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海中もくず  作者: 椎名 園学


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14/53

金沢城公園⓭

慣性に従い車内がどっと前に倒れ込む。乗車口に立っていた力哉もふらつき、勢いよく硬い何かに頭をぶつけた

「痛た」

手で頭をさすり、何に当たったかと見上げると目と鼻の先、白く端正な顔があった

「あ、すいません」

「別にいいよ」

もくずさんは気にしてないというような顔で力哉の頭をみる

「頭大丈夫?」

「なんとか。急停車で窓ガラスかなんかにぶつけたみたいで⋯ん?」

確かに硬さは窓ガラスほど硬かった。けど位置的に窓には当たらない⋯目の前にいるのはもくずさん⋯倒れ込んでぶつかったから、当たったのはもくずさんの顔よりしたの⋯⋯⋯

ここまで来た時点で力哉の顔は徐々に赤らんでいく。どこにあたったのか、信じたくはないが大まかな検討ができてしまったからだ⋯

「すっすいません‼‼‼」

謝罪で頭をさげると、自分の目線が下がり仮説は正しいと意図せず確信してしまう

もくずさんは自分の胸をこすこすさすり、続けて窓ガラスをさすった

「⋯窓ガラス⋯」

表情一つ変えない真顔で力哉をじっと見つめる。

「セクハラ⋯」

力哉は自分の軽率な発言を憎み、車内がざわめきを取り戻すまで謝り倒した


「冗談だって」

単にからかったつもりが、力哉が一人重く受けったせいで想定外に謝られることなった。が一人真剣に謝る姿がこれはこれで面白かったようでもくずさんの上頬が軽く上がっている

「やらかしたかとおもいましたよ」

「力哉が面白かったからつい」

バスを降りた二人は珍しい快晴の青空に微笑まれ、珍しい快晴の青空に微笑まれ金沢城に向かう。意図せずのトラブルもあったが、いやそのおかげで金沢に来る時より二人の表情が緩んでいく

「もくずさんって意外と喋りやすいですよね。最初合ったとき怖い人って思てましたよ」

新学期そうそう背中を蹴られ、家に帰って見かければストーカーと思われ「見せものじゃないから」と言われた力哉は最初の頃心のどこかで畏怖の念があったことは否定できない。けれど関わってか日が経つにつれそれは失われていき、今では話やすいと思えるまでになっていた

「あの時はちょっと機嫌が悪かったから、けどこんなにしゃべるのは力哉と瞳だけだよ。特に力哉は」

颯太朗を覗いてほとんど友達友達と言える友達がいなかった力哉に女友達ができ。特に他意がないことは知っているし、力哉も他意は無いが「話やすい」と言われ力哉の心臓は素直に高ぶっていた

「あ、力ー!もくずさーん!」

小動物の鼓動は早い。子犬のように元気ハツラツな瞳が道路を挟んで二人に手を振っていた。

「元気そうだね」

「瞳は昔からこういう行事が好きですから。小学校の社会見学を風で休んだ時は大泣きだったらしいですよ」

「大泣きじゃないし。中泣だし」

道路を飛び出して駆け寄った瞳は訂正する。そんなに訂正になってないが⋯

「やっぱ何事も楽しまなくちゃね」

うんうんと頷く。例に漏れず今日の遠足も楽しみだったようで、目元に珍しくくまができている。楽しみで夜遅くまで寝ることができなかったんだろう。なによりも肩からぶら下がらるパンパンのナップサックが何よりそれを示していた

「お菓子は300円までだぞ」

「ちっちっち、わかってないな少年。それは購入金額だろ?」

「というと?」

「私のこのお菓子のほとんどは一昨年からのおやつを貯めに貯めたものなんだよ。だから使ったお金は0。ふ、どうよこれぞ勝ち方」

「それ賞味期限過ぎてないの?」

冷静なもくずさんはすかさず指摘する。「あっ、」と小さく音を漏らすと立ち止まり、ナップサックからお菓子を取り隅に記載されている日付を見て回る。一周見終わると、唇を小さく寄せ目を細め、顔をしょんぐりさせた

「⋯スナック系のお菓子も賞味期限あるんだ」

乾燥しているから大丈夫とおもったのか、あることを知らなかったらしい

「せっかく力の好きなやつ持ってきてやったのに」

「私のと半分する?」

「ありがとう、やっぱりもくずさんしかいません」

よほど悲しかったのか、そういわれるともくずさんにぎゅっと抱き着く。もくずさんはわが子のように瞳の頭をさする

「いーだろ力ー」

俺を向き「へっ!!」っと顔をする

あほな茶番に付き合うことは無く、ぼーと金沢城方面を眺めて歩いていく。もくずさんも続くので、なんの反応ももらえなかった瞳もしぶしぶ歩きだした


重々しく立派な客人を待ち構える城門に圧倒され目を見開く。灰色に染まっている街中に目立って草木が立ち並ぶ金沢城公園は人間本来の5感覚を刺激する。いつからいたのか、服に止まっていたテントウムシはよちよち力哉の顔付近まで近づき、羽を広げて自然へ帰って行く。羽ばたく軌跡を追っていれば、垂れる汗を手ぬぐいでふき取っている四月一日先生がいた

「お昼の時間になったらここに集まるように」

言い終えると一斉に花が咲き開くように辺りが騒がしくなる。スカートに着いた葉っぱを手で払い仲の良い塊に集まり出した。

「んで力どこ行くよ」

「女子と回らないのか?」

「みんなは好きな男子とかとグループで回るみたい。私好きな人いないからその場にいてもつまらないかなって」

「今どきの高校生は積極的だなあ」とおじいちゃんみたいのなことを思ったけど、ああいうイケイケな男女からしたらこっち側が消極的すぎるのかもしれない。

なら3人で行くかとパンフレットの地図を見ようとすると

「あ、あのおいらもいれてくれないでやすか?」

くらげが声をかけた。

「おいら友達いないでやすから2、人で行くのならおいらも入れて欲しいでやす」

「いいけど、2人じゃなくてもくずさんもだけど」

「え、」

「私いたらダメなの?くらげ」

二人の身長差もあって見下ろすように睨むもくずさんの視線にくらげは震えながら目線をそらす。

そらされても構わぬと言わんばかりに、睨みながら近づきくらげの肩に手を置いた

「ねえ?」

「い、いや⋯だ。」

「嫌だ?」

「いや、大丈夫でやす」

頬に汗をしたらせ、早口で歓迎すると、もくずさんは瞳を緩め、肩から手をどけた

「もくずさん怖いですね」

「そんなことないよ。むしろ兄弟だから仲いい。ね、くらげ?」

「は、はい。もくずさんの言う通りでやす」

半ば強制されたようにくらげは肯定する。兄弟⋯双子でありながら「さん」をつけるほどの関係に驚くも自分も意図せず使ってしまっているので何も言えない

「近くに玉泉院丸庭園ってとこあるんだけどそこいかないか?」

「力から言うなんて珍しいね」

「兼六園じゃないんでやすね。なかなか物好きでやす」

「もくずさんがそこに行きたいらしいから」

「⋯それは最高でやす。すぐで行くやす」

急変から見るに海中家での地位の差は思っているより激しいのかもしれない。


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