第22話 こちら黒沢。オタク君の部屋に潜入。エッチな漫画を発見しました。
「今確信しました……!
あの男は、変態です……!!」
まずいことになった……。
セリナさんはオタク君への疑念を確かなものにしつつある。
このままでは、銀条院さんとのお出かけに対しても悪影響が出るかもしれない。
……この窮地を何とかして切り抜ける。
セリナさんに、真偽はともかくオタク君は変態じゃないと信じさせて帰ってもらう。
それが……私、黒沢メイに課された使命だった。
――――――
セリナさんは、彼の部屋の壁にかけられた非常に直視しにくいタペストリーと、本棚にズラリと並べられた中々にエッチな漫画群を、気味が悪そうに眺めていた。
とりあえず私は、彼のフォローから始めることにした。
「まあまあ、男の子だし……しょうがないんじゃない?
男の子って毎日ムラムラするものだって聞いたことあるよ。
ほら、私達女の子だってさ……週1回くらいはそういう気分になるでしょ……?」
「黒沢様……一体何をおっしゃっているのですか??
私、そんな気分になったことなんて人生で一回もありませんよ?
仮になるとしても、それは好きな男性の方と一緒にいる時だけです。女の子は普通、そんな頻繁にムラムラしませんよ」
えええええ…………!?
お、女の子って、そうなの…………??!?
じゃあ、毎日ほぼほぼムラムラしてる私って……
へ、変態っ子ちゃんってこと?
「あはは……そ、そっか〜……」
私はセリナさんに相槌を打ちつつ、内心では物凄いショックを受けていた。
「……少しこれらの漫画を拝見してみましょう。あの男の趣味がわかるかもしれません」
そう言って彼女は、オタク君のエッチな本棚をじろじろと見回し、何か手頃そうな漫画本を選び始めた。
「ああ、もう……!
どれも読みたくありません……!」
セリナさんは困っていた。
――――ここで私の出番だと思った。
私がこの中から、可能な限りマシな、言い換えれば比較的まだ健全な漫画本をチョイスしてやるのだ。そうすれば、
「表紙はいかがわしいけど、中身は大したこと無いんだね」
という雰囲気になるかもしれない。
私はセリナさんにオススメのエロ漫画を探し始めた。
――――――
まず目についたタイトルはこれだ。
『♡巨乳お嬢様♡が、俺のことを好きすぎて困ります!』
……くそ……あのバカ……!!
なんでこんなもん買ってんだよ……!!
明らかに表紙の女の子が銀条院さんの雰囲気に似ていた。
こんなのセリナさんに見つかったら、余裕で一発アウトだ。
私はその本を、それとなく本棚の奥の方に隠した。
本当にサイテーだ。
久々に死ねばいいのにと思った。
次に目についたのは……
『小悪魔系クラスメイトがチラチラと俺に〇〇を見せつけてくる件。』
うわぁぁ……。
これもまたフェチが強いやつだ。
図らずもあいつの性癖を知ってしまうのがキツかった。
……というかこれ、まさか朱川のこと意識してるんじゃないだろうな。
表紙の女の子、やたらと男子との距離が近くて危うい感じが、なんとなく彼女と似ていた。
続いてはこれだ。
『黒髪美少女とイケない学園生活
〜保健室編〜』
……なんだこれは。
黒髪、と言えば私になるのだろうか。
ただ、表紙の女の子は保健室のベッドの上で体操服を脱いで半裸になっている。私はこんな格好になった覚えはないし、男子の前で体操服を脱ぐような変態ではないので、きっと他の女の子を意識して購入したのだろう。
ああ、本当に気持ち悪い……。彼に消費される女の子達が不憫でならない。
幸いにも、私を意識したと思わしき女の子は漫画群の中にはいなかったので、そこは一安心だった。
うーん、この中だと、そうだな……。
私は2番目の漫画を、「これなんかどう?」とセリナさんに手渡した。
朱川……悪いが犠牲になってくれ。
――――――
2人でその漫画を読んでみたが、意外なことに、驚くほど恋愛漫画としてのクオリティが高かった。
セリナさんは続きが気になるというので、2巻、3巻と一緒に読み進めていった。
……4巻目を手にしようとした時だった。
ふと、棚に戻そうとした3巻の後ろの位置に隠されるように、見覚えのあるタイトルが置かれていることに気づいた。
『家出した女の子が僕の家に泊めてほしいと言うので、代わりに×××なことをしてもらいました』
こ、これは……!?
私が昨日読んでいたやつじゃないか!!
……え?
というかこれ、完全に私のこと意識して買ってるよね?
じゃあ、やっぱあいつ、私とああいうことしたいのを我慢してるってことなの……??
私がついついそれを手に取ると、セリナさんが立ち上がって覗き込んできた。
「うわぁぁ〜。これはエッチなやつでしょうね……。
そもそも、女の子が男の子の部屋に泊めてくれっていうのが現実的にありえないです。
そんな非常識な女性、いるわけないじゃないですか!
これを読んで楽しんでいる人も、きっと変態さんなんでしょうね」
その言葉の凶器は、私の心臓を彫刻刀のように何度か深く抉り取った。
私はそれに我慢できず、セリナさんのほっぺたをムギュッと掴み、前後に揺さぶりながら泣き叫んだ。
「どうしてそんなこと言うの!?
セリナさんは何も知らないじゃない……!!
私、変態じゃないもん!!違うもん……!!」
「…………???!??」
セリナさんはびっくりした表情で頭を揺らされていた。
……しかし、彼女の様子が少しおかしい。
私の目を向いておらず、何というか私の頭の奥の方を見ているのだ。
「……くろひゃわひゃま……うひろ……」
彼女がそう言うので私は後ろを振り向いた。
そこには、汗びっしょりで青ざめたオタク君が、絶望的な表情で立ち尽くしていた――。




