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海中もくず  作者: 椎名 園学


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34/53

杏奈㉜

転校生を出す予定なんかなかったのに瞳の子分を作りたくなって気づいたら杏奈が生まれました。頑張って

「んで、なんで女子トイレの前で叫んだんですか?中でトイレをしている子が嫌がるのは考えれば分かるでしょう。あなたはもう高校二年生なんですよ。来年は受験。こういう日々の意識から出てくると先生思うんですよ」

一時間目のチャイムが差し迫ったころになり、静まり返った職員室の中念仏のように四月一日先生の声が低く唱えられていた。

「はいじゃあ、もう時間ですんで帰っていいですけど、反省文を書くのが決まりになっているんで昼休み取りに来るように、あと今回のことはアウト行為だから、私と校長、教頭、保護者、部活動をやっているのであれば顧問の人にもハンコかサインをもらってくるように。何をしたのか自分の口で説明するように。このことは保護者懇談会でも挙げさせてもらうから、嘘ついて言ったふりしても無駄ですからね」

瞳が震え涙がこぼれそうになるのをこらえ、頭を下げ逃げ逃げ足で職員室を出た


「あ、いました。あなたがくらげさんですね」

職員室を出た途端、転校生がくらげに話しかける。

「そ、そうでやすが」

「えーっと、ちょっと待ってくださいね」

転校生はスカートのポケットから紙切れを取り出す。そしてくらげを指さして

「一年の時野球部にノリで生徒会長立候補させられたけど、盛り上がったのは最初だけで途中から置物になって野球部からも笑われなくなった陰キャ。文化祭屋台のキャッチ女子に声かけられたけど何言えば良いかわからなくて黙ってたら、空気が悪くなって愛想笑いでどっかいかれた陰キャ。コンビニで可愛い店員さんいたけど、変に意識してしまって違う人のレジに行って、「ま、まあ。あんなに可愛いんだからどうせ彼氏いるし」とか心で防衛線張っておく陰キャ」

もくずさんから教えてもらった、くらげの弱点を読み上げていくと二つ目を超えたあたりから、くらげの喉奥がかった熱く押される感じを覚え体が震えていく。三つ目を読み終えると四つ目を行こうとしている転校生の前で、くらげは大粒の涙を流し始めた。生徒は教室に入っているので周りには転校生とくらげしかいない。だが大声で泣くくらげの声に何人かの生徒が教室から顔をのぞかせる。

転校生は瞳から血も涙もない極悪人で女の敵である変態野郎と教えられていたので、強敵と身構えていた人が突如目の前で泣き崩れ、戸惑いを隠せなかった

「え、あごめんなさい。すいません言いすぎました。あ、えーっと陰キャはちょっとひどい言葉だと思うので真面目な人にします」

転校生の言葉にくらげは思い出してしまう。小学校の通信簿で「静かで真面目」と6年間書かれ続けていたことを。くらげの涙は勢いを増す。教室まで聞こえていたのか廊下の角から瞳が走ってやってくる。泣いたくらげに「へっ!」と一言投げ捨てると。戸惑っている転校生の頭をそっと撫でた

「これから杏奈ちゃんは私の子分だ、これからも一緒に悪いやつを倒していこう」

「はい親分!」

戸惑い顔はすっかり忠誠に昇華される。響くチャイムの下、杏奈は再び「ラジャー」とポーズをとった


「それで杏奈ちゃんがくらげを倒してくれたんだよ」

「親分の役に立ててうれしいです」

お母さんが作ったであろうタコさんウィンナーを食べ杏奈のわかりやすく頬が上がる。

「くらげはいいのか?なんか悲しそうだけど」

教室の端でポツンと弁当を食べるくらげを見て力哉は言う。いつも癖が強い人であることを考慮しても一人冷たく冷や飯を食べるくらげがかわいそうに思えてきた

さすがの瞳もそう感じてきたのか、箸を止めてくらげの方に目をやる。瞳に昨日見たアニメの感想を伝えるため急ぎ箸で食うその右手は、今日は遅く給食開始開始から10分がたったのにかかわらず弁当は新品同様に整っていた。

瞳は静かに席を立ちくらげに近寄る。頭が白くなったか瞳が寄ってきても気づいていないくらげに

「そのさっきはやりすぎたかも、ごめん」

「あ、姫。いいんでやす。わるかったのはおいらでやすから」

言い終えるとくらげは顔を弁当に戻す。話が切れそうだったので瞳は慌てて

「アニメの抑えてくれるなら、こっち来てもいいよ。みんなで食べた方がおいしいし」

「本当でやすか?」

くらげは目を輝かせながら聞き返す

「杏奈ちゃんはアニメとか全然しらないってさっき言ってたから気分悪くさせない程度に面白いアニメ教えてあげて」

くらげはさっきのことをもう一度深く謝り席を4人の方へ運び出した


「そういえばバイトすることにした」

蝉の声が少なくなってきた帰り道、いつものように二人で帰っているともくずさんがそういった

「どこで働くことにしたんですか?」

「近くのコンビニで働こうと思って」

金銭的になぜ今までバイトをしていなかったのか、力哉がずっと考えていたことの一つだった

姉想いなもくずさんならバイトくらいしてそうだと思っていたが、バレて休学や退学になるのがいやでやらないんだろうと勝手に思ってばかりいたが、いきなりもくずさんがバイトすることをいいだし、疑問に思ってしまう

「なんで働くことにしたんですか?」

あくまで今始めた理由に重きを置いて聞いてみる

「お金が厳しいからね。勉強に集中できなくなってしまうからってお姉ちゃんがずっとバイト禁止してたんだけど、力哉が家に来た後また聞いてみたら、なんか変な勘違いしたみたいで許可してもらえたんだよね」

嬉し気にもくずさんはそう話す。何と答えればよいのかわからなかった力哉は、それっぽい作りの笑いでしのぐ。

くだらない話でそのまま歩いていると小学校を過ぎた頃、もくずさんが突然力哉の手を握る。突然のことに心臓が速くなるのを感じてしまうが、もくずさんはそんなこと目にも留めず、真剣な顔で

「力哉、走るよ」

足の速いもくずさんい引っ張られる形で、二人は走り出した



登場人物を陰キャ、やや陰キャ、陽キャ、やや陽キャで表すと

陰キャ 力哉、くらげ

やや陰キャ もくずさん 

やや陽キャ 颯太朗 杏奈

陽キャ 瞳 もくずさんの姉

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