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海中もくず  作者: 椎名 園学


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52/55

海中もくずは今日も冷たい㊼

「はぁ」

隠す気のないため息を姉がつくと、そのまま2000円をもくずに渡した

「おつり返してね。あと私の定期あるから切符買わずにそれ使って」

定期の貸し借りは犯罪ということを知っているが、家計が電車代500円を渋らなければならないほど厳しいことも良く知っている。頭を深々と下げ、両手で2000円を受け取った


「もくずちゃん行きたいお店みつけたよ!」

いつも通り家を出ると待っていた美緒が開口一番そう言ってくる

「フォーラスのラーメン屋さん行こうよ。おいしいって有名らしい」

「何円くらいなの?」

「んーわかんない。けどそんなけちけちしなくてもいいじゃん」

もくずは自分の口から自分の家が貧乏と言ったことは無い。学校でもそういった素振りは徹底して見せないので、美緒はもくず家の金銭状況など知るはずもない。もし2000円で足りなかったら、いや足りたとしても姉に返せるおつりはだいぶ少ないだろう、

「ラーメン屋さんなら、近くにあるやつでいいんじゃない?」

「もーなんでもくずちゃんそんなに金沢行きたがらないの?」

「遠いから」

お金が厳しいと素直に言えればさすがの美緒にも伝わって、他のところで妥協してくれただろう。

けど貧乏と言えば、一人で働いてくれている姉になんだから悪い気がして伝えられずにいる

「お願い一回だけ行こうよ。私どうしても買いたいものあるの」

こういうとき美緒は自分の意見を変えることをしない。出会って数か月しかたっていないが、何度もの経験からそうわかってきた。

「⋯わかったよ」

無理やりそう言った。これで美緒を怒らせてしまった方が、もっとめんどくさくなってしまうのは目に見えていた。わがままな人といると疲れる。最近、無意識にそう思う初めて来た。友達としてなんとかその思いを消そうと努力したが、消えることは無かった。

もくずの返事に美緒は笑顔を見せる。自分勝手な人だ

「じゃあ明日の12時に駅集合で!」

家に向かって行くもくずの背に美緒は手を振る。いつもなら手を振り返しただろうが今日はそんな気にはとてもならなかった。きっと美緒はそんなことにすら気づかない。

だって美緒だから

家に姉がいなかったので、帰ってきた姉がすぐお風呂に入れるように、先にシャワーを済ませた。

髪を乾かすとき、色々と考えていると、体から雫が垂れ床に落ちた。

変わったのはその夜だった。考え込んで遅くまで起きていると、かよわく扉が開き姉が仕事から帰ってきた。けどいつもと雰囲気が違う。いつもなら不機嫌な顔で帰ってくる姉が、ずっと下を向きながら、足を引きずり力弱く帰ってきた

「大⋯丈夫?」

「うっさい。静かにして。寝る」

姉は目も合わせず家に入り、荷物を下ろす。

「風呂入るから入れて」

力が抜け倒れ込むように姉は布団に倒れる。多分なんかあったんだろう。布団から出て、風呂場栓を入れボタンを押す。「お湯張をします」と呑気な声で伝える声が聞こえる。数分無言の時間が過ぎお風呂の声が聞こえる。姉はすぐに風呂場へ向かった。

姉はいわゆるパパ活をしている。姉から聞いたことは無いが、スマホのラインや時々増えるプレゼントと思わしき小物からもくずは察していた。今も高校生である姉が10時をだいぶ過ぎて家に帰ってきているので世間一般の言うバイトというものではなかったのだろう。パパ活と言えば、年上男性とお話だけでかなりのお金という話も聞かないではないが、きっとその後のことの要求とかもあるのだろう。

姉への罪悪感で胃が痛くなってくる。

少しでも頑張ってくれている姉を良くさせようと、さっき乾いたバスタオルを綺麗に折りたたむ。お風呂場に入ってから10分ほど経過しているので、姉は湯船につかっている。そう思いバスタオル片手に風呂場の扉を開く。ところどころ青かったり赤かったりに腫れている姉がいた

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