文化祭準備43
「何?」
「あれそろそろやめてくれない。見てて正直ウザいの」
「あれって?」
「はぁ⋯しらこい。あんたが力哉君にべたべたしてること。見てて不快なの」
眼鏡はためいきをつく。
「瞳ちゃんがさ、力哉君のこと狙ってるの見て分かるよね。なんでそうやって人の幸せじゃまするわけ?嫌がらせ?」
「いや別にそんなつもりじゃ」
考えたことも無いことをずきずき飛ばされ、すこし言葉が弱まってしまう
「野球の時も、瞳ちゃん笑顔で力哉君の前に行ってたじゃん。なんでわざわざ近くに行ったの?」
「それは私の配置がそこだったから」
「てかさ、なんでそもそもあんたが楽しんでるわけ?この人殺し」
「人殺し」その一言が氷のように冷たく、刃物のように深くまで響く
「みんな知ってるよ、あんたが小学校の時、人を殺したって、美緒ちゃんだよね?なんでそんな極悪人が普通に暮らしてんの?パパ活までしてさぁ。あんた近くにいるだけで力哉君まで評判下がるわけ。わかるよねえ?」
「それは⋯」
「お前なんかが割り込んできていいとこじゃないから」
さらに小さくなったもくずさんの言葉を殺すように、眼鏡はぶっきらぼうに投げ捨てると、
「文化祭本番来ないでね。みんなの邪魔だから」
冷たい笑顔でそう言い眼鏡はどこかへ消えて行った。にぎやかに騒ぐ教室の音がうるさく響く。廊下は静かに感じた。
先週の金曜日、力哉と折り紙を折った空き教室で一人もくずさんは、紙を見ていた。
だめだしをくらったところの直しに早急にとりかからなければならないが、体が一つも動かない。ただ、紛らわそうと紙を眺め続けていた
「人殺し」
何度もその言葉がこだまする。そのたびに増幅されているように聞こえる
力哉や瞳といった優しい人に運よく出会えたから、ここ数か月忘れていただけで、自分は普通の人とは違う、良い人の反対⋯⋯ダメな人であると。たまたま二人が普通に接してくれたから、昔の自分から変わったように錯覚しただけで自分は、昔のことから逃げているだけで何も変わっていない
力哉も、瞳も自分が近くにいるせいで、ひどい偏見をくらってしまうかもしれない
もともと、今までみたいに誰ともかかわらずに、静かに一人で生きていればよかったのかもしれない。
そうすれば誰の邪魔もせず、誰も不幸にせず、今までみたいに、うまくやっていくことができたのに
天気予報の通り雨が降ってきた。弾丸のような雨粒が、空き教室の窓を殴るように打ち付ける。
三人でお酒を飲んだ時力哉は、初めての飲酒と言っていた。あの時は力哉がお酒を飲むと思っていなくおどろいて、何も考えなかったが、私に出会って、私が家に無理やり誘ったせいで、真面目な力哉がお酒を口ししてしまったのでは⋯。
「うわ最悪、淫乱海中いた。教室使えねえじゃん。早く帰んないかな」
「し、聞こえるって」
「別に聞こえてもいいじゃん。うそじゃないんだし」
「あいつ、力哉君いつもちょっかいかけてんじゃん?二人そういう仲なんじゃない?」
通路から数人の足音が聞こえてくる。視線を上げなくても、声で自分のクラスの人が言っているとわかった。
⋯私が近くにいれば力哉にも迷惑をかけてしまう⋯
その時雷が鳴った。光ってから数秒でなったこともあり、その女たちはたちまち悲鳴を上げた。高い悲鳴は冷えた耳をつんざくには十分を超えるほど大きかった
無理やりそれらしいことを書き直し、職員室へ提出すると、ちょうど職員会議が始まるらしく「目を通して明日の朝渡すことにします」と四月一日先生はあっさり言った。
「あ、もくずさん」
職員室を出た途端力哉がいた。手には生徒の名簿がずっしり書かれた紙を持っている。きっと力哉も何か提出しなければならないものがあるのだろう
「今から先生達職員会議だって」
「そうなんですか」
明日のリハーサルまでに、すべて終えれるか心配になったのだろう。そう聞くと力哉は微かに不安げな顔になった
「今大丈夫ですか?良かったら一緒にやってもらいたいことがあるんですけど」
「一緒に」その言葉を耳に入り、指が縮んでしまう
「ごめん、今日このあと予定あるから」
これ以上力哉と何かをすればさらに、力哉の評判が落ちてしまう。そのことが何よりも怖くなり、出来るだけ、そっけなく断った
「そうなんですか。それはすいません。あ、明日の朝、もしよかったらいつもよりも早く来てくれませんか?もしかしたらもくずさん接客苦手かなって思って⋯」
そのあとも何か言っていたが、なぜかうまく聞き取れなかった。
そっけなく返した私を嫌に感じるどころか、力哉は私のことを考えて何かしようとしてくれている
⋯やっぱり、力哉は優しい人なんだ⋯
胸が強く締め付けられ逃げるようにその場を去った。
これを見て力哉は、私のことをひどい人と思うかもしれない
いや、その方が良いのかもしれない




