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第21話 黒沢さんはエッチじゃない!

私はふかふかのマットレスで目を覚ました。


土曜の朝だ。


ちょっと前まではこれが冷たくて硬い床だったのだから、彼には感謝しなければならない。




「……あ、バイト……!!」


と一瞬焦って起き上がったが、もう既にシフトを減らしていたことを思い出した。


……悔しいが、これもまた彼のおかげだ。


私は安心して、ぐでっとその場に倒れ込んだ。




――――クラスメイトの男子のアパートに居候している。




改めて考えると、私はとんでもないことをしているのではないか。


「もしかしてだけど、これって……

い、一般的にはすごくエッチなシチュエーションだったりするのかな……??」


私、黒沢メイはそのへんが気になっていた。




――――――




私がそう心配しているのは、昨日寝る前、スマホでそういう漫画を読んでしまったからだ。


『家出した女の子が僕の家に泊めてほしいと言うので、代わりに×××なことをしてもらいました』


という、男性向けのエッチな漫画だ。


なんでそんな漫画を読んでいたかというと、

……最近ちょっとだけ溜まっていたので、心身をキレイにしていたのだ。


……だって仕方が無い。置かれた境遇が私とそっくりなヒロインの女の子が出てきて、

「あ、これ私だ……」

と、自分と重ねてしまったのだ。

ここでは言えないが彼女が男の人としていたことを、まるで自分の事のように感じてしまい、じわぁっとなってしまったのだ。


一応言っておくが、私はそこまでエッチな子ではないと思っている。確かに、バイト三昧でストレスマックスだった先月までは週7で自分を癒やしてあげていたが、これはある意味仕方の無いことだ。

これは私がエッチだからではなく、ストレスが強かったからというだけである。その証拠に、バイトをや減らした今では週4にまで頻度が減っている!




それにしても、昨日の漫画の女の子が男の人にしてあげていた内容が頭から離れない。


女の子が男の子の部屋に泊めてもらう時って、あれくらいしてあげるのが普通なのだろうか……。

もしかして、特段エッチな要求をしてこないオタク君って、実は優しくて紳士的なのではないだろうか……。

もし彼がすごく我慢しているのであれば、ちょっとくらい何かしてあげても良いのではないか……。


私は昨夜発散したばかりなのに、ついムラッとしてしまい、下着の中にもぞもぞと手を入れた。




……心地良さよりも、罪悪感がすごかった。本来ならば私は今必死にバイトに励んでいるべきで、呑気にこんなことをしている場合ではないのだ。


「ダメなのに……ダメなのに……」


ドス黒い感情が湧き出すが、やめられない。

もしかして、もしかしてだけど……私ってちょっとエッチなのかな……。


――――その時、




「黒沢さん?ちょっと出かけてくるからね。

……なんか声聞こえたけど大丈夫?」




部屋の扉越しに突然彼がそう言ってきたので、私は心臓が飛び出そうになった。


私は咄嗟に手を止めて、何事も無かったかのように返答した。


「ら……らいじょうぶ…………!!

…………んぐ……」




――――――




彼が出かけてしばらくした後、私が息を荒くし、高まっていた時だった。


ピンポーン


とインターホンが鳴った。


「うぐ…………な、なぜこんな時に……」


私は以前オタク君に見られてしまった電動マッサージ器具を停止し、よろよろと玄関へ向かい、扉を開けた。


――――そこには意外な来客が立っていた。




「……え?!

……あ、あれ……??

……私、住所間違えた……?!」




それは、ワタワタと動揺するセリナさんだった。




――――――




セリナさんは銀条院さんのお世話係の子だ。

昨日、銀条院さんのお屋敷に皆んなで遊びに行った時に知り合ったのだ。


「あの男子が本当にサラ様の身体目あてじゃないのか、直接会ってお話しようと思いまして……。

なのに……あの男子の家に来たはずなのに、どうして黒沢様が……」


なるほど。この子は、オタク君が銀条院さんを任せるに足る〈紳士〉かどうか、自分の目で確かめに来たらしい。

が、私が出てきたので彼女は困惑していたというわけだ。まあ、それはそうか。


とりあえず、私は今オタク君の部屋に遊びに来ていて彼は出かけているのだと、適当に答えておいた。




「黒沢様から見て、彼は紳士的だと思いますか?

普段、例えばじろじろと変な目で見られたりしてませんか……??」


「ああ、ええと……

こんな私にエッチな要求とかしてこないのは……紳士的だとは思うよ……」


セリナさんは、

「そんなのしなくて当然では?」

と言いたげに顔を傾けていた。




――――――




私はセリナさんを家の中へ上げ、ダイニングテーブルの席に座ってもらった。


……すると突然彼女は、


「きゃあああああ……!!!」


と悲鳴を上げた。


「ど、どうしたの?!」


と私が駆け寄ると、彼女は

「あれ……」

とある物を指さした。


それは、扉が開けっ放しになっている私の部屋から覗いていた、ピンク色の電動マッサージ器具だった。




「ヤバい……!!」




私は自分の部屋の扉に走り、バタンとそれを閉めた。

セリナさんはまだ怪しげに周囲をキョロキョロと見回している。


「な、なぜあんなものが……。

それにこの部屋……色々とおかしいです!

どうして女の子の服がここに干してあるのですか……?

やっぱりあの男子、変態なのでは……」


彼女は洗濯干しに引っかけてある私の衣服を見て、オタク君への疑念を強めていた。


「さ、さあ……?

妹さんとかと住んでるのかなぁ?

……と、とりあえずこっちに来て!」


私はセリナさんの手を少し強引に引っ張って、オタク君の部屋の中へと案内した。


我ながら咄嗟のファインプレーだったと思う。

ここは正真正銘、男の子の部屋だ。つまり、女である私の所有物を見られて、これ以上警戒を強められることは無いわけだ。




……が、それは甘い考えだった。

オタク君の部屋、つまり彼自身の所有物しか存在しないこの部屋が、セリナさんの警戒心を最も強める場所だったのだ。




「きゃあああああ……!!!」




セリナさんは、壁に堂々と飾られている、ほとんど衣服を纏っていない女の子の巨大なタペストリーを指さして、今日一番の悲鳴を上げた。

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