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海中もくず  作者: 椎名 園学


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32/54

新学期㉚

「ねぇもくずちゃん。私たちってさ絶対に親友になれると思うんだよね。前世からの縁だよ」

「前言ってたドラマ見たの?」

「そう‼死んじゃったけど生まれ変わってまた王子様に会えるの。本当に面白かったんだよ。今日学校終わったら一緒にうちで見ようよ。絶対もくずちゃん好きになるよ」

年相応のあどけなさで美緒は笑う。可愛い笑顔だ⋯。


「ねぇなんで来てくれなかったの?」

「ごめん、忙しくて」

「約束したのに」

美緒は頬を膨らませ、もくずの顔を睨む。いつもなら、再び謝ってその日の放課後見に行っただろう。けれど

「私だって忙しかったんだからしょうがないじゃん。いつも美緒ばっかり勝手じゃん」

昨日のこともありついもくずは感情的になり、美緒を睨みつけどなっていまった。

美緒は唇を縮ませ下を向く。ああ、また美緒が泣く⋯。もくずさんは聞こえないよう意識しながらも、浅くため息をついた。

「じゃ、じゃあもういいし」

後半涙で活舌を弱らせ言い捨てると、走っていく。


ここからだ⋯ここから、間違えたんだ。⋯また、つまらない美緒が好きな俳優のこと聞きたいな。

美緒はもう、死んでいる、のに



「もくずちゃん、私約束したよね」


低い声が耳もとからぞっと聞こえ、飛び起きるようにもくずは目を覚ました

「はぁっ⋯夢⋯か⋯」

荒くなっている息を整える。頭から垂れてくる汗を雑にふき、服が濡れてることに気づいた。

「大丈夫?うなされてたよ」

姉は目をこすりながらもくずを見つめる。寝入りの深い姉だ、だいぶひどくうなされてたんだろう。

時計の針が5時を指す。パジャマを脱ぎ、枕元に置くと姉がもくずに手を伸ばしてきた。いつもハグをねだるときのポーズだ。だが昨日姉はお酒を飲んでいないので、このハグはもくずの安心のための物なのだろう。姉と同じように下着姿のまま布団にもぐる。そっとハグをした。


いつ寝たかもわからないし、何ならあの後眠れたかどうかすらわからないのに目を開けるといつもの起きる時間になっていた。

「あれ、なんで裸?⋯」

寝起きうまく頭が回らないが近くにパジャマが脱ぎ捨ててあるのをみて思い出す。熱くて脱いだんだった

「おはよー今日(さぶ)いね」

いつもは起こし始めてから時間がかかる姉が、目を開ける。随分ぱっちり開いた目でもくずのことをじっと見つめ、ハグをした

「途中で起きた時から寝てなかったの?」

「あ、ばれた?」

もくずの胸からひょっこり顔をだしながら声をださず顔だけで笑う。

「もくずのせいじゃないよ。起きたあともくずの顔見てたら可愛くて眠れなかっただけ」

それならそれで私のせいになると思うが、容姿が良いと言われたのを遠回しに自認しているように誤解されそうなので特段返事をしない。もくずは人から容姿をほめられるのが好きでは無い。

「ごはん作ってくるから」

「もうちょっとだけハグしてよー」

姉が情けない顔でねだるので力強くハグを仕返し、立ち上がる。そのままエプロンをつけた。

「え、もくずHじゃん」

唐突な問いに気の抜けた声が漏れる。下着の上にさっとエプロンをつけたその姿は、姉から見れば何も履いていないように見えなくもない。立鏡で自分を一度確認すると、小さくため息をつき、エプロンを脱ぐ。服を着なおしてからもう一度エプロンを着た。

「なんで着るのーイイ感じだったのに」

「Hじゃなくていいから。早く起きて」

フライパンの乗ったガスコンロの捻り火をつける。小型の冷蔵庫から卵を取り出し、フライパンに向け、片手で割った。

姉の誕生日から一週間がたった日、姉は仕事を休み、もくずを連れて家電製品を買いに行った。キッチンにはヤカンしかないので、多く入ったボーナスで必要なものを一式そろえると姉は言った。やかんだけで特段困ったことはなかったので別にいらないだろうともくずは言ったが、姉がしつこく「今度からいつ力ちゃんが来てもおもてなしできるようにしたほうが良い」と言い張り、結局いろいろ買ってしまった。その時に買ったエプロン。最初は着る意味なんか無いと思っていたけど、エプロンを着たもくずの姿が姉は好きらしく、前より起きが良くなったので着続けている

満月に構える目玉焼きを皿によそい、ちゃぶ台に置いた。


「いってきます」と姉に告げ家を出る。クーラーの効いた部屋にいたせいもあって外は灼熱としか言えない温度に感じ、少しめまいがしそになる。夏バテで食が細くなりさらに体重が軽くなったもくずさんにとってこの暑さはだいぶ厳しい。周りの星山高校の生徒が日傘をさしているのが目に入り、朝姉から日傘をもらったことを思い出す。身のためはもちろん美容ににも絶対に使ってとひどく勧められたそれは、ふつうの傘よりコンパクトなサイズであるにも関わらず太陽光をほとんど遮断し、きもち程度体が涼しくなった気がした。

傘で遮られた視界の奥で、一人の男が眼鏡を光らせたのをもくずさんは知らなかった

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