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海中もくず  作者: 椎名 園学


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18/53

姉妹⓱

「なんで⋯ですか」

立った四文字が頭に渦を巻かせる。改めて映る他校の制服、微かに見て取れる甘い化粧が気味悪く邪推を導き出し⋯というより邪推であってほしいと願う、限りなく真実に近いそれを思ってしまう

「お金が厳しくなってきたから⋯⋯。私も何かできることしようと思って」

「⋯⋯⋯」

説教染みていない優しい言葉を言おうと口をもごもご動かすが、一つの言葉も浮かんでこない⋯

良くも悪くももくずさん状況を知ってしまっているのでかけるべき言葉が浮かばす、ただ心が臭くざわめくだけだった

「もし⋯その気があるなら⋯⋯⋯力哉でも、いいよ。友達料金とかは無理だけど」

「友達」という言葉が厭に心にまとわる

初めて集会で出会った、あの時も力哉にとってもくずさんは冷たい人だった。こっちに非があるとはいえ初対面で背中を蹴り上げてくるし、人の家で煙草を吸うし。普通の人とは違う、関わるべきではない人に見えた。けどあっていくうちにその思いは溶けていった。

冷たく見えていたもくずさんは、ただ一人で耐えていただけだった

姉への罪悪感を感じながらも自分が原因となっていて変えることができないことに胸を圧迫され、

その姉のパパ活の誤解のせいで自分がクラスで嫌われていても、姉を想い否定せず

毎日が少しづつもくずさんを潰していっていただけだった。けど

日がたつにつれ、もくずさんの表情が柔らかになり

日がたつにつれ、もくずさんも力哉に話しかけるようになっていき

ふと見せる笑顔がとても似合っていた

そんな彼女に今の自分が出来ることは、女子高生である彼女の春を買い少しでも援助してあげるしか無い。そうしたとしてもそれは一時的なものに過ぎず、足りなくなればもくずさんはまた春を売らなければいけなくなってくる。もし買い続けたとして、できていく二人の関係は冷たく後ろめたいものになるのが目に見えて分かった

葛藤が回り、静かな時間だけが過ぎる

「代金は2万円なんだけど⋯⋯」

もくずさんは悲し気に瞳を下げ力哉に近づく。目を合わせないまま力哉の正面に立つと

「じゃ、じゃあ」

力哉は震える手を必死に抑え財布をもくずさんに差し出した

「⋯ありがとう。今お姉ちゃん家で寝てるから近くの」

「中に三万円あります。少ないですけど使ってください。返さなくていいいですから」

「え、ちょ」

もくずさんの声を遮り早口で述べる。乱雑にもくすさんの手に財布を持たせると返事を聞かないまま走り出した。優しいもくずさんのことだからただで受け取るのは拒み、飽くまで行為の代金としてしか受け取らないだろうが、買ってしまえば、せっかく見れたもくずさんの笑顔が全部壊れる気がして、ただお金を渡した。けど今自分で言ったようにこれは一時的にしか過ぎない。今後力哉が渡していくためにはバイトの他に生活費を削るなど努力が必要になってくるだろうしそれをしたとしても現実的に解決できる問題じゃない。でもあんないい人が見ず知らずのおっさんに汚されてしまうのが耐えれなくて無計画に力哉は渡し走り出した。


ぴちょ

天井から払い落とされた雫はぬるく冷めたお湯に沈んでいった

海中家は基本お風呂に入らずシャワーを使っている。最後に浴槽に湯を張ったのは高2の始業式の前日、今年こそはもくずに友達ができるようにと姉が祈願を込め半ば強制いれたときだった。

家に帰ってからどのくらいたっただろう。風に流されるようにそのまま茫然と家に帰ったもくずは、何もできず浴槽の中、体育座りで目を閉じていた。明日から力哉にどう接すればいいんだろう⋯

考えても力哉の財布がある以上問題は難しいままである。対価として何か健全な手伝いでもと力哉の部屋の呼び鈴を鳴らしたが返事は一向に帰ってこなかった。きっと財布が返却されないように出てこないつもりなんだろう

何もわからないまま再び天井から水滴がもくずの頭に落ちる。

「あがるか⋯」

体を洗い流し適当なタオルで体をふく。ちゃぶ台で髪を乾かそうとドライヤーを持ち部屋の扉を開けると

「⋯起きてたんだ。体調良くなった?」

もくずの問いに姉は答えない。姉は真剣な表情を浮かべ、テーブルに置かれた力哉の財布を見ていた

「私の制服が脱いであったから、おかしいと思ってみたらポケットに財布あったんだけど。誰かから盗んだの?中にお金入ってるし」

「⋯友達から渡されて」

姉は静かにもくずの顔を見つめる。白状しなければ永遠にこの時間が続く気がして、唇を噛みボソッと

「さっき立ちんぼしてたから⋯」

口からその言葉が放たれるやいなや、姉は立ち上がりもくずさんの頬をぶった

「なんでそんなことしたの!」

もくずさんの耳に怒号が鋭く響く。姉の顔は赤くなり眉にはしわが寄り⋯⋯瞳からは涙が出ていた

「私ばっかりいろいろしてもらっておねえちゃん、ちゃんとしたもの食べてないから。少しでも足しになればって」

「ふざけたこと言わないで!!私はもくずに幸せになって欲しくて私が勝手にやってるだけ。私のことなんてどうでもいいの。ただもくずにまともな人生送って欲しいから⋯身売りなんてしてほしくないから、私が勝手にしてるだけだから」

「⋯⋯ごめん⋯なさい⋯」

涙ながらに叫ぶ姉に、もくずの頬にも雫がこぼれる。

もくずは足元から徐々に力が抜けていき、その場に崩れ落ちた

「⋯私⋯⋯私⋯」

言葉を出そうとするも、自然と涙が溢れだし喉元がかっと締め付けられる。

「私⋯」

無理やりひねり出そうと、したときもくずさんの体がそっと包まれた

自分の涙も拭かないまま、姉はもくずさんの涙を拭う。

体から伝達する暖かさに奥が宥められると

「ごめんなさい」

もくずもそっと姉の背中に手を回し抱き着いた。姉は胸にしみていく涙を優しく受け止め、もくずさんの頭をそっと撫でる。芯まで冷えている妹の体を温める何度も頭をさすると、

「ごめんなさい⋯ごめんなさい⋯」

もくずの口から自然と言葉が綻んだ。何度も、何度も


落ち着きを取り戻したもくずの前に姉はそっとコーヒーの入ったマグカップを差し出す。昔二人で暮らすことを決めたときに家から持ち出したものの一つで、姉のにはクラゲが、もくずのには母がかいた海賊船が描いてある。入れたばかりのコーヒからは湯気が立ち、表面にはもくずの顔が反射している

コーヒーに口をつけると隣に座っている姉が口を開く

「立ちんぼはこれが初めてなの?」

「うん⋯」

「それで⋯なに、したの?」

言葉を詰まらせ聞く。もくずは軽く首を振った

「始めたらすぐに力哉に会って」

「そう、ならよかった。ちゃんと謝って力哉君に返してあげてね」

「うん」

「あともしこれからも力哉君と仲良くできそうなら今度家に呼んであげて。お菓子でも用意するから」

「うん」

微かに頭を下げてを繰り返すもくずに姉は笑顔を作って

「そんなきにしすぎなくていいよ。もう怒ってないし。それに身売りに行ったのは嫌だったけど、私のこと心配してくれたのはうれしかったよ。けどもう身売りなんかしたらだめだよ、したらご飯抜きだからね」

言い終えると姉はまたもくずを抱きしめた

「もくずは可愛いんだから、Hは好きな人とだけだよ。約束ね」

「うん⋯⋯けどおねえちゃんお金どうするの?」

「別に気にしなくて大丈夫。あとでくらげかつあげしてくるから」

「なら私も行く」

「そうしよ。二人であのキモオタぼこぼこにしよ」

姉の破顔につられ、微かに頬を上げうなずいた

野球少年が忘れていったのか、途中おちていた金属バットを引きずり、からんからんと音を立て二人はくらげの家に向かった


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