瞳3555
その言葉にまばたきが一瞬止まる。ストーカーのことがあってから一週間。警察と学校には知らせたが、これ以上もくずさんの名前を悪いイメージと関連させないために二人で秘密にして瞳はおろか家族のくらげにも教えていなかった
「⋯特にかな。なんで?」
「最近力が昔より明るくなった気がしたから。ただの気のせいかな」
「たぶん気のせいじゃないかな」
ストーカー絡みじゃないとわかり、微かに安堵の息が漏れる。
それに瞳は特に気にする様子はなく、他愛もない話へ話題を変えた
「あ、そうだ。もうそろそろ文化祭の準備始まるけど何かやりたいものとかある?私と力哉、委員長だし」
「思いつかないかも」
「別に無いかな」と素直な本音が漏れそうになったが、瞳はきっと文化祭とかを楽しむ人だろうとできるだけ悲しませないことを言わないように無理やり言葉を変える。
「クラスの人達はメイド喫茶が良いって言ってるんだけど」
メイド服を着てほかのお客さんに接客⋯⋯
人をもてなして接客することがうまくできるとは思えない⋯。
作り笑いができないもくずさんが接客をするとなれば淡々と注文を取り、必要最低限のことしかできないだろう。できれば他のにしてほしいと本音を言うべきか、当日うまいこと自分が乗り切れることを信じるか。ポーカーフェイスの下で頭を悩ませていると、前方から女子生徒が手を振る。
「瞳ーおっはーなんで今日歩きなの?」
「ママが仕事で忙しいらしくて」
「もくずさんもおっはー」
見るからにギャルな服装の彼女は陽キャグループの頂点に君臨している明美である。
初めての知り合い以外から声をかけられたことに微かに戸惑いながらも、静かに「おはよう」と短く返した
「てかうちともくずさん話すの初めてだよね」
「確かに珍しいね」
瞳が返す
「うちずっともくずさんと喋ってみたかったんだよね。もくずさんってなんか好きなものとかあるの?」
「読書かな」
「うわー読書か、うち文字読むの嫌いでマジ本読まないんだよね。なんか本読む人ってかっこよさげだからうちも読もうとしたんだけど、いつも途中で寝ちゃうんだよね」
「そうなんだ」
「今度一緒に図書館とか行かない?」
「行きたいけどバイトしてるから予定会うか」
見た目通りな陽キャぷっりに、ついていけそうもなくバイトを使ってうまく逃げようと言い訳を返す。
「バイトしてるんだ、うちも近くのカレー屋さんでバイトしてるんだ。もくずさん前、お母さんと来てたよね?」
「え。あれお姉ちゃん。あそこで働いてるんだ」
夏休み中に家電を買いに行ったとき、姉が同僚から割引券をもらい家の近くのカレー屋さんに行ったことがある。かなりおいしかったのでお金がたまったら今度みんなで行きたいなと考えていたのに、クラスの人、ましてや陽キャの明美が働いてるとなるともう行くことができない⋯
「じゃうち部室に教科書置き勉してるから。もくずさんまた今度食べに来てねー」
気づけば学校の校門をくぐっており、周りには眠たそうに通学する生徒で埋め尽くされていた
「一緒にカフェで勉強しない?いいカフェしってるから」
「親分と一緒ならどこへでも行きます」
瞳からの誘いに杏奈は目を輝かせて返事する。
「じゃあ放課後になったら荷物もって女子トイレ集合ね」
「なんで一回女子トイレいくんですか?」
「もくずさんとか力とかにバレたらなんで誘わなかったのって思われるからね。隠密行動だよ」
「そういうことでしたか。合点承知の助です」
忍者のようにポーズをとる杏奈に、瞳もポーズをとる。通りすがりの先生に微笑ましい目で見られ、瞳の頬は赤ばんでしまうが、杏奈は動じなかった。
「じゃあ今日のテストは次の授業の時返すから。30点未満の人は追試なんでじゃあ」
チャイムが鳴ると、化学の先生はそれだけ残し、去っていく。
よどめくクラス内で、杏奈は颯爽と荷物を鞄に入れ始めた
親分と二人っきりでカフェ⋯⋯親分と仲良くなる大チャンス⋯
杏奈の内の心臓は激しく高ぶっていた。
瞳がクラスの女子から喋りかけられているのを横目に、杏奈は教室を出る。ときめきで視界が狭まっていたからか、目の前からやってくる人にぶつかった
「あ、すいません」
「いえいえこちらこそすいません。もうホームルーム始まりますけどどこか行かれますか?」
「へ?」
7限目が終わり張り切りすぎてすぐ教室をでた杏奈。まだホームルームは終わってなかった
鞄をもって教室を出たのことを誰にも見られていませんように、そう祈りながらホームルームを通り抜ける。変に意識しすぎたせいか陽キャのグループがこっちを見て笑っているように感じてしまう。冷や汗をハンカチでふき今度こそ女子トイレに向かう、出た扉と反対側の扉から今度は力哉ともくずさんが出てきた
「あ、杏奈さん。もう帰るんですか?」
力哉が聞く
「あ、はい。今日用事があるので」
「また明日」
「はい、また明日」
もくずさんがそういうと杏奈は軽く頭を下げ逃げるようその場をさった。二人にバレたら親分の完璧な計画が台無しになってしまう⋯。トイレに入るとこを見られないように、駆け足で廊下をかけた
運よく誰もいないトイレで、杏奈の切れた息の音が響く。水筒に口をつけ、やや季節遅れの、氷が多く入ったお茶を飲む。毎朝母が作ってくれる麦茶がいつもよりおいしく喉を通った
「おまたせー。ほんじゃ行こっか」
「はっはい親分!」
やや息が切れるも、現れた瞳を見て元気いっぱい返事をした




