂しさが垣間見える。
「そうだな。」
からかってみるために、思ってないことを言ってみる。
「え!?」
「冗談」
ぽかんと開いた黒川の口が直ちに縮まる。
「なによそれ。そこは、そんなことないよ。でしょ!! ん! お仕置き。」
タコさんウインナーを乱暴に箸にさして、俺の口へと突き刺す。
そっぽ向いていて顔を確認することはできないが、きっと赤面しているのだろう。
朝から重かった胸が少し軽くなった気がした。




