遠足⓮
レンジが無いのにおにぎりが作れるのはひとでさんが職場から余ったお米をもらってくるからです
そんなに多くないし毎回余る訳じゃないのでもくずのお昼ご飯としてだけ使われます
瞳って名前にしたせいで目の方の瞳が使いにくい
勇ましい武将の金沢城のそばで支え、互いに引き立ちあっていくように桜吹雪が舞っていた。
富山の桜も東金沢同様に散ってしまったのか、桜を見るなり瞳は走り出しうひょうひょでポーズをとった
「力ー写真撮ってー」
「はいはい」
学校から配られているタブレットを取り出し写真を撮る。瞳の肩に積もった花弁が可憐さを引き立たせ瞳とは思えぬほどの清楚美女となっていた
「おぉーめっちゃ盛れてんじゃん。力撮るのうまいね」
「景色がきれいだからな」
「感謝を込めて力も撮ってしんぜよう、さあさぁ」
文字通り背中を押されピースを取る。周りには何人か生徒がいるので、恥ずかしくわずかに体が縮こまってしまう。それでもせっかくの遠足ということでぎこちないなりの最高の笑顔を作った
シャッター音がなり出来を確認しようと近き、画面を覗く
「なんでこれ⋯」
画面いっぱいが俺の顔で埋まっていた
「力の笑顔ぎこちなさすぎて」
瞳はぷすぷす笑いをこらえ顔写真をさらにズームする。鼻の穴付近に黒のイラストペンで線を描くとこらえきれず瞳は噴出した
「ぶっあっははは、見てー力鼻毛出てるー」
「ガキかよ⋯」
「あぁー鼻血でたぁあー。あっはふっはは」
赤で鼻したを塗りつぶし、瞳は一人ツボに入る。いつまでたっても変わらない瞳の良さであり悪さでもある幼稚さに呆れ、残りの二人を見る。もくずさんは微かに微笑ましくみまもり、くらげは気まずさを紛らわすべくただ景色を見ていた。
「よかったら兄弟の写真撮りましょうか?」
「あ、いや⋯⋯お願いするでやんす」
くらげは断ろうとしたがもくずさんと目が会い撮ることに。汗を垂らし人工的な必死の笑顔を見せる、くらげを少しでも映えさせようと金沢城と舞う桜をバックに引きつつシャッターを押した
「おぉ、もくずさん可愛い。くらげは⋯なんか、なんかだね」
くらげの顔は瞳から見ても分かるほど引きつっている。それに比べ、もくずさんの自然で素朴な優しい笑顔にはつい目が行ってしまう。白銀の髪と桃色の花瓣とのコントラストがマリアージュを生み出し見事な絶景が出来上がっている。
「水彩画みたいだな」と思っているともくずさんが近寄ってくる。
「桜綺麗だね」
「ですね」
自分とくらげには触れず背景に触れる。「もくずさんもきれいですよ」と言えればさらに良かったけど今の俺にそんな勇気は欠片もなく、いやこれを勇気と思うあたり微塵も無いの方が正しいのかもしれない
「もくずさんの写真あとから送ってくれない?」
「もくずさんがOKだすならいいけど。何に使うんだ?」
「わかってないなー。友達の写真は欲しくなるもんなんだよ。」
「なら2人の写真撮ろうか?」
もくずさんがちらりとくらげをみると察したかのように力哉に近づき、タブレットを受け取る。「おいらが撮るでやんすよ」そう言うと「力哉も入ろう」そっと、もくずさんが言った
「どうせならみんなの方が良いもんね」
無邪気な笑みで瞳も続ける。くらげはみんなに入ってないのだろうか⋯
誘われるまま二人の間に入ると、瞳が力哉の肩を組む。撮られた写真はさっきより随分自然な笑みを浮かべてた
国内外を超えた観光客もいたるところで同じようにスマホを向ける様子が目に映る。海外の方は桜や城など母国では珍しものに感動しているのに対して国内観光客はだいたい絶景スポットに固まって写真をとる。煎茶のごとく澄んでいる湖に浮かぶ孤島には樹木からなる橋がかけられ、周りに散りばめられた巌や松は日本の荘厳たる風景を醸し出している。それらを一望できるこの場にまさに絶好のスポットとなっていた
風景に心を染み、眺めていると場違いな阿呆声が聞こえてくる。
「あの木、腰曲がってる」「見てーもくずさん。池の水メロンソーダ見たい。飲めるのかな」
一回池に落としてやろうかと半ば呆れの混じりに思っていると、不意に「楽しいな」と思ってしまった
去年は宝石さながらのガラス細工を滋賀でしたり、運動会でひょんなことからリレーを走ったりしたが、今思えば淡い灰色経験だった。どこにも友達と笑った記憶は無いし、またやりたいなと思う記憶もないい、タブレットの写真フォルダには授業で使った教材のものしかない。
「日常っいいな」
「何耽ったこと言ってんの、高2病か」
手招きされるがまま小島に行き、またか写真を撮る。今度は瞳の友達にカメラマンを任せたのでこんどこそみんなで映ることができた。もくずさんの隣にならんだくらげは相変わらず作られた笑顔だけどやっぱり友達ととる写真はいいもんだな
風呂敷をほどき蓋を開ける。今日のもくずさんのお弁当はいつにもまして賑やかだった
レギュラーメンバーのおにぎり2つはそのまま大臣を務めるが側近には卵焼き、ミートボール、ブロッコリーを携え、すみっこには本丸である唐揚げが3人胡坐をかいていた
もくずさん本人もこのことを知らなかったようで瞳をパチクリさせている。蓋をしめ開けなおしても中身が変わらなかったので見間違いでは無い
「もくずさんが今日すっごい豪華!」
「多分おねえちゃんが張り切ってくれた」
茶色にお通し程度の白色からなる弁当をつまむ瞳が目をキラつかせると、もくずさんは唐揚げを箸でつまみ瞳の弁当に入れた
「え、いいの?」
「前ウィンナーくれたから」
極上の笑みで唐揚げを頬張る。頬っぺたが落ちるといわんばかりに噛みしめると「じゃあお返し」とデミグラスのかかったハンバーグをもくずさんの口元に運んだ
「いやいいよ」
「いいのいいの。めっちゃおいしかったから。あーん」
流されるまま口を開き食べる。
「おいしい?」
「うん。おいしい」
表情は変わらないものの朗らかになった声で返事をしたので瞳はまた微笑んだ
「いいだろー力」
「そうだな」
2度目と問い。今度はもくずさんの可憐さが見れたので素直に言う
「力哉もいいよ」
もくずさんは箸で唐揚げを掴み、俺の弁当箱に入れる。感謝しありがたく頂いた唐揚げは愛がこもったもので、口の中で余韻を響かせた
「くらげのは無いよ」
最後の唐揚げを口に運びもくずさんはそう言った
PS もくずさんの弁当はひとでが昨日の夜酔っぱら状態で作りました。火事にはお気をつけて




