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初めてのお弁当

バイトが終わり、夜9時に俺は靴を脱ぎ家へと入る。

玄関に置いてある靴は俺の運動靴と親父の靴のみで、親父の靴はひどく埃をかぶっていた。

リビングに行くとアルコールで酔いつぶれている親父の姿が見える。

俺が作り置きした昼食のお皿は机の上に置きっぱなしだった。

いつもなら洗ってあるのだが、酔って寝てしまったのだろう。

頬赤らめ気持ちよさそうに寝ている親父に、いつも通り棚から薬を出してそっと置く。

「親父。これ。薬。」

「・・・・・」

親父は腕の中でうずくまったまま動かない。


やっと口を開いたかと思えば

「一人にさせてくれ」

と情けないものだった。


夜ごはんの支度をし、家から逃げ出す。


医者が言うには親父は何個もの精神病を患っているらしい。

そのため医者から薬を服用するように言われている。

ただ実際のところ効果があるのかどうかは分からない。

俺はそんなどこにも預けることのできない安心を求めて、親父の言うことをすんなり聞き入れることしかできなかった。

そんな俺は今日もまたあの公園へと歩みを進める。


公園に着くとまた黒川がいた。

逃げようかと思ったがそれはもうやめた。


「黒川。なんでまたここに。」

俺から黒川に話しかけるのはこれが最初だったかもしれない。

遠慮なくずかずかと俺の中に入り込む黒川に対しては、気を使わなくていいと体が理解しているのだろう。


「あ、桑田くん。こりゃまた偶然。」

「ほらここ来て。」

黒川は黒川が座っている隣の席をたたきながら言う。


俺はそんなことを無視してまた端に座る。


「もしかしてツンデレ?」

「違うわ」

黒川に調子を崩され過剰に反応してしまう。


「で、なんで黒川はここの公園に来てるの。」

「私はねー。秘密。」

からかうように話す黒川を見て腹が立つ。

「あーそうかい。」

「ごめん。ごめん。怒った?」

「・・・・・」

俺はだんまりを決め込む。

そうしたら、いつか黒川も折れて秘密を話してくれるだろうと思ったからだ。


「私にも言えない秘密一つや二つあるよ。そうやってズカズカと質問してくと、女の子に嫌われるよー。」

「はあ。分かったよ。」

俺の予想は見事に外れ、それどころか煽られもした。


「てかさー、連絡先教えてよ。」

黒川がポケットからスマホを取り出す。


「あごめん。おれスマホ持ってない。」

「え、今時持ってない人とかいるのー??」

「いやだから、俺は」

「ああごめん。今のなしで。」

俺の返答を遮りながら黒川が謝る。

俺はスマホを持っていても使うことがない。

連絡を取り合う人もいなければ、娯楽にもさほど興味がない。


「でも困ったなー。もうそろそろ夏休みだよ?」

「何が困るんだよ。」

「そりゃあ。連絡取れないからじゃん。」

黒川はスマホをコツコツと叩きながら残念がっている。


「連絡取れなくても、どうせここで会うじゃん。」

不意に出た言葉に自分自身が驚く。

「あれー?私に会いたいってこと?ふふふ。」

そんな黒川に俺はそっぽむいて黙り込む。


「ふふふ。私もう帰るね。明日のお昼ご飯作るために早起きしなきゃだし。」

そっぽむいている俺に笑いを飛ばし、わざとらしく昼ご飯を強調する。


作りたいと言ったのは黒川なのに、なにをとぼけたことを言っているのだろうと思ったがその事を口に出すことはやめて手を振り、黒川が公園から出ていくのを見届ける。


そして、俺は昨日よりも少しこけた月が真上に来たのを確認して家に帰った。




ドアを開け無言で家に入る。

俺はいつからただいまと言わなくなったのだろう。挨拶はした方がいいとは分かってはいるが、今更挨拶をし始めるのは気恥ずかしい。


リビングに行くと、3時間前までいた親父の姿がなかった。


テーブルの上に薬の錠剤が入っていた殻と、少量の水が入っているコップがあることから、薬を飲んだことが伺え少しホッとする。

殻を捨てて、コップを洗い、親父の寝室を確認する。

案の定親父は寝室でぐっすりと寝ていた。


昔に比べて最近の親父は少し落ち着いてきたような気がする。

薬も一人で飲めるようになり、今日に関してはベットで寝ているのだ。

これも半年間服用し続けた薬の効果なのかもしれない。


俺は親父の寝室から出ると、明日の準備も終わらせて寝た。



今日はなんだか無性に学校に行きたくない。

頭だけではなく体もそう思っているのか、鉛のように重たい。

病は気からとはこのことなのだろうか。

先生の授業もほとんど頭の中に入ってこず、お昼までの4時間は、四季を一周するくらい長いものだった。


お昼の時間となり俺は昨日と同じように、屋上の床にねっ転がり空を見上げている。

雲は変幻自由に形を変え一人ぼっちの俺と会話してくれている様に見えた。

「あいつこねぇーじゃん。」



その時ドアが開き黒川が屋上へと入ってきた。

「はぁ、はぁ、あ、、ごめんごめん。待ったー?」

急いで走ってきたのか、ひどく息が上がって汗をかき、手を膝に置いて体を支えている。

俺はそんな黒川を見て不意に口角が緩んだ。

俺はそのことに気づくと慌てて口角を下げて、不機嫌な風を装った。


「遅い。」

「ごめんごめん。なかなか恵美達から離れられなくてさ。」

黒川は、顔を上げ、顔より上に両手を合わせ謝るポーズを取る


黒川は端正な顔立ちで友達が多く、男女共に人気がある。今こうやって俺と関わっているのが幻のように。だから今回のことも極自然のことだろう。


「はい、じゃあ食べよっか。」

黒川は俺の隣へと座り、お弁当を開ける。


「美味しそう。」

「ぷっふふ。食べ物には正直なんだね。」

「どう言う意味だよ。」

「そのまんまだけど?」


お弁当の中にはお米、卵焼き、タコさんウインナーなど王道なものが入っていた。


「「いただきます。」」

二人で合掌する。


「美味しい、。」


いつも自分が作る卵焼きとの美味しさの違いにびっくりし思わず声が漏れた。

どういう風に作っているか聞こうと思い黒川のほうを見て聞こうとすると、黒川は頬を赤らめていた。

褒められるのに慣れてないのだろうか。

そんな黒川を不覚にもかわいいと思ってしまい俺も赤面して顔をそむける。

お互い恥ずかしくなり、気まずくなったので冗談交じりで黒川に話しかける。


「これほんとに自分で作ったの?お母さんが作ったんじゃないの?」

「もう。せっかく喜んでたのに。自分で作ったに決まってるでしょ。」

口を尖らしながら少し怒る。


「それに、、、。私お母さんいないし。」

と、卵焼きを突きながら淡々と呟き、異様な雰囲気が空気に漂う。




「ごめん。無神経なこと言って。」

俺は咄嗟に謝る。

「いいよ。それよりさ早く食べよ。」

無理に明るくしようとしていることを感じ、その後の会話もうまく弾むことはなかった。



ご飯を食べ終わると黒川は立ち上がり、屋上特有のスカートに着いた汚れを手でふるい落とす。

「じゃまた明日。」

黒川が先に屋上から出て、時間を空けてから俺も屋上を出る。

バレないようにするためだ。



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