第19話 銀条院さんの屋敷でお嬢様に抱きついた結果……
俺と黒沢さんと朱川さんは、大豪邸の門の前で口を開けてたたずんでいた。
「広すぎるだろ……」
銀条院さんのお家に遊びに来たのだ。
もちろん俺達は、ただ皆んなで遊ぶためだけにここを訪れたわけではない。
今日の最大の目標はずばり、お屋敷の色んな人から俺達に対する信頼を得て、ひいては銀条院さんへの遠方外出許可を出してもらうことだ。
――そして、彼女を念願の海に連れて行くのだ。
「よしっ!2人とも頑張ろう!」
「そうね!」
「人肌脱ぎますかー!」
そんな風に意気込んでいると、突然、目の前の屋敷の門が全自動でゆっくりゴゴゴゴと横に動き出した。おそらくは俺達を迎え入れていると思われる。
俺達は3人とも、目を見開いてびびりまくっていた。
……少なくともこの屋敷は、罪無き一般市民の俺達を追っ払う気はないようで、少し安心した。
――――――
広すぎる庭園を縦断する石畳を、3人は恐る恐る前に進んでいく。
黒沢さんと朱川さんは俺の背中に半分ずつ隠れていた。
敷地に入ってから数分後、俺達は立派な大扉の前に到着した。
「……えーっと……」
……3人は立ち尽くしてしまった。
俺達のような庶民には、次に何をすれば良いかわからなかったのだ。
なぜなら、インターホンが無かったからだ。
しばらく黙ってその場で待っていると、突如、大扉がギイィィっと音を立て、ほんの少しだけゆっくりと隙間を作った。閉じてはいないが人間が絶対に通れない状態だ。扉はこのまま数秒間停止した。
……これは……一体どういう意味だ?
大扉は、さらにほんの少しだけゆっくりと開いた。
そしてその開いた隙間から、いかにも怪訝そうな表情をした女の子が、頭だけをひょこっと出してこちらの様子をうかがい始めた。
――――――
「だ……誰ですか……?」
彼女は頭だけのまま俺達に尋ねてきた。
「あ……えーっとですね……
ボク達、サラさんのお友達をさせてもらっている者です!」
俺はその頭に返答した。
ちなみに〈サラ〉というのは銀条院さんの下の名前だ。
「お友達……?サラお嬢様の……?」
彼女は眉をひそめた。
「そういえば、お友達が来られるとおっしゃっていたような……」
彼女の表情は少し緩んだ。
「……というか、待って?!……ウソ?!
だ、男子じゃないですか……!!」
そういって頭は一度引っ込んだ。
数秒後、駆け足が聞こえてきたと思ったら、今度は物凄い勢いで大扉がバタン!と開き、モップを正面に構えたメイド姿の彼女が俺の前に立ちはだかった。
「あなた……本当にお嬢様のお友達ですか!?
まさか……
か、身体目あてじゃないでしょうね……!?」
彼女は威嚇する小動物のように好戦的な姿勢だった。
黒沢さんと朱川さんは、ひと言もしゃべらず俺の背中で顔を隠している。どうやら、俺を盾に身を守るつもりらしい。
「おい2人とも!なんかフォローしてくれよ……!」
普段はあんなに高圧手な彼女達だが、こういう時に限って俺の後ろで黙りこくるのであった。
――――――
俺達はこれ以上ないくらいに疑われつつも、何とか銀条院さんの部屋に通してもらった。
「いらっしゃい!待っていましたよ」
銀条院さんが優しく歓迎してくれた。
胸元の開いたドレス姿だった。
「セリナ、3人に無礼のないようにと言ったでしょう?」
彼女の口振りから察するに、さっき俺にモップを振りかざそうとした女の子は、銀条院さんのおそらくお世話係と思われる〈セリナ〉さんというらしい。
「だって……
サラ様にお近づきになろうとする男子なんてろくな奴がいないじゃないですか……」
セリナさんは少しふてくされた感じだった。
「セリナ、3人にお茶を出してもらえる?」
「わかりました……」
彼女は準備のため、大きな部屋の端にある扉へと歩いて行った。
俺達はまず、このセリナさんから信用を得なければならないだろう。
セリナさんが、
「この人たちならお嬢様を任せられる、お嬢様にとって良い影響を与えてくれる」
と思ってもらえるように、立ち振る舞いには細心の注意を払うのだ。
彼女がそれをお屋敷の偉い人に報告してくれて初めて、銀条院さんと一緒に出かけられる可能性が生まれる……道のりは長い。
で、そのセリナさんはというと、お部屋から廊下に出る間際に、俺に対してこんな捨て台詞を残していった。
「そこの男子……
あまり調子に乗らないでください!
サラ様に触れたら許しませんからね!!」
……非常に先が思いやられた。
――――――
「すっごぉ〜……」
朱川さんは、銀条院さんの広い部屋を改めて見渡して声を漏らした。
「……皆さん、来てくれてありがとう!
ごめんね、遊ぶものも何もない部屋で……」
彼女はそう言ったが、何もないということは決してない。部屋には、模様の入った美しい花瓶や、値段の想像も付かない絵画などが飾られ、中央付近にはふかふかの大きなベッドが置かれている。
しかし……彼女の言う通り〈遊ぶもの〉は何1つとして無かった。
「銀条院さんと学校以外で会えることなんてほとんど無いし、何かして遊びたいね」
と、朱川さんが言った。
「遊ぶとしたら……ジャンケンとか、しりとり……?」
黒沢さんはあまり魅力的でない提案をした。
「腕相撲とかは?」
俺はパッと思いついた遊びを提案してみた。
なかなか良い案だと思ったのだが、朱川さんに「女の子の手を握りたいだけだろ」と言われてしまい、最終的に〈手押し相撲〉で遊ぼうという話になった。
手押し相撲であれば、俺と手を接触させる時間を最小限に抑えられるから、都合が良いそうだ。
「こういう遊びは、やったことがありませんわ……」
銀条院さんは勝手がわからなさそうにして困っていた。
なので、対戦相手に決まった俺がわかりやすくルールを教えてあげた。
「2人で向かい合って、手のひら同士で相手を押し合って、バランスを崩した方が負け。
どう?簡単でしょ?」
「わかりました。……要は力比べですね?」
銀条院さんは多分あまりわかっていなさそうだったが、とりあえず百聞は一見にしかずということで、実際にやってみることにした。
「銀条院さんファイトー!」
「こんな奴に負けるな〜!」
外野は全員、銀条院さんの味方らしい。
もしくは俺の敵と言うべきか……。
「じゃあ……銀条院さん、行くよ?」
そう言って俺は、試しに銀条院さんの両手を軽く押してみた。
「あ……っと……」
これだけで彼女は体勢を崩しかけていた。
この類の遊びは完全初心者らしいので無理もない。それに彼女は、人よりも上半身が重くてアンバランスなのだ。
身体を締め付けないように、暑苦しくないようにと特注したらしいお部屋用のドレスによって、大きく露出した彼女のおっぱいがぷるんぷるんと揺れた。
「あ!ひどい!!」
「変態!!女の子を押すなんてサイテー!!」
外野がうるさい。
「仕返しですわ……!」
そう言って彼女は、俺の両手めがけて思いっきりハイタッチをしてきた。
俺は上半身を後ろに傾け、彼女の攻撃を難なくかわした――
と、この瞬間は思っていた……。
「きゃあっ……!!」
……銀条院さんはあまりにも、手押し相撲の才能が無かった。
彼女は飛んでいた――。
両足は地面から離れ、手は前に伸ばし、そして彼女の頭は俺の視界の上へと消えた。
代わりに俺の視界は、でかくて柔らかい肌色の2つの塊によって光を遮られ、そして完全に埋め尽くされた。
「――――え??」
おっばいの深い谷間が、俺の顔全体を包み込むようにぷにっと密着した。そのまま離れることなく、悲鳴さえ上げることもできず、俺は後頭部から床に激突させられた。
ガンッ……!!
柔らかいおっぱいと硬い床板でプレスされた俺の頭は少しもバウンドすることはなかった。
衝撃は逃げることなく、全て後頭部で受けた。
セリナさんがお茶の準備で席を外していて良かった。銀条院さんの谷間に顔をうずめたこの状態を彼女に見られたら、確実に信頼を失う所だった……。
その時、部屋の扉が開いた。
「サラ様とお友達のお嬢様方、お待たせいたしました!
お紅茶をお持ちしま――――
――――きゃあああああ……!!!」
銀条院さんのお世話係の中で、俺は要注意人物に格上げされた。




