文化祭準備㊷
「お姉ちゃん傘一本どこやったの?」
文化祭二日前の月曜日。通り雨で地面がぐっしょり濡れている。入れた覚えのないお天気アプリが金沢が午後から雨が降るとしつこく言ってくるので、傘立てを見るといつもは二つある傘が一つしか刺さっていなかった
「あー多分仕事場に置いてきたかも。私今日昼には帰ってくるから、その傘使って」
「いやいいよ。多分今日も文化祭で遅くまで残るし、雨止んでると思うから」
お姉ちゃんにはいつも無理させてしまっているから、相当しないとわかっているが、自分の我慢で済むことならば無理してしまう。
「ごめんね。今日持ってくるから」
申し訳なさそうな顔を姉を「大丈夫」と優しく返し扉を開ける。
曇った匂いの中、扉は静かに閉まった
明日が丸一日文化祭リハーサルということもあり、今日はいつにもまして皆が切磋琢磨している
重い腰で座っていた陰男子も、何もしないのに気が悪く感じてきて、無理やり仕事を探しては手伝っている。授業中も後ろの席の人は出し物を制作する。先生も気づいてはいるが、大体の先生方も星山高校の出身で、自分も高校生の頃授業中教師の目をかいくぐって出し物を作っていたので、何も言わずただ懐かしむ目をつぶっている。
授業が終わるとより一層激しさは増してくる。あちらこちらで声があがり、廊下も移動する人でごったがえしている
「これ、もくずさんのー」
相変わらず元気に仕事を増やす瞳が次に当たられた仕事は、作り終えたメイド服を間違えずに本人に渡すこと。さすがに簡単な仕事なため杏奈の助けもあり、三人しか間違えていない。
クラスの女子で一番背が高いことので、比例して服も大きく作られているが、どうも胸元が少し小さい。
「明日リハーサルあるから、そん時着てね。はいじゃあ次明美か」
瞳と杏奈は次へと向かう。使うのは明日からなので、とりあえずメイド服を机にしまった
「あ、もくずさん今大丈夫?」
何かしようかと思っていると、いろいろと荷物を持った明美と目が会う
「この書類を四月一日先生に届けて欲しいんだけどいい?」
「届けるだけでいいの?」
「そうそう。ありがとーマジ助かる」
紙を渡し終えると明美は忙しそうに荷物を他の女子のところに運んでいく。
クラス出し物のリーダー的な存在になっている明美はやることがまだまだたまっているんだろう。
職員室では先生方もいつもより活発に行き来していた。四月一日先生が席に座ったタイミングを見計らい、紙を提出しすると、引き出しから眼鏡を取り出しぶつぶつ何か言いながら目を通す。
やや時間がたつとおでこにしわを寄せ始め、書類でぐちゃぐちゃになった机の隅で湯気を吹かすコーヒーに口をつける
「うーん、大方いいんだけどちょっと直す必要があるところがあってですね」
胸ポケットから顔を出していたシャーペンをカチカチ鳴らし、2、3か所に〇を描く
「ここをもうすこし詳しくお願いします。やっぱりお金を扱う以上おおざっぱじゃいけないからね。今日中に持ってこれる?」
「わかりました」
紙は明美が書いたものと思うので、言い切るのもどうかと思ったが、数か所だけなので今日中でもなんとかなるだろうと返事をする。にぎわった職員室をひっそりと後にした
「ここ、直す必要があるって先生が」
「あーおけおけ。明日までにやっとくね」
「あ、今日中までだって」
「んー、わかった。⋯⋯厳しいなあ」
眉を弱らせる明美は小さく本音をもらす
「良かったら、私やろうか?」
「え。いいの?」
明美は瞳をきらきら輝かせる。
「これは要するに具体的じゃなかったから駄目だった的なやつだから、それっぽく細かく書いておいてくれんない?もしうちらの思ってたのとちがったらうちらがどっちに合わせるし」
それはそれでまた難しいことになる可能性があると思うが、要領の良い明美ならみんなの説得も含めて綺麗に運営できるだろう。
「何回も本当にごめんね。最高ーの文化祭にしようね」
自分もメイド喫茶に接客として出る以上すこしは愛嬌を身に着けた方が良いのかもしれない。無邪気に笑って立ち去った明美の顔が長く視界に残り、そんなことを考えてしまう
「ねえさ、海中さん?」
丸を書かれた部分を読み返そうと視線を下げたとき、いつからいたのか壁によしかかり、腕を組んだ眼鏡の女子がもくずさんを睨んでいる




