海中もくずは今日も冷たい㊺
「もくずちゃん、この人かっこいいと思わない?しかも出身同じ石川なんだよ」
「んーん、そんなにかな」
「もーもくずちゃんいつも男の人に興味ないよね。好きな人とかいないの?」
「特にかな」
「顔のタイプとかは?」
「顔は別に。しいて言うなら優しい顔の人かな」
「あっそれテレビで見たことある。傾向的に恋人には自分にないものを求めるらしいよ」
「私の顔がこわいってこと?」
「そ、そんなことないよ」
わざと怒った顔をつくり、美緒を睨む。それに美緒は笑ってもくずから逃げるように走っていく。
呆れつつも楽しみながら、もくずもそのあとを作った怖い顔で追いかける
美緒は無邪気に走り十字路を右に曲がる。
クラクラクションの軽快な音と共に、鈍い音がなった
体の心の臓が、やけに早くなるのが聞こえてくる。嫌な予感を抱きながらもくずも十字路を曲がる
青ざめるトラックドライバーと、赤い血を頭から流す美緒がいた
「っは!」
目を覚ますと見慣れたいつもの天井が見えてくる。夢か。また厭な夢を見た
熱は少し良くなってきた気がするが、まだ頭はふらふらに回る。同じような夢を見るのを体が拒絶するが、直すためにも寝なければならない。けど寝て治ったとして、明日は文化祭当日。それならまだ姉の置手紙にすがって仮病で休んだ方がましかもしれない。
その時扉が開く音が聞こえてくる。時計の針はまだ3時なので姉が帰ってくるには早すぎる
以前のストーカー男の顔が頭に浮かんできて、無意識に体が身構えてしまう。
怖い顔で恐る恐る扉を見てみると力哉がいた
「体調大丈夫ですか?」
「なんで⋯力哉⋯」
「お姉さんに言われて看病に」
「⋯準備大丈夫だったの?」
「瞳と明美さんにお願いして帰らせてもらいました。家で出来るのはラインで明美さんと連絡とってやりきろうと思って。あと謝りたいことがあって」
力哉は布団で寝るもくずさんに近づ正座をする。わけがわからないがそのまま寝ている体勢でいるのも違うと思い、もくずさんも体を起こし姿勢を正す
「俺もくずさんが陰で言われてること本当は少し知ってたんです。それでももくずさんは強い人だから大丈夫って勝手に心で決めつけてしまっていて。もくずさんが苦しんでるのに何も気づかず何もできなくて本当にすいません」
言い終えると力哉は頭を地面に当たるほど深く頭を下げた。
「あやまらないでいいよ。別に力哉が悪いとかじゃないし。そもそも悪いのは私だから」
「もしもくずさんが良かったら何ですけど、もくずさんの昔のこと聞かせてくれませんか?」
数秒間が空き、沈黙が流れる。もごつく唇を殺しもくずさんは口を開いた。
ある朝目が覚めると、いつもと違う景色が広がっていた。
いつも私を見るなり、舌打ちをしていた姉の顔が、深刻なおかつ焦った顔で忙しそうに何かしていた
それがお母さんがいなくなった日の朝だった
姉はバイトをいくつかかけ持つようになり、ストレスがたまっていったようで、もくずを見る度何か嫌味をいうようになった。それでもお金の面でお世話になっているのは姉なので、出来るだけ姉に迷惑をかけにように気をつけて過ごしていた。
もともと暗い性格なもくずは母が消えてからより一層口数が少なくなり、友達という友達はおらず、家でも学校でも常にこころは独りだった。
「ねーねーもくずちゃんって変わった名前だよね?」
いつも通り休み時間に本を読んでいると隣の席に腰掛け誰かが話しかけてくる。低学年の頃、そのようなことは何度も言われてきたので、「またか」と少しため息をこぼす
「そうだよ。それがどうかした?」
「いいなーと思って。なんかいいじゃん特別で」
彼女は笑ってそういった。深い意味はなくただ本気でそう思っていると感じてしまうほど自然に
「本当はもずくにしようとしてたらしいんだけど、書き間違えてもくずになったみたい」
「へー、でも私はもくずの方がいいと思うな。もずくはなんかうねうね~って感じじゃん」
彼女はフラダンスのように体をうねらせる。多分この人は馬鹿な人なんだろう。行動や発言を見る限りそう思ってまう。けど純粋で悪意なんてものは知らないんだろう。たった数秒の会話で、もくずはそう感じた。そう思ってる間も彼女はフラダンスを続けていた
「茶化しに来たんならほっといて今本読んでるから」
「違うよー友達になってほしくて」
手を合わせながら頭を下げ床に膝をつく
「お願いします!!」
「わ、わかったよ。なるからそれやめて」
「やったー!!」
うきうきで彼女は踊る。本当に友達になって良かったんだろうか
「これ友達になってくれたお礼にプレゼント」
ポケットから取り出したのは小判をもった金ぴかな招き猫のキーホルダー
「まね吉って言ってね持ってるだけで金運が上がるんだよ!私これつけてからお小遣いちょっとあがったし」




