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海中もくず  作者: 椎名 園学


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46/54

アニメ㊶

「ごめん、ぼーっとしててノック忘れてて⋯」

「あ、いえ。」

力哉の方には今までアニメを見ていなかったと言っていなかった嘘が、もくずさんの方にはアニメについての肯定的でない発言が、それぞれ脳裏によぎる

「力哉もう終わった?まだなら手伝おうか?」

「すいません。お願いしてもいいですか」

テレビに向かう力哉の隣には手の付けられていない折り紙がある。すでに遅いが、少しでもの気の紛らわせに、アニメを消そうとリモコンに手を伸ばすと

「消すの?」

もくずさんが力哉の隣に腰掛けながら尋ねる

「もくずさん確かアニメきらいだったと思うので邪魔になるかと思って」

「いや⋯別に、その⋯嫌いじゃないよ。ちょっと興味あるし」

過去の発言がうまくしゃべるのを邪魔してくるが、目を背けながらも無理やり言い切る

「力哉がいいなら一緒に見たいっていうか⋯」

もくずさんは指で折り紙をいじる。つづいて力哉も折り紙に手をのばした


「この子がヒロインなの?」

もくずさんがテレビに映る女性を指さす

「そうです。日向あさひって子です」

制服姿に、アニメ特有の食パン咥えをしながら走る彼女は、ドジで乙女で胸がデカい。くらげの家に飾られていたフィギュアと同じキャラクターだった

「力哉はこの子が好きなの?」

「まぁそうですね」

同級生の女子に聞かれているという状況に、声が小さくなってしまう

「可愛い子だね」

もくずは顔色を変えず、平然と嘘をつく

「どいういとこが好きとかあるの?」

「真面目なところですかね」

その顔とスタイルの良さに、見た瞬間からこころを奪わたのを、くずさんに言えるわけがなく、まったく真面目ではないのに、見損なわなれないよう一か八かで力哉も嘘をついた

「真面目な人が好きなんだ」

「もくずさんはどんな人が好きなんですか?」

「⋯⋯私も真面目な人かな」

体を伸ばし段ボールから折り紙を取る。力哉から見えなくなったその頬は赤く染まっていた


「おいしい大福があるんですけど食べませんか?」

「いいの?ありがとう」

「持ってきますね」

ソファから立ち上がり、大福を取りに良くと、もくずさんはすぐにリモコンに手を伸ばし一時停止を押す。力哉が好きなアニメを力哉なしで進める訳にはいかない。

力哉は大福を見つけると、コンロにヤカンを置き火をつける。せっかくもくずさんがいるのだし、どうせなら一緒に緑茶もあったほうが良いだろうと思ってのことだった。

出来上がりおぼんに乗せ運ぶと、もくずさんはいつものクールな顔が微かに緩んでいるのが分かる。以前大福を上げたときは二つ目もおいしそうに食べていたのでもしかしたら、大福は和菓子の中でも上位で好きなのかもしれない

アニメを再開し、もくずさんは大福を口に運ぶ

いつもは鋭い目が、柔らかくなり、頬が上がる。クールな顔がおいしそうにしているのが目に入り、自然と力哉も微笑んでしまう

そんなことは露知らず、食べ進め食べ終わると緑茶を飲む。口の中に広がるほのかな甘みを緑茶は穏やかに連れ去った


次へ次へと力哉のおすすめのアニメが流れ、集中して見るので口数が減っていく。狭いソファでお互い無意識に体が当たる。気が付かないまま、次のアニメが流れ始めた


「じゃあまた明日」

「本当にありがとうございました」

「あのアニメまた今度一緒に見てもいい?」

「いつでもまた来てください。それまでに他にもくずさんが好きそうなの探しておきます」

どこからか鳴り響く下校チャイム。中学生の時からずっと一人で聞いてきたその曲が、いつもと違うように感じてきた。部活から帰宅する星山の制服が彼方に見える。普通になれた気がした


「おかえりーどこ行ってたの?」

開けるやいなや、ちゃぶ台で煙草を吹かす姉の姿が映る。

「力哉の家で文化祭の準備してたから」

「早いなーもうそんな時期か。てかにしては笑顔だね。いつもいやいやで準備してたのに」

「⋯今年は行こうと思ってるから」

姉の隣に座り、もくずさんも煙草を咥える

「そっか、楽しんできてね」

火のついたライターを近づける姉は、暖かく安堵しているように見えた


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