第55話:公認のパシリ王女!? 実家への帰還と新しい開発体制
「――というわけで、父上である帝国皇帝陛下から、正式に『王国長期滞在親善大使』としての親書が届きましたわ、お姉様!」
数日後の朝、エレノアはレジスタス帝国の美しい紋章が入った書状を両手で恭しく私に差し出してきた。
彼女の兄である過激派皇子の暴走と、エレノア自身の夜の不法侵入。それらを我が国が大人の対応で不問に付す代わりに、平和派の現皇帝が「エレノアを人質兼シッターとして王国に常駐させる」という超現実的な政治的決着(仕様変更)を着けたのだ。
「これで堂々と、お姉様とレオ様のために公的にパシリ……いえ、お仕えすることができますわ!」
「ええ、よろしく頼むわね、エレノア。身分は帝国の王女のままだから、建前上は外交官としてのお仕事だけど、本質は我が家の頼れるアシスタントなんだから」
私が微笑むと、エレノアは「はいっ!」と嬉しそうに胸を張った。すっかり我が家のシステムに馴染んでいる。
◇◇◇
私たちはエレノアを連れて、久しぶりに私の実家であるアラカルト公爵領へと帰還していた。
目的は、1歳半になったレオの成長お披露目と、私が新しく設計した『知育マッチングカード・ひらがな版』の量産化計画だ。
「まぁ、レオちゃん! トコトコ歩けるようになって、本当にかわいいわねぇ!」
公爵邸の広大なサロンに到着するなり、お母様がレオを抱き上げて満面の笑みを浮かべた。お父様も「うむ、歩き方にアラカルト家の武の血脈(体幹の良さ)を感じるぞ」と嬉しそうに目を細めている。
「お初にお目にかかります、アラカルト公爵閣下、夫人。レジスタス帝国が王女、エレノアです。この度は、ユキお姉様の忠実な下僕として同行いたしましたわ」
エレノアが完璧な帝国式の礼を披露すると、お父様とお母様は一瞬だけ驚いたように顔を見合わせたが、すぐにいつもの豪快な笑顔に戻った。
「あらあら、帝国の王女殿下が、うちのユキのパシリになられたのね? 良い人手が増えて素晴らしいわ。ユキ、これなら新作カードの流通作業も一気に進みますわね」
「うむ。我が娘ながら、他国の王女を一瞬で分からせて配下に加えるとは、さすがの統率力だな。ハハハ!」
実家の両親のブレない強者オーラに、エレノアは「お、お姉様のご家族、皆様どことなく覇気が常軌を逸していらっしゃいますわね……」と私の後ろに隠れてガタガタと震えている。
「お嬢様! ギルバート殿下! お久しぶりです!」
サロンの扉が開き、実家の領地で工房を構える職人連合のハンスさんが、大きな木箱を抱えて元気よく入ってきた。
「ハンスさん、お久しぶり。待っていたわ。スマホの図面データ(仕様書)を魔法通信で送っておいたけれど、試作品の進み具合はどうかしら?」
私が尋ねると、ハンスさんは胸を張って木箱を開けた。
「バッチリです! お嬢様の指示通り、1歳半の赤ちゃんが少々乱暴に扱っても絶対に破れない『特殊魔導圧縮紙』を使用しました。さらに、表面にはお嬢様の聖魔力を薄くコーティングしてあるので、レオ様がカードに触れて『ひらがな』を発音すると、その文字が優しくキラキラと発光する仕組み(音声連動ギミック)を物理的に実装してあります!」
ハンスさんが取り出したのは、丸みを帯びた安全な形状の、美しい色彩で描かれた「言葉カード」だった。 野菜、動物、そして日本の伝統的なモチーフが、小さな子供の目にも止まりやすい鮮やかな色合いで印刷されている。
「ばぶっ! とまと、くるま!」
レオが嬉しそうにトコトコと駆け寄り、ハンスさんの持ってきた試作カードを手にとって、おててをパチパチと叩いた。
「素晴らしいわ、ハンスさん。これならイヤイヤ期の子供でも、おもちゃ感覚で楽しく言葉のデバッグ(学習)ができるわね。量産体制に入りましょう」
私がスマホでカードの魔力安定度をスキャンしながら太鼓判を押すと、ハンスさんは嬉しそうに笑った。
「よし、エレノア。さっそく仕事よ。ハンスさんの工房と連携して、このカードを全国の託児施設や一般の家庭に届けるための、物流ルートの確認と書類作成の手伝いをお願いできる?」
「はい、お姉様! 帝国の最高峰の事務処理能力(王女教育)、今こそお見せいたしますわ!」
エレノアは袖をまくり、やる気満々でペンを握った。
恐怖から始まった関係だったけれど、彼女は今、自分の持つ能力をこの新しい家族と、レオの未来のために使うことに、本気で生き甲斐を感じ始めているようだった。
過保護な旦那様のギルバート、最強の実家の両親、職人たちの技術、そして心強い(?)パシリの王女。
すべてが一つに繋がった私たちの新プロジェクトが、今、アラカルト領から世界に向けて力強くリリースされようとしていた。




