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海中もくず  作者: 椎名 園学


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24/53

チアガール㉒

高校の名前は星山学園です。今決めました

笑顔で現れた彼女たちは、ポンポンを頭上で叩きながら列ごとに分かれていく。

ぷにっとした瞳と違い、もくずさんのきゅっと引き締まった腹部からは腹筋がうっすら見えている

ミニスカートから鉢巻まで黄色に埋め尽くされ、ウルフカットの銀髪と合わされば、勝利の女神そのもののように見える。少しぎこちない作り笑顔で瞳の隣に並び、二番目のサビに合わせ、ダンスを始めた

急遽の助っ人とは思えないキレやシンクロに圧巻され、思わず口が開いてしまう生徒も多いようで、チアガールが出てから視線が球児から離れ、声援も微かに小さくなっているように感じる。それもあり、次の曲のがさらに大きく会場に響く

「「レッツゴー星山ー!」」

チアリーダーと思われる生徒に合わせ、ほかのチアリーダーが声を高める。

「いーけ、いけいけいけいけ星山。さーせ、させさせさせさせ星山。夜空で舞ってろ星々で!へい!。りーり、凛々しくたってろ山峰よ!へい!」

甲子園へ出場常習としてこの掛け声がよくテレビで流れていることもあり、辺りの観客も自然と口ずさみ、一つの塊となって、相手校の演奏を凌いでいた。その応援あってか、二回裏で星山の選手が得点と決める。

「「せーの。ウォッシャーホー!」」

全チアガールがポンポンを胸元で震わせ、跳ね上がった


「はーまじ疲れた。いきなりとか|四月一日先生ひどいよね」

「それな。私野球のルールわかんないから間違えて相手チームの得点の時もジャンプしちゃった」

試合が3回目に入ったところでチアガール部顧問である四月一日先生から、交代の合図が届き皆が更衣室で着替える。着替え終わったもくずさんは瞳が友達と喋っているのを確認して、部屋を出た

「ねえ瞳」

「何?」

隣にいた女子から声をかけられる

「最近瞳、海中さんと仲いいじゃん?それやめた方がいいよ。同じ小学校だったって子がいるんだけど、あの人小学生の時、人殺したらしいよ」

いつものパパ活の話だろうと身構えていたので、当然のことに瞳孔がひらく

「嘘だー。もくずさんいい人だよ」

無理に笑顔を作り否定する

「ほんとだって。瞳、あんたバカだから騙されてるだけだって。みんなあの人の悪口言ってるよ」

「そうそう、あの人いっつも澄ました顔してさ。ほんとウザいんだよね」

否定する瞳に集まり、皆がいろいろなことを言い出す。悪口だったり、根も葉もないうわさだったり。瞳は何とか抑えようとあれこれ言うも、それが燃料となり、さらにエスカレートし声も上がっていく。

それは更衣室の前で瞳を待っていたもくずさんの耳に届くには十分すぎるほどの声量だった


「あ、カラス。カラスも野球見に来るんだな」

会場を照らすライトの上にカラスが群れを成してじっと試合を見つめる

「射殺しろ」

着替えを終え、席で大きく伸びをする瞳は何の映画に影響されてか、サングラスをかけ腕を組み、プラスチックのメガホンを太ももに携えそう言う。マフィアか何かかな?

「射殺?」

「あぁ、射殺しろ」

驚きながら聞き返す、力哉をもろともせず繰り返す。なんで持っているのか、ストローを口もとに

近づけ、ライターをつけるように親指をはじき、舌打ちで音を出す。瞳の中で現れた炎をそっとストローにつけ、大きく息を吸い込む。ふぅーとさらに大きく吐き出した

「決まるわー」

どやどやしてくる顔には触れず。ただため息を漏らす。けれど濃いサングラスの彼女からは見えていないようで

「そういえば「すんご()いドラ()ゴンで()すが。よすが()」の最新話見た?」

「あー黒墨大佐か」

今話題のアニメすごドラのラスボスである黒墨大佐は全身黒のスーツでかため、左目を眼帯で隠した上にサングラスをかけている。いつも煙草を吸っているキャラであることも考えると、おおよそ黒墨大佐に憧れてサングラスなんか持ってきたんだろう。

「そうそうあの人かっこいいよねー。「俺は煙じゃねぇ」って言った時もう、ほんとたまんなくてさ」

サングラスをかけていようが、口角と頬を見て笑みを浮かべていることが分かる。幸せそうなやつだ。

もくずさんにアニオタだとバレたくないので、それっぽく適当に返していると、そのもくずさんの姿がさっきから見えていないことに気が付く

「あれそういえばもくずさんは?」

クラス単位でチアガールをお願いされたようで、瞳が帰ってきた時にほかのクラスの女子もまとまって出てきたが、もくずさんが見当たらない。トイレだろうと気にしてはいなかったが、瞳が帰ってきてから1時間は経っている。女子にそんなデリケートなことは聞けないがさすがに一時間は遅すぎるだろう

「あれ、確かに。私よりも先に着替え終わったはずなんだけどな」

首を傾げ考え「水飲んでるとか、いや長すぎるか」

思考する二人を横目に星山側が点を決める。機械のように、出来すぎの笑顔でチアガールは笑っていた


その後ひどく得点を取られるということもなく、守りきる形で星山高校の勝利で終わった。

今年の実りは良いと言っていたものの、それはただ去年と比較したときの話で、相手校のエースがプロ野球で一線を張っている人の息子だったり、ピッチャーが強いことで有名な人であったり、そもそも体格差が目に見えて違うなど、賭博組の中では良くて接戦、負けでもしゃあないと言われていたこの試合。蓋を開けてみれば7点も差が付き星山高校の勝利で終わった

終了のサイレンに包まれながら、選手の活躍で泣く者、賭けで負けてわめく者。試合中以上の騒めきが渦巻いた



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