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海中もくず  作者: 椎名 園学


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17/53

日常⓰

鞄をソファに置きテレビをつける。スマホの新型のCMが流れていた

「結局もくずさん、スマホ持ってないのかな」

家庭のことを考えれば持っていないのは当然かもしれないが、双子であるくらげはスマホを持っていたので不思議に思う。遠足でくらげともくずさんが全然話していなかったり、住んでいる家が違うので、思ってる以上に海中家は複雑なのかもしれない。

まぁ考えても推測の域を出ることは無いので、いつかもくずさんともっと仲が縮まった時にでもそれっぽく聞いてみるとしよう。

明日も学校があるので今日の疲れを考慮して早めに寝た方がいいかもしれない。そう考えると確かに体が疲れているように感じてくる。寝落ちしてしまう前に風呂を済ませようと浴槽へ行く。引き戸を閉じるとき遠くから救急車のサイレンが響いていた。窓に遮られたサイレンは小さくなる、が徐々に音が大きく戻っていく。近づいてきているようだった⋯


いつもより1時間も早く寝たのに朝からあくびが止まらない。

ごしごし目をこすり無理やり意識を正し席に着く、クラスのみんなは相変わらず元気そうだ

「おはよー昨日のドラマ見た?キスしたよね!もうあれでドキドキでぐっすり眠れたよ」

「寝れたんかい」

「力は眠そうだね」

「いつもより寝たんだけどな、」

「遠足つかれたんじゃない?」

「かもな」

「力哉どのはいお眠でやすか。おいらはアニメに熱中しすぎて気づいたら今だったでやすよ」

「くらげはなんのアニメが好きなの?」

瞳がくらげの方を向く

「多分言っても伝わらないやつばっかでやすけど、戦闘とか恋愛アニメなら全部好きでやす」

「あれ分かる?ポポロ少年記」

「もちろんわかるやすよ。あれは2025年上半期で神作画でやす。ちゃんと構成も練られているし何といってもアニオリのイチャコラシーンが最高でやす。あ、一期8話11話と二期1話25話でやすよ。あとネットでも書かれていたでやすが、声優陣も愛蔵曾孫(あいくらひまご)や丸山南ってのがこの作風と最高のマッチでやす。特に二期22話のサブキャラのあいたんと道彦の告白シーンはあいたんの声優の愛蔵曾孫ちゃんの、なんといえばいいんでやすかね、吐息というか、漏れ出た声というか女性の人間の声というのが⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

終始ニコニコしている瞳の顔が聞くにつれ引きつっていく。自分が振ったから最後まで聞こうとしているが話の言い方がねちょり悪く、さらに話している本人のくらげの息が上がり、頬が濁紅に染まってきておどろおどろしい。まだ続くのかと、体はくらげに向けたまま、視線は力哉に助けを求めていた

「い、一時間目体育だから俺そろそろいこっかなー」

「わ、私も体育だなー」

「確かにそうでやすね」

そういいくらが体操袋を持つ。安堵で瞳の顔が綻ぶが

「それで声優の話でいえば愛蔵曾孫ちゃんの演じている2018年の⋯」



「やっぱり血繋がってないと思うんだよね」

シューズが体育館の床を踏み、乾いた音が軽快に響く

「もくずさんアニメ見てる人嫌いなのくらげのせいなんじゃないか?」

「多分そうかも。私までアニメ嫌いになりそうだったよ」

準備体操が終わり、体育館5週を命じられクラスの皆はだらだら走り出した。始まってすぐは三人でペースを合わせていたが、1週を過ぎる頃にはもういくらげの姿は見えなくなっていた。そこでようやく語りは終わった。くらげから逃げるためか瞳がいつもより速く走ったので二人とも息が上がっている

「てか今日もくずさんいないね」

何かいつもと違うと思ったらもくずさんがいない。

「多分風邪かなんかじゃないか?」

「帰り三人でお見舞い行く?私今日暇だし」

「いやそれはいいんじゃないか。心配されすぎたらもくずさん困ると思うし」

もしお見舞いに行ってひとでさんが(うたが)っていたら、流れる空気は想像を絶する尋常じゃないものになるだろう。あとついででいえばもくずさんと同じアパートなのを瞳に知られたくない。消えかけてると思うが瞳は俺がもくすさんを好きだという邪推があるので、近くに住んでいるとばれるとにまにまでおちょくってくるのが目に見えている

「そっか。じゃ明日何があったか聞こっか。ついでにくらげのことも」

「くらげのことはやめた方がいいんじゃないか」

半笑いで返すも、瞳の表情は何やら本気っぽい⋯

よっぽどくらげの語りが嫌だったんだろう⋯


そのあとは案外、別に何も変わらないいつもどおりの一日だった。

しいて言うなら給食の時間にくらげも一緒に食べることになり、瞳が殺意ともとれる視線でくらげの話を聞き流していた。声優の話が終わればプラモデル、漫画と続きなぜか軍隊の話に流れていき

アサルトライフルの良さを語るときは「こいつを射殺しろ」

戦艦の話をすれば「撃沈させろ」戦闘機では「撃墜願います」

と訴えるように瞳はスマホで俺にスタンプを送ってきていた

くらげのことはもくずさんじゃないとどうしようもできないかもな⋯。そんな風に考え帆横断歩道を渡ると、最近よく嗅ぐひどい匂いが鼻に入ってくる。匂いのするもとに視線を動かすと学生服を着た少女が煙草をふかしているところだった。その顔は今まさに考えていた人物だが制服がちがう。

本校は緑のネクタイが目立つ硬派なものに対し彼女が着ているのは水色が爽やかに広がるものだった

煙草を捨てぐりぐり靴ですりつぶす彼女と目が会う。眉毛を侘し気に下げ瞳が細くなる。

「もくずさん⋯ですよね。誰かと待ち合わせですか?」

「いや⋯」

もくずさんは冷淡に首を横に振る、どこかを虚しく右手を遊ばせえながら

「今日もくずさんが学校休んだの心配しましたよ」

「私じゃなくてお姉ちゃんが体壊してしまって看病してたの」

「そうだったんですか。お姉さん元気になりました?」

「うん。何とかね」

「じゃあ今はもくずさんお使いか何かですか。お姉さんの代わりに」

「いや今⋯立ちんぼしてるの」

その一言で自分の心臓が冷たくなるのが分かった

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