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海中もくず  作者: 椎名 園学


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16/53

ご飯⓯

「あ!煎餅ならいけるかも」

ナップサックから賞味期限切れのお菓子を無造作に取り出し煎餅を見つける。袋紙を開け黒豆の散らばったせんべいをでかく開いた口に運んだ。バリッと音が鳴る、が瞳のおでこにしわが寄った

「湿気ってる⋯」

「⋯あとあげるよ」三日月型に変わった残りを力哉に差し出した

「俺もいらないんだけど⋯」

「もくずさんいる?」

もくずさんは静かに断り首を振る

「じゃあアリさんにあげることにするか」

三日月煎餅を練り消し程度に砕き、草下で働いていたアリさんの前にちょこんと置いた

止めた方がいいんだろうけど、「なら食べください兄貴。お願いします」と言われそうなので口を閉ざす。暑い日差しが照らすした、懸命に働くアリさんが気の毒に思えた

「はい」

最後のせんべいを一番屈強なアリに渡した瞳にもくずさんがクッキーを手渡す。

「ありがとうございます姉貴」

中腰の開いた太ももに手を付け感謝する姿が妙に似合っていて、思わず鼻で笑うと

「おうおう、あんちゃん。姉貴バカにしてんのか?」

「いやもくずさんじゃなくて瞳で」

「なんやとー指詰めまっか?」

「すんません。これで堪忍してください」

茶番に合わせるよう頭を下げ、鞄から色彩豊かな菓子袋を献上する。「ハイチュウ」と書かれたそれを見ると「おおー!!」と目を輝かせ「わかっとったらええねん」と上機嫌に関西弁で返した

「ん、んん」

本体を包み銀紙を開けようとするがなかなか開かない

「っら、ふんぬ」

腰を入れ力任せに引き裂く、飛び出したハイチュウはべったり瞳の袖に付着した

「⋯⋯おどれ溶けとるやないか」

力なくぼそっと吐き捨て、目をしぼませながら銀紙でふき取った。粘り気の強いハイチュウは服から楽々とはがれない。やけくそにゴシゴシこすっても傷跡が大きくなるだけだった


このままじゃカピってしまうな

ポケットに眠るティッシュは役に立つのかと頭に浮かんだ時、

「ウェットティッシュあるでやんすよ」

くらげが瞳に差し出した

「ありがとー」

あとから広がった薄い面のハイチュウは楽に取れていく。けれど中央のは遅かったみたいで跡が全く動かない。

「あとは洗濯だな」

「あーママに怒られる」

悲しみを孕んだ顔でやけくそにクッキーを食べる。嘆きたいのにあまりにクッキーがおいしすぎ顔が渋滞している。喜劇かなっと微笑むと、もくずさんが俺にもクッキーをくれたので瞳を肴に二人で頬張る。サクサクした生地から広がる牧歌な甘さが上品で思わず舌鼓を打った。暖かなお日様だった


瞳がこの後塾があるそうなのでまっすぐ帰ることにした4人はまばらに狭いバスに乗った

寄り道をして帰る生徒が多数派なようで車内に制服姿はほとんど見えない

運よく空いていた二人席に、瞳と力哉、もくずさんとくらげで乗り、他愛もない話をのんびりしていると遠足の疲れが出たようで瞳が瞼を閉じ始めていた。は頭を前に落としては起き落としては起きている


「そういえばおいらとライン交換してないでやすね」

くらげが体を乗り出しラインのQRコードを向ける。去年颯太朗と交換した以来、だれとも友達追加してないのでどこでやるのかわからない。試行錯誤で開け読み取ると、青髪美少女メイドのアイコンが飛び出してきた

「レムリンのアイコンがおいらでやす。レムリンは至高でやすよ」

「お、おうそうか」

「もしかしてラムチ派でやんすか?」

「いやリゼロは見てなくて」

もくずさんがいるのでリゼ▢を見ていない体で返す。本当はアニメ3週したほど大好きなのでいつかラインで語ろうと唇をこらえる。昨日と矛盾しないよう、アニメは知っているけどそこまでガチじゃない、という人物像でそのまま乗り切りバスは金沢に着いた

時刻が4時なので辺りには他の高校の制服がちらちら見える。

「じゃおいらはあっちでやすから」

眼鏡を正し律儀に一礼してくらげは背を向けた。

「瞳は今日どうやって帰るんだ?」

「んーんどうしよ。いい感じの電車あるんだけどめんどくさいんだよな⋯」

金沢から富山までは30分ほどかかるらしくその時間がめんどくさいらしい。

「俺たちの電車もう来るから先帰ってもいいか?」

「あーはいはーいい」

あどけなく全身で手を振る瞳に力哉も振り返しホームへ向かう。遠足がよっぽど楽しかったのか離れるとき変な寂しさが二人に流れていた


久しぶりにたくさん歩いたせいか、二人になると体がどっしり重くなるのが分かった。

電車が駅についていると言っても発射までまだ時間がある。空いていた座席に二人で腰掛けぼんやりホームを眺めていると力哉がスマホの画面を見せた。

「まだ時間あるんで良かったら見ます?」

「力哉がみたいのでいいよ。一緒にそれ見るし」

少し困った顔を見せ何か検索する

「ヒ〇キンでいいですか?」

「うん」

何のことか分からないけど、とりあえず頷く。「()(きん)」と聞こえたからキノコでも見るのかと思ったら茶髪の眼鏡の人が出てきた。お金もってそうな人だなっと見ていると力哉の頬が上がっていることに気づく。流れているのがラーメンを食べているやつなので力哉はラーメンが好きなんだと思っていると、力哉が私の顔を見た

「もくずさんの目にあいませんか?」

「うんん、いい人そうだなって見てた。面白いよ」

そういうと力哉の表情がまた緩くなった。

結局東金沢に着くまで画面を眺めていた。

男はヒーローの映画とかが好きって前お姉ちゃんが言っていたのでそういうもんだと思っていたけど、くらげはアニメが好きだし、力哉はご飯が好きだしで一概には言えないらしい。

私は何が好きなんだろって巡らせていたら、小さいころ友達と二人で見に行った恋愛映画が浮かんできた。オラオラ系のイケメンが主人公だったから、そんなにどきどきしなかったけど、友達はそういう人がタイプみたいで興奮してポップコーン倒してたっけ。キャラメルのポップコーンが食べれなくなったのは悲しかったけど、なんやかんや楽しかったな⋯

「じゃまた明日」

気が付けば目の前にアパートが広がっていた

「うん、じゃあね」

軽く手を振り離れる。

結局歌舞伎揚げは食べ忘れて新品のままだった。お姉ちゃんが帰ってきたら一緒に食べようと心を揺らせ鍵を差し込む。ひねると手ごたえがない、空いている

おねえちゃん帰ってたんだ

ドアノブをひねり扉を開ける。タバコの匂いが充満する枯れた部屋で、お姉ちゃんが倒れていた

歌舞伎揚げが割れる音がした気がした

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