おばけ60
「もくずさんいますか?」
後ろを見るため頭を横にずらすスペースすらないダクトの中、後ろから「いないよ」ともくずさんの声が帰ってくる。
「いないなら返事しないでください」
「⋯」
「ごめんなさい嘘です。いなくても返事してほしいです」
「いるよ」
変におちゃめなもくずさんに、流される力哉は心の底からゴールを渇望している
早く出たい。その一心で、気持ち早めにダクトを進み続ける。
だが奇妙なことにダクトに入って5分、二人の身にまったくなにも起きていないのだ。
「ここまで何も来なかったら逆に怖いですよね」
「いや⋯力哉が怖がると思ってさっきから言ってなかったんだけど、後ろから他の誰が這って近づいてくる音が聞こえてるんだよね」
血の気が引いた。この狭い空間で後ろからだれかが追ってきている。その事実に収まっていた体がまた震えだす。一心不乱に進み続けるとダクトので口が見えた。出てみる病院のような風景が見える。
「hide and seek」
壁に赤い字でそう書かれている
「かくれんぼ?」
「力哉もうだいぶ近くに来てる」
もくずさんもダクトから抜け出し、壁の文字を見る。ダクトの中から他の誰かがやってくる音が聞こえてくるほど、それは近づいていた。
咄嗟にもくずさんは近くにあったロッカーに身を隠す。どこに隠れようと辺りを見渡す力哉にもくずさんが手招きした。
いくらもくずさんが細いと言ってもロッカーは狭く、言葉通り目と鼻の先にもくずさんがいる状況に、新しく別の心臓が高ぶっていた。
でも密室に詰め込みで入ってる影響で、鼻先にメイド服のひらひらが当たっていた
「もくずさん、そのひらひらすごいくすぐったいんですけど」
「ごめんね。アイツが行くまで我慢して」
ロッカー隙間の中から見ているとダクトから出て切るのが見えた。クマのように縦にも横にもでかく、顔にはマスクをかぶり、手には刃物を持っている。男はゆっくり体を伸ばす、
その瞬間力哉の口から恐怖の音もれてしまった
慌てて口を閉じるも、男はぎらりとロッカーを睨む、そのまま少しづつ近づき、拳を握り大きく振りかぶりロッカーを思いっきり殴った。狭いロッカーの中には鈍い音がこだまする。
男は充血した目をいっぱいに開き、ロッカーの隙間を覗く。
息を殺していると今度は地震が起きたかのようにロッカーが揺れ出す。男がロッカーを揺らしているんだろう。力哉はあまりの怖さに勝手に口が小さく空き震える、その口をもくずさんはそっと手で塞いだ
体感にして5分の揺れが収まる。恐る恐る半目で見れば男がまたダクトの中に戻っていった
「助かったね」
「はぁ⋯⋯はぁ⋯もくずさんのおかげです」
もくずさんい呼吸を止められていたので息が荒い。ロッカーを出て、ほこりっぽい部屋の中できるだけ静かに深呼吸をした
「あ、ごめんね」
「いや全然⋯てかもくずさんって全然息の音しませんね」
ロッカーの中のあの至近距離にいたのに、まったくもくずさんの呼吸音がしなかった。一般体系の力哉の呼吸音はロッカーの中で自分の耳に入っていたのに、いくらやせ形であるとはいえもくずさんの音が一つもしなかったことに疑問が生まれる。聞くともくずさんは、さも当たり前かのような顔をして
「お化けだからね」
真顔で力哉を見つめる。いつもとは違ったもくずさんの言動が思い返され、体に妙な思いが生まれてくる⋯もくずさんはゆっくり力哉に近づいてくる。それがやけに怖く感じ「逃げないと」そう思った
出口もわからないまま、一心不乱に力哉はその場を離れる。
もくずさんは何も言わないまま、後をついてくる。足音を一切聞こえない
遠くに出口の明かりが見えた。パースを上げて目指し無我夢中で走る
もくずさんも力哉に手を伸ばしながら、捕まえようと走り出しどんどん距離が縮まっていく⋯⋯
手が力哉に触れる寸前、力哉は出口を出た。
教室の暗さに目が慣れていたので、突然の明るい廊下はピントが合わずよく見えない。
目をぱちぱちせていると、もくずさんが力哉の背を掴んだ、力哉の口から恐怖の音が漏れる
振り返ればもくずさんが息を切らしながら不安げな顔を見せていた
「いきなりいなくなって心配したよ」
「⋯⋯俺ずっともくずさんと行動してましたよ」
体が芯から冷えたのが分かった。狭いロッカーの中一体俺は誰と一緒にいたのか⋯
「え⋯」
聞いてみれば、最初の曲がり角を曲がったところでいなくなっていたらしい。
探しながら出口に向かい、出口近くで走っている俺を見て、急いで駆け寄ったのだとか
「すごい怖かったですよ⋯変な男から隠れたりとか」
「泡拭かなくてよかったね」
「本当ですよ」
もくずさんは話すと顔色を安らかにさせていった。
力哉は知ることは無い。このクラスの男子は休んでたり、休憩を取っていたりと二人がいた時刻にだれも働いていなかったことを。ならあれは何だったのか、見つかればどうなったのか⋯⋯




