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海中もくず  作者: 椎名 園学


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27/53

買い物㉕


もくずさんが一人で何かするのが好き

前来たときは観光客が多かったが、猛暑のせいか外国の人がすくなくなったように感じる。

前と同じように鼓門をちらりと見て左に曲がる。現れてくるのはフォーラスという縦に長いショッピングモールだ。

若者向けの店が立ち並ぶ屋内には、夏休みなこともあって、入るとあちらこちらにカップルがうろついている。初々しく言葉を交わす男女を横目にエレベーターに乗り込んだ

以前もくずさんは財布を持ちあるかずお金がほとんどないといったが、一切お金が無いといういうことではない。姉のボーナスがでると毎回、何かあった時に使ってと渡されていて、手を付けていないものがつもっている。私的な支出は本以外基本的にないもくずさんにとって姉への誕生日プレゼントが一番の使い道になっていた。今年は何にしようか

姉は性格上いつもにこにこしているがプレゼントを受け取った時は、申し訳なさそうにしながらも飛び切りの笑顔を見せ大事に使ってくれるので、つい良いものをと腕がなってしまう


エレベーターをおり辺りを見渡す、去年は無かった小物用品の店が目にとまり中へ入る。綺麗なお姉さんの「いらっしゃいませ」が飛んできた。

香水かなにかの甘い香りが充満するそこはぬいぐるみやメジャーなアニメキーホルダーで埋め尽くされていて、目が少し疲れる。さっと見ていると何かのアニメと思われるチャーミングなペンギンの手鏡と目が会う

(おねえちゃんいつも手鏡欲しいって言ってるしこれにしよっかな。可愛いし)

去年はハンドクリームでその前がマグカップ。できるだけ実用的なものを選ぶことをこころがけているので、仕事上なにかあった時すぐに顔を見れる手鏡は最適と思われた


金沢に住む高校生が遊びに行くとなると、真っ先に上がる場所がフォーラスであり、逆に言えばそれしか思いつかないほどフォーラスの中にはなんでもそろっていた。

第一目的だったプレゼントを早く見つけることができたので、時間があまり他の階を見て回る

客足が途絶えない店はずっと生き残るが、若者の流行の変わりはすさまじく、フロアが変わるとさっきとは比べ物にならないほど階層の雰囲気が変わっていた

運が良いことに行きつけのケーキ屋さんは相変わらず繁盛していて、今年も明るくもくずさんを出迎えてくれる。姉の誕生日はここのケーキを食べるのが定番となっていた。

もや一つないショーケースの中に並ぶは、鮮やかに照れる色とりどりのケーキ達。

純白のドレスに頬を顔が赤く照れるショートケーキやおっきな山の山峰に艶やかな栗をのっけたモンブラン。ライトの光も相まってどれもが輝いているように見えた

「ご注文お決まりでしょうか?」

ショートカットの髪色を茶色に染めた、端正な女性店員が笑顔で尋ねる

「チョコレートケーキとチーズケーキください」

「ありがとうございます。店内でお召し上がりなさいますか?」

「持ち帰りでお願いします」

「それではお会計1430円になります」

本格派で味が好評なことだけあって値段は比例し高くなる。もくずさんは財布を取り出し

「クーポンあります」

一年間チラシから集めてきたクーポンを店員さんに見せた

「ありがとうございます。それではお会計変わりまして450円になります。保冷剤の用意をいたしますのであちらの席におかけになって少々お待ちください」

お支払いをすますと店員は整えて伸ばした指先を一つの席に向ける。

ちょうど窓の近くの席なので、ぽかぽかした日差しがテーブルを照らす。店内で食べている人は少ないにしても、持って帰るお客さんが多く、もくずさんより前に座っている人がスマホを見ていることからちょっと時間がかかるかもしれない。もくずさんは本を取り出し、電車の続きを読み始めた


「ねえ、見た?」

「見た。クーポンって」

「ねー本当。貧乏くさいよね」

「本当にそう。てかなんでじゃあ私立の学校きたん」

「バカなんじゃない?」

「絶対それだ。淫乱だから」

もくずさんが読んでいる本は今風にいうと恋愛小説であり、終盤に差し掛かりヒロインとキスするシーンになっている。だが聞こえてくるひそひそ話に、内容など入ってこなかった。何回も経験済みなので、傍からみた体裁は変わっていない。けれどここが冷たく締め付けられる感覚は何度経験しようがなれることは無い。

「大変おまたせしました」

渡されるケーキを受け取りその場を後にした。相手の顔は一度も見なかったので誰が言ったのかはわからない。毎回同じ人が言っているのか、みんなが言っているのか。ただ静かに喫煙所に向かった


夏休みに入ったからか、喫煙所は大学生が多いように見える。ちゃらちゃらした金髪やパーマの集団が気弱そうな一人から煙草をねだり、気弱は苦笑いをただ浮かべる。多分あの集団は誰一人として二十歳を超えてはないのだろう

喫煙所の隅に体を寄せ煙草に火をつける。朝よりも体が抵抗しなくなっていて、すっと頭がすっきりしてくる。

煙草の長さが半分を過ぎたころ、あたりからさっきの集団がちらちらもくずさんを見始め。吸い終わると気弱が近づいてきて

「あ、あの。おねえさん。その、とても可愛かくて、良かったら連絡先おしえてくれませんか?」

もくずさんより背の低い彼は微かに体をもじもじさせ、目と目があわない。

(罰ゲームか⋯)

きっとあの集団にのりでやれと言われてるんだろう

「ごめん、今急いでるから」

好きでもないナンパされても全然どうとも思わない。ただ気弱がかわいそうなので、出来るだけ声を優しくして、そう言った。

「あっららー。残念」

背の高い金髪の男が気弱の背を叩く。慰めるというより嘲笑った顔で。

「おねえさん、俺シャイでさ、恥ずかくて友達に行かせちゃったんだけど本当は俺がお姉さんのこと好きなんね、だからさ、インスタ交換しよーよ」

汚く白ずんだ歯を見せ金髪はスマホをもくずさんに向ける。吸い殻をそっと箱に落とし一度金髪の目を見て冷たく睨むと、何も言わず喫煙所を抜けた

安堵で呼吸を整える気弱の隣に金髪は腰掛ける。気弱を挟むように反対側にもう一人座り

「んだよ。人が勇気だして声かけたってのに無視ってあいつ。」

「しょうがないですよ、彼氏でもいるんじゃないですか」

「あの人バリ可愛かったな、まじ一回ヤリたい」

反対の男が煙草をくわえながら吹き出し

「お前素直すぎ」

「はーまじ白けたわ。お前白けさせた罰として酒買ってこい」

金髪低く舌打ちを打ち。

「え、またですか?」

「まただよ、あとまたって言ったから煙草ももうひと箱買ってこい」

気弱の背を今度は蹴とばし、早く行けと指をさす。地面に手を当て、言われるがままコンビニを目指す。気弱が出て行った喫煙所で金髪は新しく煙草に火をつけた


「すんません、ちょっと失礼しますね」

清掃員の服を着たよぼよぼの爺さんが扉を開け、そういうと金髪に近づき煙草を指さす

「今さっきね、未成年のような男たちが煙草吸ってるって苦情が入ったんだわ、吸わせた方も悪なってしますかもしれんし、いまから身分証みせてもらえっか?」

おどおどと財布を漁るがもちろん年齢は19と書かれている。そのまま流れ警察が来たあと大学に連絡がいくまでさほど時間はかからなかった

スマホの機能をほとんど知らないもくずさんはカメラ機能など知りません

一人行動なのもあるけどもくずさんだけだとほとんど話さないから淡々としてる

もくずさんの身長が175センチあるから、だいたいの人はもくずさんよりも小さいと思う、ちな力哉は174


ケーキのところは本当はもくずさんがおいしそうにパンを食べるシーンでしたが、ストーリー状修正する必要がでたのでこうなりました。ですがせっかくなのでここに描いたのを張っておきます。

IFルートか何かやと思ってください



運が良いことにもくずさんが昔から好きだったパン屋さんは相変わらず繁盛していて、今年も明るくもくずさんを出迎えてくれる。姉の誕生日はここで朝ごはんを食べるのが毎年の醍醐味となっていた

ぷっくら膨らんだパンは芳醇な香りで嗅覚を促し、ついあれもこれもと手に取ってしまいそうになるが、ぐっとこらえ、お目当てを吟味する。がきつね色に照れた彼等が周りの人に取られていき数が少なくなり、うっかり手を伸ばしてしまった。自分の朝食と姉への土産なので、多少量がかさんでもいいが本格派な店だけあって取る度唇をかんでしまう

「店内で召し上がりますか?」

「お願いします。あとこの抹茶ラテもお願いします」

メニューの隅っこに描かれているのを指さす

「お会計1480円になります」

パンを詰めながら述べる声に我に返り胸元がしゅんと冷たくなってしまう。

「クーポンあります」

数か月かけてチラシの中から切り取っていったクーポンを店員に渡す。

「ありがとうございます。それではお会計980円になります」

だいぶ安くなったとはいえ、千円ぎりぎりの会計はやはり罪悪感が芽生えてくる

だが席に着き、ストローに口をつけるとふんわり消えていった

口いっぱいに広がる優しい甘さとほろ苦い抹茶の香りに、思わず笑顔が綻んでしまう

日の光に当たり、まるで昼寝をしているかのようなクロワッサンを見ると食べるのを躊躇してしまいそうになるが、意を決して頬張る。黄金に揺れる小麦の香りが優しくもくずさんを包み込み、気が付けばクロワッサンを全て食べてしまった。残るパンは2つ、一つだけ店内ということ言い忘れていたので食べることができるが、残るこれらはどれも姉が好きなものなので食べるわけにはいかない。

一応見るだけ。そう決めテーブルに並べたメロンパンとチョココルネどれもまたクロワッサンと違った美貌を持っている

満月に輝くメロンパンからはバターの香ばしい匂いが舞い、チョココルネからはひょっこり顔をだすチョコが艶やかに見つめててくる


最後に残しておいたラテを飲み、テーブルを見る気が付けそのどちらもが残っていなかった。

(あ、やってしまった)

いつもななら、焦ってしょんぼりしてしまうが珍しく後悔の念はあるものの、そこまで強くない。それより本当においしかったから絶対にお姉ちゃんに食べさせたいという思いの方が強かった

席を立ち、もう一度お客さんの列に並ぶ。

せっかくならお姉ちゃんも3つ、いや4ついるかな

さっきの二つに加え新人をもう二人のっけてレジへ行く。さっきを同じ店員さんだった

「店内でお召し上がりですか?」

「お持ち帰りでお願いします」

財布を取り出し、お金をとりだす

「とても美味しそうに食べていらっしゃいましたね。おいしかったですか?」

さっきより自然に近い笑顔で店員は尋ねる。見られていたと思うと恥ずかしくなり頬が赤くなる

「おいしかったです」

「それは良かったです。お客さん毎年この時期に来られてますよね」

「え、あっはい」

もしかして、見られてたの今日だけじゃない⋯

「毎年おいしそうに食べるからつい見てしまうんです。今年も可愛い姿が見れて良かったです。またいらっしゃってくださいね」

袋に詰めにこやかな顔でパンを渡す。恥ずかしくうけとりつつもどこか満足した朝食だった


「店内で召し上がりますか?」

の時に

「はい」じゃなくて「お願いします」というのがもくずさんの魅力

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