第68話:パパの夜なべ開発! 漆黒のゆりかごと「パパ」への執念
「……くっ、ううう……! レオ、お前というやつは……! 留守番の俺を置いて、ルナとそんなにセッション(同期)を深めていたとは……ッ!」
王宮の執務室。アラカルト領から送信した録画データを魔導スクリーンに映し出し、ギルバートはハンカチを噛み締めながら男泣きしていた。
画面の向こうでは、ルナがエレノアに抱っこされながら、レオに向かって「おにいたん!」と満面の笑みで呼んでいる。
「ギルバート、仕事中に泣かないの。ほら、書類の山が涙で濡れちゃうわよ」
領地から帰還した私が呆れ顔で声をかけると、ギルバートはアメジストの瞳をキィィィンと鋭く光らせて立ち上がった。
「ユキ、こうしてはいられない! エレノアに先を越され、レオにも出し抜かれた……! このままでは、我が愛しの娘のシステム内で、俺の父親としての優先順位が最下位に固定されてしまう!」
「いや、そこまで深刻なエラーじゃないと思うけど……」
「いいや、大問題だ! 父親の威厳にかけて、次にルナが口にする言葉は絶対に『パパ』でなければならない! 俺には俺の、最高のアプローチがある!」
そう宣言した旦那様は、その日の夜、本当に一睡もせずに自分の執務室に引きこもってしまった。
翌朝。
私が様子を見に部屋の扉を開けると、そこには目の下に薄いクマを作りながらも、狂気的な達成感を漲らせたギルバートが立っていた。その背後には、禍々しい漆黒の魔導金属で組まれた、やたらと重厚なベビー家具が鎮座している。
「……できたぞ、ユキ。俺の闇の魔術と、前世のお前のアイデア(自動化マクロ)を融合させた、ルナ専用の『超高級・漆黒の魔導ゆりかご・バージョン1.0』だ!」
「ちょっと待って、何これ!? 知育家具っていうより、完全にラスボスの玉座じゃない!」
「見た目は硬派だが、機能は完璧だ。ルナの生体ログを常に監視し、少しでも不快な波形を検知すれば、自動で最高に心地よい『微細暗黒振動』が起動する。さらに、これを見ろ」
ギルバートがゆりかごのサイドにあるボタンをポチッと押した。
『ルナ、おはよう。今日も世界一可愛い俺の娘。さあ、パパと言ってごらん? ほら、パ・パ、だぞ……』
ゆりかごのスピーカー(魔導水晶)から、ギルバートの超低音セクシーなイケメン極上ボイスが、部屋全体にエコーを伴って響き渡った。
「(……あ、アカン。旦那様もレオと同レベルのボイスレコーダー内蔵システムを作っちゃったわ……)」
私が頭を抱えていると、朝の身支度を終えたレオが、ルナを優しく手で引きながら部屋に入ってきた。
「パパ、何それ? 漆黒のベッドなんて、僕とルナの輝かしい美しさには全然似合わないよ? ほら、ルナもお兄ちゃんのボイスカードの方が――」
「いや、レオ。このゆりかごの寝心地の仕様は、お前のカードの比ではないぞ。さあ、ルナ。中に入ってみるがいい」
ギルバートはルナを優しく抱き上げると、その漆黒のゆりかごの中へとそっと横たえた。
すると、ゆりかごからポワァァァンと温かい闇の防御膜が広がり、まるで高級ホテルのベッドのような絶妙なスイングが自動で始まった。
「あぅ……うにゅぅ……♪」
あまりの心地よさに、ルナは一瞬でとろけそうな笑顔になり、ちっちゃなおててを伸ばしてゆりかごのフチをトントンと叩いた。そして、ギルバートの録音音声が再び『パ・パ』と流れた、その瞬間。
「……ぱ、ぱ! ぱぱーっ!」
ルナが、ギルバートの目をじっと見つめながら、はっきりと、そして最高に可愛らしく叫んだのだ。
「――っっっ!!!!」
ギルバートは衝撃のあまり胸を押さえてその場に膝をつき、そのままルナをゆりかごごと抱きしめる勢いで大号泣を始めた。
「呼んでくれた……! 今、ルナが俺を見て、はっきりと『パパ』と……! ああ、夜なべして全魔力を注ぎ込んだ甲斐があった……! ユキ、俺は世界一の幸せ者だ!」
「よかったわね、ギルバート。これで一安心ね」
私がクスッと笑う横で、レオは「う、嘘だ……! 僕のルナが、パパの怪しい黒魔術おもちゃに買収されるなんて……!」と、今度は別の意味でショックを受けてショボンとしている。
『ふん、主よ。これで初音レースの順位はエレノア、レオ、ギルバートの順だな。大の大人が3歳児と本気で競い合っている姿は、聖獸の我から見てもなかなか見応えがあったぞ』
足元でランが、呆れたように念話を送ってきた。
ルナに「パパ」と呼ばせたい一心で、一国の王太子が夜なべして超高度な魔導家具をリリースしてしまう我が家。
ちょっぴり過保護の方向性が暴走しがちだけれど、この溢れんばかりの愛がある限り、私たちのハッキング育児ライフは、これからもバグ知らずの無敵な幸せを更新し続けていくのだった。




