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海中もくず  作者: 椎名 園学


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22/54

お寿司⓴

「あ、あのもくずさんそろそろ注文やめて欲しいんでやすけど⋯」

とぅんとぅるとぅんとぅん、とぅんとぅるとぅんとぅん、とぅんとぅんとぅんとぅんとぅん

ご注文の商品が到着します

くらげの声をかき消し、嘲笑うかのように商品が届く。運ばれたチョコケーキを口に運び

「瞳はもういいの?」

「せっかくなら私も二個目食べよっかな、いや太るかな⋯」

「瞳は細いから大丈夫だよ」

そういわれ瞳の瞳がまん丸にきらめきタッチパネルに手を伸ばした


あれから注文したお寿司が次々と届き、安穏が流れていた。

皆好きな種類が微妙に異なり赤、白、黄色とテーブルがまるで四季を描くように彩られていく。安いものから大トロまで新幹線が止まることは無かった。10皿辺りに来ると腹にたまっていき、箸を持つ手が止まっていく。けれどもくずさんだけはもぐもぐ食べ続け、皿は重なり18皿に。

冷や汗を流しながらくらげが見つめていると、ようやく箸を置き煎茶を口に含んだ。が、つかの間いつ頼んだのか今度はデザートが流れ今に至っていた

「ほんじゃー大学芋にしよっかなー」

タッチパネルが爽やかに注文の感謝を述べる。くらげの冷や汗はふき取る必要があるほどになっていた

「も、もう終わりでやすね。食べすぎは良くないでやすし」

「アイスコーヒ欲しいから頼んで。あ、お姉ちゃんにももって帰りたいからやっぱり二つにして」

目も合わせないまま、もくずさんはそう告げる。

震える右手でくらげは注文を確定した

「もくずさんそんなにお金あるの?」

「大丈夫だよ。今日はくらげが払ってくれるから」

「え、そうなの?」

くらげは必死の抵抗か、微かに首を横に振りながら頷く。自腹だと思って自重していたようで「まじかーもっと食べればよかった」軽口で嘆いた


「お会計4232円になります」

愛想良いお爺さんが告げる。

「⋯⋯カードでお願いしますでやす」

やや高く張った声が鳴り、スキャナー読み取る。

くらげのスマホに映るアニメの壁紙縁取られた残高は無慈悲に消えていく。特典がもらえるルーレットが乾いた音で「はずれ」とつぶやいた

「ごちになります!!」

「俺までごめんね」

「ふぇい⋯」

瞳と力哉に、風船から漏れ出る空気のような声で返し店を出た

「おいしかったね」

「もくずさんって意外と意外といっぱいご飯食べるんですね」

「人のお金なら食べた方が得だからね」

「私もまだまだ負けてられないな。今度くらげがおごるときは中華にしよーよ。私中華ならもくずさんより食べれると思う」

会計がよっぽど響いたようでくらげは沈黙を貫く。静々とされど確実にもくずさんの横顔を睨んでいた。

けれどやっぱり反抗まではできないようで、もくずさんが振り向けばしゅんと顔を反らす

本人からしたらたまったものじゃないとは思うが、傍から見ればその関係は面白く、微笑ましくも見えた



「私ハ、モウ帰ルトスルヨ。月ダカラ帰ッテハ来レナサソウダケド、ソノ分ヲ想エルト思ウンダヨネ」

制服姿の彼女は言う。さばさばと湿っぽく、最初はこんな奴だと思っていたいなかったんだけどな。最初のままならどんなに別れが楽だったか。

「科学ノ進歩ヲ期待シテイルヨ、ジャアネ人間」

彼女は振り返らない。だから俺もそうすることにする、その方が次会った時気まずくないと思うから。

アルコールが回ってきたようだ、視界が揺れていた


そこまで読んだとき力哉も酔ってきていた、アルコールでではなくバスに。

ちょうど一冊読み終えたところなので、きりよく本を閉じる。

熱中していたので気づかなかったが、かなり時間がたっているようで辺りの人のほとんどが眠っていた

瞳もその一人。口を開けよだれを垂らし、耳を澄ませば小さくいびきが聞こえてくる。本当に女子高生なんだろうか

座りながらも上半身を伸ばす、梅雨明けで少しじめった空気が肌にべたつく、水筒を開け口をつける。

「あ、起きてたんですね」

周りを起こさないよう微かな声で言うと

「落ち着かないところだと寝れなくて。力哉も本読んでてたの?」

閉じた小説に視線を落として尋ねる

「昨日図書室いった時買ったの持ってきたんで」

「なんて題名?」

泥酔最中(でいすいもなか)です、知ってます?」

「知らないかな、有名なの?」

「結構マニアックかもしれません、そんな著名な人ってわけでもないですし」

もくずさんは何を読んでるんだろう。表紙に目をやると赤い表紙にタイトルの漢字が三文字書かれている。

「難しいの読んでますね」

「そんなに難しくないよ」

もくずさんは右手でピースを作る。(かに)のようなポーズはまさにその本を表している

「かにかに」

低い声でピースを閉じたり開く。今日はなんだか機嫌が良いのかもしれない


ピーンポーン

バス内にゆったりとおもちゃのようなアナウンスがなる。

「はい、あた15分ぐらいしたら着くから寝ている生徒は準備おねがいしますね」

このバスは甲子園への切符がかかった全国高等学校野球選手権の会場へ向かっていた

昨年の芳しい成績に加え今年は調子がさらに良いとのことで学校側が張り切り皆で決勝の応援に行くことになった。スポーツが強い高校であるとは言え、勉強をしに学校に入った人もいるので興味ない人もまあいる。さっき梅雨のせいにしたどんよりは、この影響も含まれているのかもしれない

「瞳、もう着くぞ」

瞳の肩に手を当て体をゆする。「ん⋯だぁ⋯」ドスの聞いた吐声が漏れ、目が一線ほどあき目が会う。

微かに舌を打うと体を反対に倒した。


バスを降り会場に入ると、まず感じたのは選手たちにも負けぬほどの地球からの声援ともとれる熱であった。スマホに表示される温度は37度。。ぜんぜんと照らす太陽は肌をピリピリと焼いていた

「暑いね」

配られたパンフレットをうちわ代わりにあおぎ、もくずさんが隣の席に座る。


高校生でもデビットカードはもてます

私が好きな小説は坊ちゃんです

瞳の瞳ってなんやねん

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