富山71
杏奈の苗字が清水ってみんな忘れてたでしょう。俺は忘れてた。山田だと思っていた
富山駅はただでさえ人が多いのに、何かのテレビの撮影が行われておりいつもよりさらに人でごったがえしていた。駅の駐車場に止まり電話で杏奈に連絡を取ろうとかけてみるも、なぜかつながらない。
「どうする?みんなで一回降りて探す?」
「そうするしかないんじゃないかな」
明らか面倒くさいと言わんばかりの顔で聞く瞳に、もくずさんは静かに返す。力哉も続いて
「まぁとりあえず降りるだけ降りて探してみよう」
力哉の参戦に仕方ないといった感じで瞳は脱いでいた靴をしぶしぶ履きなおす。
「じゃあママはさっき言ってたいいケーキ屋さん言ってるわね。お友達と出会えたらすぐに電話してねー」
四人が降りると、瞳のお母さんが手を振りながら駐車場を出る。「すぐ連絡するねー」と瞳も体全身をつかって手を振った。だが笑顔で母を送るの瞳の視線の先道路に入ったお母さんの車はさっきまで、打って変わって急加速で走り出し、瞬く間に見えなくなってしまった。その光景に瞳を除い全員⋯富山駅のテレビカメラマンまで口を開いたまま呆気にとられた
「⋯瞳⋯あ、お母さん」
「あー平気平気。多分私が先に杏奈ちゃんと出会って、ママが来れないってことにならないように、急いでくれてるだけだから」
子は親に似る。あのお母さんあってのこの瞳なんだろう。いつも激しいと思っていた瞳が、今だけはまともな人に見えてしまう⋯
三人がそう考えているうちに、瞳はもう一度スマホで杏奈にかけなおす。瞳の顔はお母さんに見せていた時から車を降りるときの、あのめんどくさそうな表情に戻っていた
「もー杏奈ちゃん出ないかなー。歩くのめんどくさいんだけどなぁ⋯」
そんなつぶやきも無念に、すぐ「おかけになった電話番号は」とスマホから繋がらないことを教える電子声が聞こえてくる。聞き終わる前に、舌打ち交じりに電話を切った
しかたなしに駅の中に入るが、外から見たよりも駅の中は人が多い。四人で一列になってうまいこと人の隙間を潜り抜けていくも、それらしき姿は全く見当たらない。
「ちょっこし休憩でい」
ひまわりのモニュメントを囲んでいるところに腰を下ろすと、瞳はだいぶおっさんのような野太い「おぅしょい」と言いながら体を伸ばした
「あーまじ杏奈ちゃん見つからん。もう杏奈ちゃんなしでもいいんじゃない?」
「まだ全然探してないし、見てないところにいるのかもよ」
疲れ切ったと言わんばかりの、伸びは瞳のやる気のなさを分かりやすく教えてくれる。杏奈と仲良くなりたい力哉は何とかして、散策を続けたいがそう言っているこの最中も瞳が目を閉じてもくずさんに寄りかかっているので、説得は絶望的だ。
「あ、あれ杏奈じゃない?」
瞳の頭をなでる反対の手でもくずさんは遠くの人だかりを指さす。
芸能人らしき人とカメラマンに囲まれ、杏奈は何かインタビューを受けていた
「何してるでやすかね?」
「あーA〇の冒頭じゃない?前力が見てたやつあんなんだったし」
「いや、ちがうし。あんなのじゃなかったから」
もくずさんの前で下ネタを振られ、変な焦りで咄嗟に返す。それに瞳は楽しそうな顔で
「えー違うってことは、力、エッチいの見てるんだ。変態じゃん」
がはがはアホっぽく笑う瞳に、自分のさらにあほな墓穴発言に力哉は顔が赤くなる。その隣で
「おいらはビデオより、アニメはでやすけどね」と少し意味の分からないことをくらげは言っていたが、力哉はそんなこと気にもしない
(もくずさん今の聞いてたかな⋯⋯)
絶望の顔で力哉はこっそりと、もくずさんの顔を見る。幸いもくずさんはいつも通りの涼しい顔で、ぼーっと杏奈の方を見ていた
(よし、聞いてない!)
安堵で息が漏れる力哉を、人に気も知らない瞳は面白そうに笑っていた
富山駅に着いていた杏奈は着いてすぐに「富山駅に着きました。どこにいれば良いですか?」と送ったものの、返信はおろか既読すら付いていない。「親分今日ってお泊まり会の日ですよね?」と追い討ちも効果はなく
「富山駅の中で待機してます。着いたら連絡ください」
と最後に残したきり、ソワソワしながら魅力的な周りの店を眺めていた。
(あのパンケーキ屋さん美味しそう…。そういえば、ちょっと前に親分といったカフェ楽しかったなぁ。あ、いけない、いけない。今から親分と会うのに、今のことを考えないと。⋯⋯)
「すいません。TV富山なんですけど、今ってお時間大丈夫ですか?」
顔を上げれば、髪をオールバックでまとめ小さい顔が強調された美人なアナウンサーらしき人が隣にでかでかと黒光るレンズ携えた男の人と共に目の前にたっていた
「あ、はい。大丈夫ですけど」
「今ですね、富山駅にいらっしゃる方にインタビューして回っているんです。富山県の方ですか?それとも県外からお越で?」
「僕は…あ、いや私は石川から…」
マイクを口元に近づけられて、カメラマンの人がレンズを調整しながら杏奈の方に向ける。
たじたじで噛みながら答えているとアナウンサーの人が、くすりと微笑み「ちょっと失礼かもしれないですけれども、可愛らしい方ですね。高校生さんですか?」
「は、はい。星山高校に通ってて…」
「おぉー凄いですね。エリートさんじゃないですか」
「エリート」という言葉に、照れが出た杏奈をカメラマンは逃すまいと更に杏奈に近づける。
加えて、周りの人が好奇な目で集まりだし更に杏奈は周知を感じるというスパイラルにハマっていた
「ありがとうございました。ではこちら富山駅からお送り致しました」
結局20分ほどインタビューが続き、ゆでダコのように赤くなった杏奈を放ってほいで取材の人達はすぐさま去っていった。
「杏奈ちゃんー見てたよ。これで明日のテレビに乗れるね!」
「チャンネルは違うと思いやすけど姫のお母さんもきっとニュースに乗ると思いやすよ」
「大丈夫よ!ママはカーチェイスで負けたことないって言ってたから」
そういう問題なのか……。力哉は呆れで何も言えない
「僕何回も親分に連絡したとんですけど、もしかして届いてなかったですか?」
「へ?あ。あーごめんごめん。別のあんなって友達にラインしてたみたい」




