第60話:おじい様の英才教育!? 暴走する魔導具と完璧な3歳児
「レオちゃん! 私たちの可愛い天使、今日もなんて愛くるしいのかしら!」
王宮のサロンの扉が開くや否や、お母様が華やかなドレスを翻してレオに駆け寄った。後ろからは、相変わらず大陸最高峰の覇気を纏ったお父様が、口元をこれでもかと綻ばせて歩いてくる。
「おじい様、おばあ様。ようこそ僕たちの完璧な空間へ。……ふふ、二人の元気そうな顔が見られて、僕の美しき心も満たされていくよ」
レオはちっちゃな体をピシッと伸ばし、片手を胸に当てて完璧な貴族の礼(お辞儀)をキメた。3歳児とは思えないそのおませでナルシストな挨拶に、お父様は大爆笑して彼の頭を大きな手でワシワシと撫で回す。
「ハハハ! 相変わらず凄まじい自信と品格だな、レオ! よし、そんな優秀な我が孫に、本日はとっておきの『英才教育用おもちゃ』を持ってきたぞ!」
お父様が合図を出すと、従者たちが厳重に封印された黒い鉄箱を運び込んできた。
「お父様、まさかそれって……最近アラカルト領の遺跡から発掘されたっていう、古代の魔導学習具ですか?」
私がスマホの魔力スキャナーを起動しながら尋ねると、お父様は自慢げに胸を張った。
「うむ! 対象者の魔力を吸い取り、その属性に合わせた最適な『立体パズル』や『動く標的』を空間に投影する、超古代の知育玩具だ。ハンスたちが修復し、安全基準(仕様)もクリアしている。レオなら良い遊び相手になると思ってな」
「まあ、面白そう。レオ、おじい様にお礼を言って、さっそく起動してみましょうか」
「ありがとう、おじい様。僕の知性を刺激するのにちょうど良いデバイスだね」
レオは不敵に微笑むと、ちっちゃな手をその黒い鉄箱のコアへとそっと触れさせた。
ピキィィィィィィン……!
箱の封印が解け、中から美しいクリスタルの球体――『古代魔導知育球・バージョンΩ』が浮かび上がる。
だが、その瞬間、私のスマホからけたたましい警告音が鳴り響いた。
【――警告:対象物の許容量を超える規格外の魔力(レオの天才OS)がインジェクションされました。魔導具の安全リミッターが強制突破され、暴走モードへ移行します――】
「なっ……!? ハンスさんが組んだ安全制御コードが一瞬で焼き切れた……!?」
「あ、あれ……? 球体が僕の美しさに嫉妬して暴れているよ、ママ?」
レオが首を傾げた直後、クリスタル球体から禍々しい赤紫色の魔力パルスが噴き出し、サロンの広大な空間に『古代の魔導兵器(パズル仕様)』の巨大なホログラム兵隊が十数体も実体化してしまった。
「ギャァァァァァ! 何ですのこの物騒なおもちゃはーー! お姉様、レオ様をお守りいたしますわ!!」
エレノアがエプロンを翻してレオの前に飛び出そうとするが、実体化したホログラム兵が放った風の魔術に煽られ、「ひゃんっ!」と縦ロールを振り乱してソファーへ吹っ飛んでいく。
「チッ、ハンスのやつ、パッチの当て方が甘かったか……! ユキ、ギルバート、迎撃だ!」
「分かっている。我が息子を脅かすバグめ、塵も残さず消去してやる」
お父様が腰の剣を抜き、ギルバートがアメジストの瞳をキィィィンと光らせて漆黒の闇を這わせる。
最強の男たちが一触即発の戦闘態勢に入った、その時だった。
「パパ、おじい様、下がっていて。……完璧な僕の空間を汚す不細工なプログラムは、僕自身の手でリブートしてあげるから」
レオがふっと前へ出ると、その小さな両手を左右に大きく広げた。
3歳児のちっちゃな体から、王宮全体がガタガタと震えるほどの、美しく澄み渡った空間魔術のオーラがブワァァァッ! と噴き出す。
「――構築、『僕の完璧な美空間』――」
レオが指先をチッと鳴らすと、実体化していた十数体の古代兵ホログラムの足元に、まばゆい光の術式が一瞬で(それこそ一秒の遅延もなく)常駐展開された。
レオの空間魔法は、敵の構成データの座標を完全にロックオンし、その存在自体を別の空間へと弾き飛ばす「強制ログアウト魔法」だった。
ピキィィィィィィン!!! パリン、パリン、パリン!!!
「グアァァァ!?」という幻聴のような音と共に、暴走していたホログラム兵たちが、次々とガラスが割れるように空間から消滅していく。最後に残ったクリスタル球体も、レオが「めっ、だよ」とちっちゃなおててでペシッと叩くと、完全にその機能を停止して静かに床へと転がった。
【――エネミーデータの強制削除を確認。室内空間の同期、正常化――】
私のスマホの画面に、完全なる勝利のログが流れる。
静まり返るサロン。3歳児が、大人でも手こずる古代の暴走魔導具を、たった一瞬のオリジナル魔法で完全制圧してしまったのだ。
「……ふぅ。やっぱり、僕の魔法は今日も100点満点だね。お洋服も汚さずに処理できたよ」
レオは流れるような動作で髪をサッと掻き上げ、満足げに鏡に向かってポーズを取った。
「「「「……(言葉を失う大人たち)」」」」
「す、素晴らしいわ、レオちゃん! 3歳にして空間の多重ハッキングをこなすなんて、やっぱり天才、いえ、神童だわ!!」
お母様が我に返って大歓声をあげ、お父様も「ハハハ! さすが我が孫だ! 英才教育など必要なかったな!」と豪快に笑い飛ばす。
「まったく、誰に似てあんなにナルシストで規格外に育ったのかしらね……」
私が呆れたように呟くと、隣にいたギルバートが、これでもかと誇らしげに胸を張って私の肩を抱き寄せた。
「俺の最高の血筋(魔力)と、お前の最高の頭脳(SEの遺伝子)が合わされば、あのように完璧な存在が生まれるのは必然(仕様)だよ、ユキ」
「……うん、一番のバグの原因は、目の前の旦那様だったわね」
私はクスッと笑いながら、鏡の前でおじい様たちにドヤ顔をキメている愛しい息子を見つめる。
天才で、ちょっぴりおませで、最高にナルシストな我が子。この子がこれからどんな風に成長し、どんな新しい日常をリリースしていくのか、エンジニアママとしての私のデバッグライフは、ますます目が離せないものになりそうだった。




