第58話:要塞大爆破! 正妻のリブートとただいまの抱擁
「な、何だこの光は……!? 結界が、グラシエ要塞の対魔導システムが、内側から完全に破壊されていく……っ!?」
手首の枷を破壊され、本来の聖魔力を取り戻した私の周囲で、空間そのものが悲鳴を上げるようにパキパキと音を立てていた。
スマホの画面には、周囲の敵の生命反応と要塞の構造ログが、鮮やかな赤色で一斉にロックオンされている。
「エレノア、ギルバート、ラン! 全員私の背後に! ――この最果ての監獄ごと、バグの根幹を力ずくで一括削除しますわ!」
私が両手を高く掲げると、部屋全体の空気が純白の聖光の質量でビリビリと震え出した。
「ひぃっ、お、お助け――」
命乞いをする暗殺隊長たちの声を置き去りに、私の指先から、太陽の表面温度をも超える超・極大の聖光魔術が解き放たれた。
「いっけぇぇぇぇ! ――『聖光・要塞全域消滅砲』――ッッ!!!!」
ドガァァァァァァォォォォォンッッ!!!!
永久凍土にそびえ立っていた不気味なグラシエ監獄要塞が、内側から放たれた純白の光の奔流によって、まるで紙細工のように一瞬で消し飛んだ。
過激派の残党も、不気味な拷問器具も、私を閉じ込めていた冷たい石壁も、すべてが光の粒子となって文字通り「更地」へと還っていく。
煙が晴れたあとに残されたのは、美しいガラス状に溶けた広大なクレーターと、突き抜けるような青空だけだった。
「……ふぅ。やっぱり、自分の魔力で動かすシステム(魔法)が一番馴染むわね」
私が額の汗を軽く拭いながら微笑むと、私の背後で最大出力の防御バリアを張っていたメンバーが一斉に息を吐いた。
「見事だ、ユキ。……だが、もう二度と俺の目の届かない場所へ行かないでくれ。お前がいない数時間は、俺の人生で最も暗い絶望だった」
ギルバートがたまらず私を後ろから強く抱きしめ、愛おしそうに首元に顔を埋めてくる。その腕の強さに、私も「心配させてごめんね」と優しくその手を握り返した。
「本当に、お姉様のフルパワーは次元が違いますわ……! 敵の拠点を丸ごと更地にするなんて、スカッといたしましたわ!」
エレノアがキラキラとした目で私を見つめ、熱烈な拍手を送ってくれる。
『ふん、主を怒らせたらどうなるか、これで作戦の送信元(帝国の過激派)も骨の髄まで理解しただろう。さあ、我が主、ギルバート。王宮で待つレオの元へ帰るぞ!』
本来の大きな姿から、いつもの可愛い子犬サイズにポンッと戻ったランが、嬉しそうに尻尾を振った。
◇◇◇
その日の夕方、王宮の我が家。
「ばぶっ! まーま! ぱぱーっ!」
リビングの扉を開けた瞬間、お留守番をしていた1歳半のレオが、短いあんよでトコトコと力一杯こちらに向かって駆け寄ってきた。
「レオ……! ただいま、お待たせしてごめんなさいね!」
私は床に膝をつき、飛び込んできたレオの小さな身体を、これでもかと愛おしそうにぎゅっと抱きしめた。ギルバートもその上から、私たちを包み込むように大きな腕で抱きしめてくれる。
家族の温かさが身体中に染み渡り、初めてのピンチを乗り越えた実感が、じわじわと涙となって溢れそうになる。
「あうー! えれ、あーじゅ!」
パパとママへのハグが終わると、レオは私の後ろに控えていたエレノアを見つけ、ちっちゃなおててを振って「抱っこ」のポーズを取った。
「ま、まあ……! レオ様、私をお呼びになって……っ!? お姉様、見てくださいまし! レオ様が私に懐いてくださっていますわ!」
エレノアは感激のあまり涙目を輝かせ、レオを壊れ物のように優しく抱き上げた。
一度は裏組織の罠にかかり、泥棒猫として侵入してきた王女だったけれど、今や彼女のOSは、完全に我が家の「最強のシッター兼妹分」として完璧に最適化されていた。
「ユキ、今回はエレノアの機転に救われたな。レジスタス帝国との関係も、これで完全に我が国が主導権を握る形になる」
ギルバートが私の肩を抱き、不敵に、けれど優しい笑みを浮かべる。
「ええ、そうね。でも、一番の収穫は――どんな手強いバグ(敵の陰謀)が来ても、この最強の家族(過保護ネットワーク)で全員一丸となれば、絶対に解決できるって証明できたことよ!」
胸を張る私の腕の中で、レオが「キャッキャ!」と元気いっぱいに笑う。
恋の嵐も、他国の陰謀も、私たちの前ではただの経験値(デバッグの糧)に過ぎない。新米ママとしてのハッキング育児ライフは、頼もしい仲間を加えて、これからもどこまでも幸せに続いていくのだった。




