お化け屋敷59
黒川先輩から逃げることに必死で、気づけばさっきと全く違う場所にいる。
目の前には野球部と思われる屈強な男たちが泡を吹いて倒れていた
「お化け屋敷、力哉ここ行きたいの?」
もくずさんが見上げ先の看板には、血潮のように真っ赤な字でお化け屋敷と書かれている。
「あ、いやーその」
力哉は基本なんでも平均である。ただおばけにだけは違った。
物心ついてすぐのころに見た、映画の影響でお化け屋敷はもちろんのこと、暗い帰り道に女の人がいたときでさへ過剰におどろいてここまで生きてきた
「怖いんだ」
力哉の言葉にもくずさんは挑発するかのように聞く
「いやこんなの別に余裕ですよ」
「じゃあ行こうよ。私怖いの好きだし」
もくずさんは力哉の肩に手を置く。本来ならうれしいのだけれど、それがお化け屋敷に連れていかれる手と考えると、震えだしてきた。
「二人で」
受付の人にもくずさんが伝える。ここで今男達が泡を吹いているのを思い出した。
あんな頑丈そうな人があのざま⋯⋯俺はいったい⋯
案内に言われ二人は仲に入った
入るは否や感じる季節先走りの人工的な寒さに、首元が反射的に震える。狭い通路に仕切られた暗黒の室内は自分の心臓の音が聞こえそうなほど静かだった。あまりの怖さに足が遅くなる。もくずさんの後ろをぺったりと歩いていると、男として情けなさを感じる。
「ばあ」
もくずさんがいきなり振り向いて力哉を脅かす。
出そうになる声は何とか抑えたが、体がビクついてしまった。
「脅かさないでくださいよ」
「怖いの?」
「⋯別に怖くないですけど⋯」
「ならよかった。力哉後ろでいいの?先頭の方が楽しいと思うよ?」
「⋯先頭行きますよ⋯」
もくずさんの前でかっこ悪いところを見せたくなかった⋯。暗闇のおかげで見えなくなっているが今力哉の顔はところどころ震えている。唇は声をださないためにできるだけ強く噛み、拳は固く握り、目は可能な限り細めている
いっぽ、またいっぽと歩く。後ろにもくずさんがいる安心感、後ろに脅かしてくる可能性のあるもくずさんがいる不安を強く意識する。
通路の突き当りに行くと分かれ道があった
「どうします?」
「力哉に任せるよ」
曲がればすぐにおばけが驚かしてこないだろうか⋯。本当は耳もふさぎたいところだが、それではもくずさんいバレてしまうのでできない。目を完全につぶりきり、右に曲がった
特に何も聞こえてこないので、仕掛けとかはないんだろうと目を開けてみる。
目の前に目が飛び出た顔が逆さにつるされていた。
「うぇ!」
変な声がでて、本能的に体が後ろを振りむく
「力哉やっぱり怖いの苦手なんだ」
「違います⋯これはその⋯」
うまく言葉が出てこない
「力哉も弱点あるんだね。いいこと知った」
暗い室内でうっすらもくずさんの嬉しそうな顔が見える。なんでもくずさんはこんなに冷静でいられるんだろう⋯。もうビビりことを隠すのが難しそうなことに、やるせなさを感じつつも、力ない意地を張りたくなってしまう男のこころが現れ、振り返り先頭を引っ張る。
つるされていた人形は消えていた
「回収されたってことはまたどこかで出てくるかもね」
もくずさんの楽しそうな声が聞こえる。続けて
「怖いなら手つなごっか?」
「そんな子供じゃないんですから」
本音を言えばつないで人肌の安心感をもらいたい⋯けどそれは男として決してしてはいけないものだと怖気づいている頭が理解した。きっともくずさんはそこまで知っているうえでからかっているんだろう
人形のところを少し進むと、今度は近くからハサミが何かを切っている音が聞こえる。
耳を澄ます。赤子の悲鳴が聞こえてきた
「ひぃ⋯」
「本物みたいだね」
「⋯もうとっとと終わらせましょう」
クラスの出し物は一クラス一つでかぶりが禁止なので、必然的にお化け屋敷のスペースは部屋一つ分に限定される。入ってからまだ間もないが、制約上そこまで大きく作れない
「力哉あれ」
もくずさんが指をさす。突き当りの壁に人一人が這ってはいれるだけのスペースしかないダクトが用意されていた。
「⋯ここに入れってことですよね」
「多分、あと私スカートだから力哉先頭お願いできる?」
「⋯⋯はい」
力哉の声はこの部屋でも聞き逃しそうなほど小さかった




