第70話:お姫様になったルナ! 頼もしすぎる(?)2人の騎士
ルナが自分の足でしっかり歩けるようになってから、さらに月日が流れた。
2歳になったルナは、おめめがクリクリの、お人形で描いたような可愛い女の子へとすくすくと成長していた。
「まぁ! ルナ様、なんて可愛らしいのかしら! まるでおとぎ話に出てくる本物の妖精さんだわ!」
お部屋の中で、エレノアがルナのドレスのフリルを整えながら、黄色い声をあげて大はしゃぎしている。
今日は王宮で、国じゅうの貴族たちが集まる大きなお祝いのパーティー(舞踏会)があるのだ。ルナはお母様が仕立ててくれた、淡いピンク色のフワフワなドレスに身を包んでいた。
「あぅー、ひらひらー♪ ママ、みてみて!」
ルナが嬉しそうに小さな手を広げてトコトコと駆け寄ってくる。その愛らしさに、私は胸がキュンとして、思わずスマホのカメラのシャッターを何度も押してしまった。
「うん、世界一可愛いわよ、ルナ。……あ、大変。パパとお兄ちゃんの様子がおかしいわ」
私が振り返ると、そこには豪華な礼服を着たギルバートとレオが、背中合わせで腕を組み、ものすごく深刻な顔をして立っていた。2人の周りからは、今にも火花が散りそうなほどの濃い魔力が立ち上っている。
「ユキ、これは緊急事態だ。今日のパーティーには、他国の若い貴族や、我が国の不届きな男どもが山ほど集まる」
「そうだよ、パパ。あんなに可愛いルナを、そんな男たちの不躾な視線に晒すなんて、お兄ちゃんとして絶対に許せない!」
ギルバートとレオのアメジストの瞳が、同時にキィィィンと鋭く光った。いつもはルナを巡って張り合っている2人だが、「ルナを守る」という目的の時だけは、恐ろしいほどのチームワークを発揮するのだ。
「ちょっと、2人とも。ただのパーティーなんだから、そんな怖い顔をしないでちょうだい」
私が宥めるのも聞かず、レオはちっちゃな手をパパの手と重ね合わせ、2人で同時に魔法を唱え始めた。
「――いくよ、パパ! 術式、展開!――」
「――ああ、我が娘に近づく悪い虫を、すべて弾き飛ばす――」
ピキィィィィィィン!!!
2人の強大な魔力が合わさった瞬間、ルナのドレスの周りに、目に見えない不思議な光の膜がフワッと張り巡らされた。
「あう?」
ルナが不思議そうに首を傾げる。
「よし、これで完璧だ! パパと僕の共同開発魔法、『ルナ限定・姿が見えなくなるバリア』の完成さ! これでルナは、僕たち家族以外の人間からは、ただの『フワフワ浮いているピンク色の布』にしか見えなくなるよ!」
「うむ! これでルナに変な男が近づく隙は一ミリもない。素晴らしいぞ、レオ!」
「(……いやいやいや! パーティー会場で、ドレスだけが勝手に動いてたら、ただの怪奇現象で大騒ぎになっちゃうじゃないの……!)」
私はまたしても過保護すぎる2人に、盛大に頭を抱えてしまった。
このままだと、せっかくのルナの可愛いお披露目が台無しである。
「もう、パパもお兄ちゃんも, ルナを隠さないで。ルナは今日、みんなに『可愛いね』って言ってもらうのを、とっても楽しみにしていたのよ?」
私が優しく語りかけながら2人の過保護バリアをそっと解除してあげた。
すると、隠されていたルナの愛らしい笑顔が、再びお部屋の中にパッと現れる。
「……あ、ち・ち。――ぱぱ! おにいたん!」
バリアが消えて自由になったルナは、よちよちと2人の元へ歩いていくと、ギルバートのズボンとレオのジャケットを、左右の手でそれぞれぎゅっと握りしめた。
「ルナはね、隠れて歩くんじゃなくて、世界一カッコいいパパとお兄ちゃんにエスコートされて、堂々と歩きたいのよね?」
私が微笑んでルナの気持ちを通訳すると、ギルバートとレオは同時に顔を真っ赤にして大感動し、「うおお、ルナ……!」とその場に崩れ落ちるようにしてルナを優しく抱きしめた。
「分かった、ルナ! パパが世界一の騎士になって、誰よりもお前を輝かせてやる!」
「僕もだよ、ルナ! 悪い男が近づいたら、お兄ちゃんが指先一つで遠くへ消ん飛ばしてあげるからね!」
『ふん、主よ。結局は2人とも、ルナの甘えん坊攻撃に一瞬でハッキングされてしまったな。まあ、我の自慢の白い毛並みも、ルナの引き立て役に貸してやるぞ』
ランが足元で嬉しそうに尻尾をブンブンと振りながら、心の中で話しかけてきた。
ルナの可愛さに振り回されて、いつも大騒ぎを起こしてしまう我が家の男たち。
だけど、それだけ愛されているルナは、間違いなく世界一幸せなお姫様だ。
私はクスッと笑いながら、2人の頼もしい騎士に手を引かれて嬉しそうに歩くルナの後ろ姿を、最高に幸せな気持ちで見守るのだった。




